2009年04月03日05時31分掲載
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世界経済
ロンドン金融サミット、巨額支援に合意で閉幕 国民の怒りは氷解するか?
ロンドンで開催されていたG20金融サミットは、経済支援が必要な国を助けるため、国際通貨基金(IMF)の資金基盤を現在の3倍となる7500億ドルまで増強するなど、総額1兆ドル(約100兆円)規模の国際支援を行うことで合意し、閉幕した。金融危機の再来を防ぐために規制・監督体制を厳格にするなどの施策も宣言に入れた。各国から集まった首脳陣は、「グローバルな経済問題を解決するためのグローバルな合意が短期間で成立したのは画期的」とし、今回のサミットの主導者ブラウン英首相を持ち上げた。サブプライムローンの焦げ付きに端を発した金融危機を最終的には税金でまかなう顛末に、はたして各国の国民は納得するだろうか?(ロンドン・サミット会場にて=小林恭子)
2日夕方、G20サミット宣言を「リーダー(主導者)」として発表したのはブラウン英首相だった。「私たちは、世界経済の大きな挑戦に直面しているー。世界中の女性、男性、子供たちの生活が影響を受ける危機は一層深まっている。世界中の各国が共に解決しなければならない。グローバルな危機にはグローバルな解決が必要だ」−。開口一番、ブラウン首相はこう言い切った。
「グローバルな危機とグローバルな解決」の文句は、欧州委員会委員長、スペイン、オランダの首相、オバマ米大統領などの会見でも繰り返された。
サミットの目的は未曽有の危機に見舞われた各国に「自信、成長、雇用」をもたらし、「金融体制を修繕して貸出しの開始を促し」、「危機に打ち勝ち、将来の危機を防ぐために国際的な金融機関に出資し、かつこれを改革し」、「世界の貿易と投資を奨励し、保護主義を拒絶し」、環境に配慮しかつ持続可能な回復をもたらすことだった。
首脳陣の閉幕宣言は:
―銀行の経営陣の報酬政策を監視する
―金融安定化フォーラムを「金融安定化ボード(委員会)」と改名し、国際通貨基金(IMF)と協力して金融体制に不備はないかを監視する仕組みを作る
―ヘッジファンドや格付け機関の規制監督を強める。
―銀行の不良資産の処理には、国際的に共通のアプローチを取る。
―IMFの融資枠を現行の3倍増の7500億ドルに引き上げる(5000億ドルの増加)、2500億ドルの特別引出権の設定、貧困国への追加支援1000億ドルなどを含む、1兆1000億ドルに上る国際支援を行う。
―2010年末までに、参加国による財政刺激策は5兆ドル規模に上る見込み(刺激策自体の具体的な提案は入らず)。
▽「歴史的」とオバマ米大統領は述べたが
オバマ米大統領は、ロンドン・サミットを「歴史的」と評した。「これほどの大きな危機に直面していたことはなく、これほど迅速に大規模な合意に至ったのは」これまでになく、サミットは経済回復の「ターニング・ポイントになり得る」、と述べた。
しかし、ブラウン首相が高らかに支援額の数字を並べるたびに、筆者は何やら空恐ろしい思いもした。おもに米国および英国の銀行がリスクの高いビジネスを世界的規模で行った結果、世界の金融体制に大きな穴があいた。その穴を埋めるのに、大規模な財政出勤、つまるところは国民の巨額税金拠出で解決する構図が見えたからだ。
「路頭に迷う国民にとって、このサミットの合意はどんな意味合いを持つのか?」−そんな質問がブラウン首相の、ザパテーロ・スペイン首相の、そしてオバマ氏の会見でも繰り返された。
国の指導者の答えはいつも同じだった。「この合意が実行に移されれば、国民はこれから安心できる。雇用が生まれるし、金融機関を安心して使える」。
また、富裕層の税金払いのために使われているとされるタックス・ヘイブン(租税回避地)を厳しく管理する(タックス・ヘイブンに厳しい態度をとらない国のリストを公表するなど)策、「シャドーバンク」(影の銀行)とされるヘッジファンドの規制など、「税金逃れはこれからは許されない」という方針を、ブラウン首相は繰り返した。
しかし、「今後は」安心して生活できるという主張を信じたとしても、過去の清算はどうなるのだろう?
2007年9月の取り付け騒ぎ(BBCのスクープ報道が一因)で急速に破たんの道に突入し、08年2月に国有化された、住宅金融大手英ノーザン・ロック。株主は国有化時点で、持っていた株がパーになった。政府は元株主への補償金を出すと決めていたが、今年3月末時点で、未だその額は決まっていない。国有化された他の銀行の経営陣への巨額賞与の支払いも、大きな問題になっている。
サミット前に起きたサミット抗議デモで、参加者が一様に言っていたのは「もともとの種をまいた銀行家だけを、政府は何故助けるのか?」だった。
銀行だけが悪いと見るのはバランスにかけている、とする見方もある。頭金ゼロでも住宅ローンが借りられるなど、甘い審査の貸し出し基準に恩恵を受けていたのが国民であったのは事実だからだ。銀行だけでなく、国民も、リスクの高いビジネスを利用していたのだ。
しかし「銀行の失敗をなぜ国民が負うのか?」という問いは、今や怒りになって英国民、米国民の中にある。サミット宣言は果してこの怒りを氷解させることができるだろうか?
「国民と金融機関だけでなく、ブラウン首相の関与も忘れてはいけないね」とスペインの通信社のロンドン特派員が、サパテーロ首相の会見後に、筆者に語る。1997年、金融機関を監視する「金融サービス庁」(FSA)を作ったのは、ブラウン首相(当時蔵相)だった。昨年9月就任したばかりの、ターナーFSA会長は「規制が甘かった」とする報告書を先月中旬、出した。果たしてブラウン氏は「自分は関係ない」と言っていられるのだろうかーそんな思いもわいた。
サミットを取材するためにバングラデシュから来たジャーナリスト、シャフィクル・イスラム氏は、「貧国国への支援が合意に入っているけれど、実際、バングラデシュやそのほかの貧困国に本当に支援が提供されるとは思わない」と語る。「IMFの資金増強も、英国や米国の金融機関に流れるのではないか?」
様々な不安、懸念、疑念が錯綜する、サミット会場だ。
G20参加国首脳は「ありとあらゆる手段を講じて」、世界の金融危機に対処し、経済の好転、雇用の増加に努めると誓った。今年中に次のサミットを開催し、誓約の進行度を確認する予定だ。
フィナンシャル・タイムズのジリアン・テット記者が2日付紙面で触れていた、「不良債権問題」に関して、首脳合意も言及していた。オバマ大統領も不良債権に関して、数度、会見内で触れた。やはり、気にかかっているのであろう。景気回復のための財政出勤が効果を出してくるまでの時間と、不良債権やそのほかのマイナスの要因の拡大のスピードの、どちらが早いだろうか?
(「ニューズ・マグ」同時掲載)
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