2009年09月18日12時09分掲載
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【テレビ制作者シリーズ】(4) 日本も韓国も世界も描く、李憲彦ディレクター(クリエイティブBe) 村上良太
第一回目の朝鮮通信使が来日して400年目の2007年、李憲彦ディレクター(46)はNHK・ETV特集で「朝鮮通信使400年の真実」を放送し、大きな反響を得ました。江戸時代は果たして鎖国だったのか、と常識を覆す問題提起をしたからです。
秀吉の朝鮮出兵(1592年〜1598年)では朝鮮人が多数殺されただけでなく、朝鮮王朝の墓があらされ、さらに陶工など3〜5万人の技術者が日本に連れて来られたと見られます。家康が天下を取った後、朝鮮との国交回復がテーマになります。しかし朝鮮王朝と江戸幕府は国書を先に送ることを渋ります。国書を先に送れば敗北を認めることになってしまうからです。
そこで動いたのが朝鮮との貿易を一手に担っていた対馬藩でした。対馬藩はなんと国書を捏造し、朝鮮王朝に送ります。一方、朝鮮王朝からの返答も、返答ではない形に改ざんして江戸幕府へ送ります。両者の顔を立てる対馬藩の秘策が功を奏し、朝鮮王朝の使者が江戸を訪ねる朝鮮通信使が始まります。一行は500人規模で、芸人や文化人も随行していました。また釜山には倭館と称する幕府の出先機関が置かれます。倭館には500人ほどの対馬藩士が常駐し、朝鮮や中国の産物や文化を日本に送り、日本からは銀などを送っていました。敷地面積は長崎の出島の25倍にものぼる広さです。対馬藩の改ざんはその後幕府の知るところとなりますが、それを機に両国は正式に国交を結びます。朝鮮通信使は江戸時代に合計12回来日しています。
志と知恵があれば歴史は拓かれる、そんなメッセージを感じました。
私事になりますが、最初に李さんに出会ったのは1992年暮れ。吉祥寺のKuuKuuという店で年末、在日コリアンと日本人の「望年会」が行われていました。朝鮮半島の平和な統一を願う人々の集いで、業界人も数多く参加していました。李さんとビールを片手に立ち話をしたのを覚えています。李さんは僕にこう言いました。
「日本人のディレクターに期待するものは2つしかない。天皇制と部落問題だ」
この言葉は強烈に覚えています。
当時、李さんも僕もそれぞれ別の制作会社でフジテレビの「満足!迷い旅」という、タレントを交えた30分のエンターテインメント番組を作っていました。李さんは20代末、とんがっていました。内部にマグマを蓄えた男だな、という印象です。
その後、李さんは日本テレビ「知ってるつもり?!」で、黒人革命家マルコムXやベルリンオリンピック(1936年)のマラソンで金メダルに輝いた孫基禎(ソン・キジョン)を描きます。当時、朝鮮人の孫氏は日の丸のゼッケンをつけて表彰台に立たなくてはなりませんでした。皮肉にも金メダルを得たことで孫氏は朝鮮独立運動の英雄と見なされ官憲から監視の対象となり、公の場で走ることも禁じられてしまいました。それから約半世紀、1988年のソウルオリンピックで松明を手に競技場に駆け込んでくる孫氏の映像には驚きと感動があります。
李さんはフジテレビの「ザ・ノンフィクション」など、ヒューマンドキュメンタリーを何本か手がけた後、世界を旅します。スペインのフラメンコやアルゼンチンタンゴ(NHK「遥かなるアルゼンチンタンゴ」2003年ギャラクシー賞)、モロッコの古都フェズでは古い習慣を守るイスラム教徒の暮らし(NHK「イスラムの迷宮都市」2003年)などのドキュメンタリーを作りました。この時期、別の地域で別の状況を生きる民族の魂を見つめていたのです。
最近、李さんは広島・長崎の被爆者(NHK「平和巡礼 若き演奏家たちの広島長崎」2005年)や先述の「朝鮮通信使」など社会性の強いドキュメンタリーに取り組んでいます。
「平和巡礼」では世界18カ国から平和コンサートのために集まった若い音楽家46人が広島と長崎を訪れ、被爆者や町の人々とふれあい、考えを交わします。「犠牲者のために僕らができることは最高の音楽を奏でることです」と衝撃を受けた一人の音楽家は語ります。
李さんは世界でつかんだ広い視野からもう一度青年時代のテーマをやろうとしているように僕には思えます。
《プロフィール》
李さんは東京都立大学大学院で哲学者ベルクソンの研究をしていたそうです。しかし、ゴダールの「映画史」を読み、「象牙の塔にこもってられるか」と発奮。1988年、テレビの制作会社マックスコムに入社します。現在はクリエイティブBeを立ち上げ社長もつとめています。
(むらかみ・りょうた、ドキュメンタリーディレクター)
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