2009年09月13日13時05分掲載
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文化
松林要樹著「ぼくと「未帰還兵」との2年8ヶ月 〜『花と兵隊』制作ノート〜」 村上良太
現在、劇場公開中で評判を呼んでいるドキュメンタリー映画「花と兵隊」の監督・松林要樹さんが制作過程を記録した「ぼくと「未帰還兵」との2年8ヶ月」(同時代社)を今月15日出版します。これは制作日誌でありながら、単なる苦労話集でなく、映画で語られなかった濃い話が詰まっています。
映画は太平洋戦争後、日本に帰らなかった未帰還兵たち6人の戦後を描いています。登場するのは無謀なインパール作戦の生き残り兵士など、ビルマやタイ周辺で敗戦を迎えた兵士達です。映画では彼らが味わった「地獄」や現地女性との恋、そして戦後の暮らしが語られていきます。映画を見ていない人の中には「65年近い昔の出来事で何を今更若造が・・・」と思う人がいるかも知れません。
しかし、映画「花と兵隊」を見ると、60年以上の時間差が埋められていく感覚を持ちます。未帰還兵達の戦後が、「再現シーン」もなしに、蘇ってきます。それはこのドキュメンタリーの力です。現在30歳になったばかりの松林監督は、映画を撮り始めた時は20代半ばでした。映画監督を目指していた彼は映画のテーマを見つけようとアフガニスタンに行ったり、インドネシアへ行ったり、しばらくの間放浪します。アフガニスタンやイラクでは「テロとの戦争」が続けられていました。松林さんも一度はアフガニスタンでの映画制作も考えてみたようです。しかし、いろいろな事情で実現できませんでした。そんな中、日本軍の未帰還兵の話を聞いた松林さんはタイに行き、元兵士を訪ねます。
きっとそのときはまだ映画になるかどうかもわからなかったはずです。現在続けられているイラクやアフガンの戦争と太平洋戦争。現在と過去、それらの間に一体どんな関係があるのか。
松林監督は現地取材に合計6回、毎回2〜3ヶ月滞在します。帰国のたび、戦争の資料を読み漁ったと言います。単に飛行機で移動するだけではない、現代の日本と60数年前のアジアとの往還を彼は繰り返したのです。こうして松林さんは2年8ヶ月かけて、かつて同じ青年だった元兵士達の魂に近づいて行きます。一度この映画を見ると、見慣れた日本の風景がそれまでと違ったように見えてくる人もいるかもしれません。
映画ではナレーションを一切使わず、現場の言葉やノイズと視覚ですべてを語ります。
一方、今回出版される「ぼくと「未帰還兵」との2年8ヶ月」では松林さん自身の声が入っており、その観察眼や思考が、映画とはまた違った魅力を醸し出しています。
映画は本年のベスト1と言える傑作ですが、この1冊も面白いノンフィクションです。
★ 映画「花と兵隊」 NEWSサイト
http://www.hanatoheitai.jp/blog/
(むらかみ・りょうた、ドキュメンタリー作家)
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