2009年07月18日11時27分掲載
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中国
『不機嫌な中国』が発売3ヶ月で100万部に 民族主義の主張に世界が注目
中国で「極左」人士として知られる宋強氏ら5人が、『ノーと言える中国』に続く、強い主張の論文集『中国不高興味』(不機嫌な中国)を出版し、内外の注目を集めている。『ノーと言える…』当時より老成した著者たちがどんな主張をしているのか、繁体字版が出品される香港ブックフェアを前に、『亜洲週刊』が取材した。(納村公子)
今回の香港ブックフェア(7月22日〜28日)は非常に規模が大きく、議論の種がやたら多いところが「売りもの」かもしれないね、と多くの人が言っている。話題の一つはまぎれもなく、政論書のベストセラー『中国不高興(不機嫌な中国)』だ。著者は依頼を受けてブックフェアで講演も行う。刊行後3ヶ月、そこに書かれた見解をめぐる人々の議論はいまだ冷めやらない。興味深い点は、著者の何人かが、「職業が怪しい」または「テーマが敏感」という理由で出国を頓挫させられ、新たな話題になったことだ。
宋強・宋暁軍・王小東・黄紀蘇・劉仰の共著である『中国不高興』大陸版は、北京鳳凰聯動文化伝媒有限公司から刊行され、3ヶ月で発行部数100万部を超えた。香港では中華書局(香港)有限公司から、台湾では印刻文学生活雑誌出版公司から出ている。
5人の著者は、「中国は不機嫌である」「西側に陰謀あり」「内政状況の改善が必要だ」「外交は力をもってせよ」「大いなる時代には大いなる目標が必要」と提議し、中国は戦略上自分の手足を縛っていてはいけない、とする。
宋強は、香港行きの手筈が順調に整えば、本が出版されて3ヶ月後の新しい考えをもって香港の読者と交流したい、と話す。
「中国は国内の改革と、国際社会での台頭との臨界点に直面している。前進を妨げているのは大きな目標の欠如だ。人心をひとつにまとめ民主化を推し進めるのは政府だけが負うべき任務ではなく、有識者の任務でもある。すなわち『英雄国家』が目指すものと密接な繋がりを持つ文化の階層だ。それは『逆人種差別主義』と歴史浪漫主義への清算を内包している。民主自由と国家の利益は矛盾しない。
現に、『中国不高興』は、中国の知識人が言論の多元化を追求したことと民間の声が、世情と政情に影響を与えた良い見本となる例だ。国内外の関連報道の中で、この本の出版は出版界の制度改革にも結び付き、さらに前向きな将来の展望を開いた」
黄紀蘇はこう話す。「国の利益というものを認識し、それを保護することを知識人たちは学習するべきだ。五四運動から今日までの間に、国際環境は大きく変化した。中国の地位も今は昔の比ではない。もしも我々が、文化の面でいかに西側諸国に追いつくかということだけを議論するなら、西側の利益追求のやり方に基づいて構築された国際秩序の中で、いかにして国の利益を考え護っていくかについての答えは得られないだろう。それは職務怠慢に他ならない」
宋強と黄紀蘇は次の認識で共通する。西側諸国は資本と技術力、そして彼らが決めた自分達だけに有利なゲームのルールのもと、発展途上国からかけがえのない財産を略奪しているのだ。皮肉なことに、全ては「グローバル化」と「価値の普遍化」の名のもとに行われている。もしも中国が、彼らと利益獲得を賭けた勝負をする必要があることに気付かなければ、感謝に満ちた気持ちで彼らに際限なく膏血(苦労して得た収益や財産)を進呈することにさえなりかねない。しかし、中国人がもう少しだけ、国の利益を護りたいという望みと冴えた脳みそを持てるなら、『中国不高興』が生み出した震動の中から啓示を得ることは難しくない。
宋強は『中国可以説不(ノーと言える中国)』の執筆者の一人。黄紀蘇は社会学者で、現代劇『チェ・ゲバラ』の脚本を手がけた。王小東は中国青少年研究センター副研究員。宋暁軍は中国船舶工業総合技術研究院の研究員。劉仰は北京五洲伝播センター『東方視点』工作室の編集責任者で学者でもある。
この政論書は次のことを主張する。国内の人権状況改善、外国との主導権争い、西側への制裁、内部の裏切り者の粛清、中国の発展には膨大な数の大衆を抜きには考えられないこと。不屈の意志を貫き、長年続く衰退状況からの失敗主義ムードをはびこらせない。剣を持ってビジネスに向かい、金融戦争をもてあそんだりせず、産業のランクアップを実現させることこそ、未来の中国が歩むべき道だ。そして世界秩序を再構築してやるくらいの壮大な志を持たなければいけない。欧米人が独善的なのは我々が甘やかしてきたせいだ。アメリカの世界制覇を許してはならない。西側と条件つきで決別をすることは中国にとってやむをえない選択だ。西側諸国は中国の「不機嫌さ」を直視するべきである。
ある人はこの本の著者たちを、「偏狭ナショナリズム」を扇動する極左民族主義思想の台頭だと言い、またある人は、今の中国が最も必要とする気骨だと言う。『中国不高興』は多くの批判を受けたが、新浪ネットの民間調査によると、65%のネットユーザーがこの本の見解に賛意を示している。13年前、『中国可以説不』は西側世界を震撼させたが、その13年後に『中国不高興』が再び世界のメディアの関心を集めている。
誰かが40年あまり前の『没頭脳和不高興(馬鹿と不機嫌)』の話を引き合いに出した。大陸では誰もが知っているアニメ映画だ。
「馬鹿」と「不機嫌」は、ひょうきん者のコンビである。前者は何をするにも忘れっぽく、後者はいつも竹竿を持って不機嫌そうにしている。二人は早く大人になって何か一仕事を成し遂げ、人に見せつけたいと思った。するとその瞬間、「馬鹿」はエンジニアに、「不機嫌」は役者になっている。「馬鹿」が設計した1000階建ての少年宮が完成するが、設計図にエレベーターを書き込むのを忘れたために、人々はまるまる1カ月も階段を上り続けなければ最上階のホールに辿り着けない。
虎の役を演じる「不機嫌」は、虎を演じるのをたいそう嫌がっていたが、舞台で発奮し、不死身の虎となる。果たして「不機嫌」は愚かだったのか、それとも「長いあいだ才能や計略を隠して表に出さない」ことが人を不機嫌にさせるのか。
この本の見解に賛同するか否かは別として、民族主義の声を軽視することはできない。
編注:宋強・黄紀蘇は今年、本誌と香港ブックフェアが共催する「名作家講座シリーズ」の講演者である。
原文=『亜洲週刊』2009/7/12 江迅記者
翻訳=吉田弘美
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