2009年09月08日12時25分掲載  無料記事
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中国

「国家転覆扇動罪の根拠を示せ」 立ち向かう浦志強弁護士 工場反対運動で逮捕の活動家裁判で 

  四川省成都市近郊に建設予定の石油化学工場に反対するため、白い紙をただ手にするという静かな抗議活動を行い、良識ある市民の賛同を得た譚作人が逮捕され、「国家転覆扇動罪」で告発された裁判で、被告弁護人となった浦志強弁護士、夏霖に「亜洲週刊」がインタビューした。中国憲法でうたっている言論の自由、表現の自由は何のためにあるのか。司法が独立していない(三権分立がない)中国で、果敢に当局に立ち向かうインディペンデント弁護士、浦志強らの存在に注目したい。(納村公子) 
 
 2009年8月12日、譚作人事件の裁判長劉■(くさかんむりに函)が閉廷を告げるやいなや、夏霖は裁判官の林喬を指差し、激しく非難し始めた。 
 「あなたは裁判官として恥ずかしくないのか? 我々の証人リストを不正に入手し、その事を通知しなかった! 成都の国家保安局(秘密警察)の汚いやり方に、どうしてあなたまで従う必要がある!」 
 
 夏霖は記者に向かって、憤懣やるかたない様子で繰り返し言った。「法廷では法廷の権威を尊重しなければならないから言わなかったが、閉廷後に積もり積もった怒りが一気に噴き出してしまった!」 
 
 豊富な刑事事件の弁護経験を持つ夏霖と、有名な人権派弁護士の浦志強から見れば、8月12日の、譚作人の「国家政権転覆罪」の嫌疑に係るこの裁判は、法廷内外の数々の「盛り上がり」を含め、どの事柄も全くいいかげんで法律を重んじない、人をばかにしたものだ。公判では証人の出廷が許されず、弁護士の話はしばしば中断させられ、まともな弁論などしようがない。譚作人は家族との抱擁をいまだ実現できない。一方、法廷の外では重要な証人が暴行を受け、譚作人の15歳の娘が隔離され、インタビューをしようとした香港の記者は「麻薬所持の疑い」で拘禁され、冉雲飛ら何人かの重要な関係者はみな、審理期間中、警察の審問を受けている。 
 こうして元々は地方案件だったものが、瞬く間に国際事件に格上げされてしまった。「彼らもなかなかやるね」浦志強は笑って言った。 
 
 本誌は譚作人裁判の二人の弁護士、夏霖と浦志強を取材した。以下はインタビューの要約である。 
 
 ──「転覆扇動罪」の罪名について、原告側は主にどのような罪状を挙げていますか? 
 
 夏霖:罪状は4つある。第一は広場日記、第二は王丹(天安門事件で亡命した米国在住の知識人)との関係、第三は広場での献血、第四は地震に関することだ。我々はその一つ一つに反論している。 
 広場日記について、我々は香港の民主建港聯盟(訳注:香港の親中左派政党)の馬力主席(07年、病死)の言論との関連を調べて明らかにした。譚作人の文章は彼の言論に触発されたものだ。 
王丹との関係については、第一に譚作人と王丹の間にあったのは私的な電子メールのやりとりであって、「不特定多数に向けて公開される」という扇動罪の定義に当てはまらない。第二に2人の政治的関係についてだが、私は法廷での弁護で、こう表現した。「もしも王丹が譚作人を焚きつけたと言うのなら、まだ筋が通るけれども、譚作人が王丹を焚きつけたと言うのは、少々おかしい。王丹は前から国外で(訳者補足:共産党の)敵方に回っているのに、彼を焚きつけてどうする? 
 広場での献血に至っては、事実は被災地区のための献血だった。地震がらみの“中傷的言論”については、我々は最も多くの証拠を用意している。 
 
 助手の夏楠とともに作成した弁論文書を昨夜EMSで成都へ送ったところだ。文書の最後に、成都・武侯祠(訳注:諸葛孔明を祭る廟)の対聯の言葉を引用しておいた。『兵法では人心を攻めることが第一で、城を攻めるのはその次。治国は時機の判断となりゆきに対する予測を深慮しなければならない』(訳注:諸葛孔明の治国治兵の思想を反映したものと言われる)。今のこの案件にも、これが成都にあることも、実に相応しいと思っている」 
 
 ──弁護側として、どのような証拠を提出しましたか? 
 
 夏霖:法廷で提出したのは2件、どちらも彭州石油化学工場に関することだ。一つは譚作人の書いた『問題プロジェクトについての問題』のレポート、もう一つは前に譚作人が成都市政府と人民代表大会政治協商会議に提出した「成都彭州石油化学工場プロジェクトに関する公民意見建議書」だ。起訴状は彭州石化のことには触れていないが、譚が法廷で突然その話を持ち出すかもしれないと思い用意しておいた。 
 その他の18の証拠は開廷前日の午後、検察官との証拠交換の時に提出した。艾曉明(訳注:1953年生まれ、広州・中山大学教授。女性問題および社会問題)が撮影した記録映像『天国の子供たち』、香港のテレビ局、鏗鏘集(Hong Kong Connection)の映像、地震の時の『南方週末』と『財経』、『中国国家地理』の手抜き工事から水利工事にまで及ぶ調査など地震関係調査の証拠。それから譚作人が公益のために尽力する環境保護活動家であることを証明するいくつかの証拠、以前人民代表大会に提議したことなども含まれる。すべて原本通りのものを提出している。 
 
 ──証人はなぜ出廷できなかったのでしょうか? 
 
 夏霖:我々が申請した3人の証人は、ことごとく拒絶された。理由は「この案件との関連性の有無」だが、これは順序が違っている。法廷で証拠が提出された後に関連性が有るか無いかを裁判官が判断し、関連なしとなれば採用しなければいいだけのことだ。ところが法廷での審理の前に、証人の審査を先にやってしまった。例えば年令が満18歳に達しているかどうか、充分な表現能力を持っているか、正常な精神状態にあるか、といったことだ。その結果3人の証人のうち、范曉と艾南山は法廷の外へ、艾未未は滞在先のホテルで暴行を受けた。 
 
 浦志強:我々はもともと、出来るだけ中立的で、なおかつ説得力のある証人3人を希望した。法廷が緊迫するのを避けるためだ。証人たちが法廷にはいれさえすれば、彼ら(原告側)をたたきのめすことが出来る。しかし証人たちはドアの外だ。我々は再度要求を出したが、彼らは断固として受け入れない。この証人たちは本案件とは無関係だと言い張っている。一言で言えば、この裁判は事実も法の原理も明らかにしたくないのだ。閉廷したとたん、裁判官は鞄を抱えて逃げ去って行った。 
 
 ──裁判にはどのような問題がありますか? また、弁護するにあたって困難な点は? 
 
 浦志強:告訴内容が不明確だ。例えば譚作人が政府を中傷したと言うが、実際にどういった行為をしたのか。具体的にどの行為が政府への中傷に当たるのか。デモと集会か、でなければ何だ? 譚が自分のパソコンに海外メディアに取材を受けた時の資料のフォルダを作って保存していたというだけで、原告側はその譚が個人的に集めている自分に関する資料を告訴の根拠にしている。 
我々が知りたいのは、5・12地震のあとに譚作人が発表したとされる大量の「党と国家を非難する言論」とは、いったいどの言葉のことなのか、だ。彼はインタビューで、政府の多くの功績についても話している。党と政府の素早い救援活動を称賛しているのだ。 
 
 夏霖:しかも譚作人の話は終始一貫している。海外メディアだけでなく多くの国内メディアからも取材を受けている。国内メディアがそれを報道できたかどうかは分らない。(国の)宣伝部が原稿を握りつぶしたか否か、それはまた別の問題だ。しかし原告側はいくつかの「敵対メディア」の取材の件だけを持ち出してくる。証拠を選り分けているのだ。譚はそれらの取材を受けたことを否認してはいないが、我々弁護士は言わなければならない。 
 証拠学的見地から、これらのものを証拠とする、例えば私が亜洲週刊のインタビューを受けたことを問題視するのなら、私を告訴する場合、亜洲週刊のインタビュー原稿のオリジナルを手に入れて、法廷に提出しなければならない。新唐人テレビの取材を受けたのならその映像のオリジナルを提出しなければならない。それで初めて証拠として使われる。彼らはそういった事を何一つしていない。 
 譚作人自身はそれらの資料をまとめて自分のパソコンのマイドキュメントに入れてある。彼らはそれを没収して、後でまた別の人間を告発するのに使う。そんなバカな話があるか? 譚はパソコンの中でおそらくこうも言っている。月球テレビの訪問を受けたけれど、これも証拠にされるのかな? こんなに重大な案件なのに、どこまでムチャクチャになるんだろう。 
 
 浦志強:この話を、夏霖は今ここでしか話せていない。我々は弁論を除いて、あらゆる話を何一つ最後まで話し切れなかった。半分まで話すとすぐに遮られ、「その事はもう分っているから話さなくていい」と言われる。原告側はあまりに杜撰だ。10日までまだ証拠の追加をしていたし、譚を捕えた日付すら間違えている。3月28日なのに、最初から全ての書類で3月27日になっている。 
 
 ──彭州石油化学工場と六四問題はこの案件において、どんな役割を果たすでしょう? 
 
 浦志強:当局がこの件を処理する上でポイントとしているのは、第一に、あくまでも石油化学工場のことには触れない。地方の利益に関わるからだ。第二に、手抜き工事に対する追及が再燃するのを抑えること。譚作人自身の分析では、自分が捕まったのは、彭州石油化学工場の件が利益集団に損害を与えたためと、地震調査が四川省と国のメンツを傷つけたため。実のところ譚作人は国家保安局と一年に数十回も接触があり、すっかり顔なじみだった。 
 私個人の考えでは、当局がこの件で彼を選んで処罰するというのは、慎重に考えた上での選択だと思う。六四問題に至っては、我々は彼を弁護すると同時に自分自身を弁護することになる。この問題で裁かれるのは、譚作人ひとりではない。 
 
原文=「亜洲週刊」09/8/30 張潔平記者 
翻訳=吉田弘美 


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