2009年04月16日10時03分掲載  無料記事
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中国

「三無患者」はお断り 市場経済化で仁術より金儲けを優先する病院

  金がなければ治療はしない―極端な市場化が進む中国では、医療の経済格差が歴然としている。「治療が受けられない。治療費が高い」は誰もが認めるところだ。そんな中、広州市の衛生局副局長が「世界中で中国がいちばん医療が充実し、治療費もいちばん安い」と発言して世論の大反発を食らった。病院の儲け主義もはなはだしく、胃痛で診察を受けたある患者は、12キロもの薬を渡され、1万元あまりを請求されたという例もある。その一つの例を福建省の病院に見る。 
 
 09年3月3日午後9時すぎ、福建省晋江市内の陶磁器工場に勤める王開貴さんは、通りを歩いていた際、腹部に激痛が走り、そのまま気を失って地面に倒れこんだ。それを見た通行人が120番(救急専門の電話番号)に通報し、王さんは市内の水仙病院に担ぎこまれた。 
 王さんが病院のベッドの上で意識を取り戻すと、医師は検査をするため手錠を取り出し、王さんの右手をベッド頭部のフレームにつないだ。王さんはなぜ手錠をかけるのかと尋ねたが、医師は答えなかった。しばらくして医師は王さんを2階に連れていき、またもやベッドに拘束した。王さんは何度も手錠をはずすよう要求したが、看護師らは誰も取り合ってくれなかった。 
 
 翌日午後、王さんの勤務先の責任者が警察に通報すると言うと、医師はようやく手錠をはずした。同病院の責任者は小誌のインタビューに対し、今までたくさんの患者を治療してきたが、中には治療後に医療費や薬代を払わないまま立ち去る人や、アルコール中毒で暴れたり、看護師に暴力を振るう患者もいたため、その防止措置をとっていると述べた。しかし、泉州市公安局の黄氏によれば、病院側のこのような行為は明らかに違法だという。 
 
 近年、金なし・家族なし・身分証明書なしの「三無患者」が、治療費の支払い能力がないために、病院に受け入れを拒否されるという事件が起きており、多くの人々が病院側の「見殺し」を非難している。 
 これはデッドラインであり、生命の尊厳は何にも勝る。医学は単なる技術ではなく、人類愛の延長線上のものであるはずだ。人にたとえて言えば医学は、技術がなければ胴体がないも同じ、精神がなければ魂がないも同じ。どんな状況であれ、医師が患者を見殺しにすることは医学の精神にもとる。ある時期から、看護師の「白衣の天使」という色合いはしだいに褪せてきており、それに取って代わっているのが、金銭と情の薄さである。 
 
 「見殺し」が起きる原因は、医療機関の市場化が極度に進んで、経済効果を上げることばかり追求したことと、関連する制裁措置を法律が規定しなかったことによるところが大きい、というのがある学者の見方だ。 
 南寧市救急医療センターの副主任・梁敏栄氏は、「病院としてはぜったいに見殺しなどできませんが、医療費がいつまでも支払われないという、やむを得ない事情もあるのです」と語る。南寧市衛生局の統計によると、近年、市内にある13の医療機関の赤字は1660万元(約2億4000万円)以上にのぼっている。救急にかかり、病状が良くなると行方をくらます患者がおり、医療費がまったく支払われないという現象が起きているのだ。ある病院では、患者が逃げると、それまでにかかった費用を担当していた看護師に負担させ、給与から天引きする規定になっているという。こんな規定があれば、見殺しが起きるのも当然だ。 
 
 今度の医療改革でこういった状況をなくすことができるのか。これについては、医療保険や公立病院改革といった大原則がカバーしているようではあるが、改革方案では具体的に言及されていないというのが実情である。 
 
 しかし地方の衛生局では、医療改革にともなって新たな対策がとられている。広西チワン族自治区の南寧市では、3月1日から『南寧市社会救急医療管理条例』が施行された。救急医療ステーションは、120番通報管理センターの指令を受けてから5分以内に救急車を出動させなければならない。万が一「見殺し」を行った場合、最高5万元の罰金を科す、というものだ。 
 また広州市衛生局は全国に先駆けて、『広州市社会救急医療管理条例(修正草案)意見募集稿』を起草し、3月中旬から1ヵ月間、広く意見を求める。2010年には、患者が広州のどこにいたとしても、直近の救急医療ステーションから5分以内に救急車が出動し、救援に向かうことになる見通しだ。広州市救急医療指揮センターの黄毅主任によれば、道路状況や交通渋滞などの影響があるため、通報管理センターの指令を受けてから5分以内に出動することだけを義務づけ、到着時間には規定を設けなかったという。 
 
 患者の医療費未払いについて、南寧市の条例は次のように規定している。職工基本医療保険、居民基本医療保険、または新型農村協力医療保険に加入している者は、関連の規定に基づき医療費を清算すること。定住地のない浮浪者、物乞い、身分不明者は公安、民政部門の審査後、生活支援対象者として、その救急費用は民政部門が救助管理費から捻出する。 
 
▽広州市、審査制度の確立へ 
 
 同様に広州の新草案も、浮浪者や物乞いをする者で、重篤な傷病のある者の治療費については、救急医療機関が負担すると規定。また、救急医療業務の監督と管理を強化し、審査制度と相応の法的措置、処罰条項を確立するとしている。 
 
 政府による生命尊重の動きは、大衆は大歓迎だろうが、病院側にとっては誰が医療費を払うのかを考えれば複雑であろう。病や傷をいやすという職責を果たしても、その対価が支払われないのでは、まったくやるせない。ある学者は、わずかな規定に頼ったところで、「金のない患者は来るべからず」という不当な扱いは、なくならないのではないかと述べている。 
 病院の公益性を高め、利益ばかり追求させないことが、病院による「見殺し」をなくす抜本策だ。政府には、専用の資金を用意して救急医療の赤字を補填することを提案する。それとともに、より細やかで運営しやすい医療・救急制度を整え、病院−患者間の矛盾を軽減し、病院が人道主義を掲げて治療したあとの「後顧の憂い」を取り除いてもらいたい。 
 
原文=『亜洲週刊』09/4/5 江迅記者 
翻訳=佐原安希子 


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