2009年08月13日00時26分掲載
無料記事
http://www.nikkanberita.com/print.cgi?id=200908130026264
《インターナショナルヘラルドトリビューンの論客たち》(2) アフガンからの撤退を説く元CIAカブール支局長グラハム・フラー 村上良太
オバマ政権は米軍のイラク撤退の傍ら、アフガニスタンではタリバン制圧に向け、米軍を増派する方針を打ち出しています。しかし、アフガニスタンが泥沼化すればオバマ政権の命取りになりかねない、という論者もいます。グラハム・フラー(Graham Fuller)です。フラーは「ヘラトリ」論壇の常連ではありませんが、中東については影響力を持つ論客です。CIAの元カブール支局長だからです。フラーは最近、「アフガニスタンから撤退せよ」とヘラトリで警鐘を鳴らしています。
フラーによると米軍がアフガニスタンから撤退すべき理由は、パキスタンとの国境沿いに展開している米軍が地元のパシュトゥーン族の感情を傷つけているからです。パシュトゥーン族はアフガニスタン側に1300万人、パキスタン側に2800万人存在します。ここに国境線が敷かれたのは過去の植民地支配によるもので、両国を分ける発想は幻想に過ぎないとフラーは言います。
タリバンも属するこのパシュトゥーン族は非常に民族的で排他的な部族です。したがって彼らは外国から来たアルカイダの指揮するイスラム聖戦に参加する願望は持っていません。それにも関わらずアルカイダと組むのは米軍やNATO軍が駐留しているからだとフラーは言います。これでは悪循環以外の何者でもありません。米軍の駐留が地域の人々を刺激し、むしろタリバンを活気付けていることを米政府は認識すべきだとフラーは説きます。
■16か国語をマスター
アメリカ政府の方針を公然と批判する元CIA局員。一体、グラハム・フラーはどんな人なのでしょうか?
1988年2月15日付けのニューヨークタイムズによると、「外国語をどう学ぶか」という本を書いています。フラーは16ヶ国語を学び、特にロシア語、トルコ語、アラビア語、中国語は堪能。またフランス語、ドイツ語、ペルシア語もまずまずできるそうです。本当ならすさまじい語学力です。
■CIAの出世コースを上る
さらにフラーの経歴を見つけました。
2006年、ボストン大学で講演(Campagna-Kerven講演)を行った時の紹介文です。
学生時代はハーバード大学でロシアおよび中東地域を専門に学び、CIA時代はドイツ、トルコ、レバノン、サウジアラビア、北イエメン、アフガニスタン、香港に駐在しています。
先ほどの16ヶ国語マスターのことを思い出せば、まさに派遣された国の数だけ語学もマスターしたかの印象です。一体CIA局員は皆、派遣された国の言語をいちいち覚えるものなんでしょうか?すごくまめな人のように思われます。
■冷戦後の世界を構想 イスラム世界にスポットを当てる
1982年にはCIA国家情報分析官に任命され、さらに国家レベルの戦略を統括するCIA国家情報分析会議・副議長になります。そして1988年にCIAを退官。以後12年は民間シンクタンク、ランドコーポレーションに在籍します。研究テーマは中東・アジアにおける人種と宗教の問題とあります。これを解釈すればアメリカの国益のためにイスラム教徒をどう動かすか、ということではないでしょうか。
研究リストには「トルコ、スーダン、アフガニスタン、パキスタン、アルジェリアにおける原理主義の研究」とか、「パレスチナのインティファーダにおける地政学的考察」などがあります。
つまりランドコーポレーションで2000年頃までイスラムと地政学の研究に打ち込んでいたことになります。1991年のソ連崩壊後、イスラムという「敵」がクローズアップしてきたわけですが、そうしたイスラムに関する研究が当時、アメリカのシンクタンクで盛んに行われていたことを感じさせます。
草の根ジャーナリズムを実践しているNPO「History Commons」のサイトにフラーのインタビューが出ています。レーガン時代、イランに武器を輸出をしていたイラン・コントラ事件や
1985年、レーガン政権によって承認された作戦(米軍とパキスタン軍がアフガニスタン武装勢力を訓練し、ソ連領内を直接攻撃させる作戦)などの重要な証言者だということです。
先述のボストン大学での講演資料によると、フラーはニューヨークタイムズ、ワシントンポスト、ロサンゼルスタイムズ、クリスチャン・サイエンス・モニターなどの大新聞に頻繁に寄稿するほか、ABCテレビの「ナイトライン」、CNN,PBS、FOXなどのテレビやBBCラジオなどいくつかのラジオ放送でもコメントしているようです。
このことからも相当の影響力を持つ論客と言えるでしょう。しかし、アフガニスタンからの撤退を勧めるフラーの意見は現実のアメリカ政治の中で実際にどのような力を持ってアメリカを動かしていくのでしょうか。こうした論の力についても今後その実像を探っていきたいと思います。
Copyright (C) Berita unless otherwise noted.
日刊ベリタに掲載された記事を転載される場合は、有料・無料を問わず、編集部にご連絡ください。ただし、見出しとリード文につきましてはその限りでありません。
印刷媒体向けの記事配信も行っておりますので、記事を利用したい場合は事務局までご連絡下さい。