2009年11月16日19時29分掲載  無料記事
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政治

日米同盟から日米友好へ大転換を 軍事基地に執着する時代ではない 安原和雄

  オバマ米大統領の初来日による日米首脳会談(11月13日)は「日米同盟の深化・発展」で合意した。これは日米同盟の役割を従来の安全保障分野に限らず、地球温暖化対策や「核なき世界」の実現など「新しい課題」にも取り組むことを目指している。メディアの多くは賛成しているが、基本的な疑問がある。日米安保条約に基づく日米同盟の真の姿は在日米軍基地の存在を前提とする軍事同盟である。地球温暖化対策や「核なき世界」は当然追求すべき課題だが、その実現のためになぜ軍事同盟が必要なのか。 
 鳩山首相はシンガポールで持論の「東アジア共同体」構想について講演(同月15日)し、「不戦共同体」として性格づけた。それならなおさらのこと、日米軍事同盟とは合わないのではないか。もはや「負の影響力」が大きすぎる在日米軍事基地の維持に執着する時代ではない。来2010年は日米安保50年である。半世紀も続く軍事同盟は異常であり、長すぎる。軍事同盟を中軸とする日米安保条約を解消して、日米友好を基軸とする新「日米友好平和条約」(仮称)締結へ向けた大転換を図ることを提案したい。 
 
▽ 新聞社説は日米首脳会談をどう論じたか 
 
 オバマ米大統領の初めての来日による日米首脳会談について新聞社説はどう論じたか。 
 
(1)大手新聞3紙社説(09年11月14日付) 
 その見出しと要点を紹介する。要点は日米同盟をどう論じているかを中心に取り上げる。 
 
*朝日新聞社説=日米首脳会談 新しい同盟像描く起点に 
 さまざまな分野で協力を強化する日米同盟の「深化」。半世紀に及んだ自民党政権にとってかわった鳩山民主党政権にとって、日本の安全保障と外交の基本を米国との同盟に置くこと、地球規模の課題でも信頼できる同盟パートナーであり続けること、の2点を米大統領と確認しあった意味は大きい。 
 首脳会談では、地球温暖化対策や「核なき世界」への取り組みなどで一致してあたることを合意した。 
 鳩山首相が選挙で訴えてきたテーマでもある。従来の、安保と経済に偏りがちだった日米協力が新しい次元に入るということだろう。日本の有権者は歓迎するに違いない。21世紀の同盟のあり方を描き出す起点としたい。 
 
*毎日新聞社説=日米首脳会談 連携の舞台が広がった 安保50年へ信頼深めよ 
 鳩山由紀夫首相とオバマ米大統領が会談し、来年の日米安保条約改定50年へ向け同盟関係を発展させていくことを確認した。日米両国やアジア・太平洋地域の安定に寄与してきた同盟関係を、地球温暖化やエネルギー問題、核拡散など21世紀の世界が直面している地球規模の課題に対処するために強化しようという試みは時代の要請に沿ったものだ。両首脳の合意を評価したい。 
 日本は軍事以外の分野での役割を広げる中で相互補完的な関係を構築することを模索すべきだろう。鳩山首相も会見で「日米同盟は安全保障のみに限らない。防災、医療・保健、教育、環境問題など、さまざまなレベルで日米がアジア・太平洋地域を中心に協力していくことによって深化させることができる」と述べた。 
 
*読売新聞社説=日米首脳会談 同盟深化へ「普天間」の決着急げ 
 首相は、来日したオバマ米大統領との会談で、来年の日米安保条約改定50周年に向けて、同盟関係を重層的に深化させるための政府間協議を開始することで合意した。 
 同盟を深化させるという以上、米海兵隊普天間飛行場の移設問題は避けて通れない。政府は、今年中に現行計画の推進を決断し、決着させるべきだ。 
 安保条約の根幹は、米国が日本防衛の義務を負う代わりに、日本が米軍の国内駐留を認めるという相互依存の関係にある。 
 今後も、従来と同様、日米同盟の強化が日本の国益にかなう道と言えよう。鳩山首相は、日米同盟の意義を改めて熟慮したうえ、普天間問題の解決に取り組んでほしい。 
 
(2)米軍の普天間基地移設が焦点となっている沖縄の琉球新報社説 
 琉球新報社説の見出しと要点を紹介する。 
 
*琉球新報社説(11月14日付)=鳩山・オバマ会談 軍事同盟より民生の鎖を 
 懸案の米軍普天間飛行場移設問題に関しては公表内容を見る限り、最小限のやりとりにとどまった。突っ込んだ議論を期待した県民は肩透かしを食った格好だ。 
 人権を説く大統領に、友愛が口ぐせの首相。その2人が「県外・国外移設」を求める沖縄の民意を踏まえた形で問題解決への道筋を示せば、鳩山・オバマ時代の到来をアピールできたはずだ。好機を逃した印象は否めない。 
 来年は日米安全保障条約改定から50年の節目だ。軍の論理がまかり通った世紀が終わり、人道を最優先に考える時代が始まるととらえたい。同盟関係も軍事偏重から、人々のきずなを深める「民生の鎖」づくりに軸足を移すほうが賢明だ。それならアジア太平洋地域の人々も大いに歓迎するだろう。 
 
*琉球新報社説(同月13日付)=オバマ米大統領へ/沖縄基地もチェンジの時 平和賞にふさわしい英断を 
 ようこそ、米大統領バラク・オバマ殿。せっかくの機会ですので、沖縄の人々の率直な声、切なる願いを伝えます。日本の国土面積の0.6%にすぎない島しょ県の沖縄に、在日米軍専用施設の4分の3が集中しています。広大なスペースを占有されると、県民が暮らす地域の発展はままなりません。 
 米軍機の離着陸や訓練による激しい騒音もさることながら、最も問題なのは、駐留軍に起因する悲惨な事故、残忍な事件が後を絶たないことです。 
 
 普天間飛行場を県内の別の場所に移す現行計画は「危険のたらい回し」にほかなりません。最近の世論調査でも、沖縄の人々の大多数は「県外・国外への移設」を求めています。 
 あなたは「新しい時代に合った新しい発想、新しい政治を米国民が求めるからこそ変革は起きる」と説きました。ブッシュ共和党政権を批判し、大統領に就いたのですから、普天間問題でも前政権の日米合意に縛られる理由はないと考えます。 
 
 沖縄には「命(ぬち)どぅ宝」(命こそ宝)という言葉があります。多大な犠牲を払って得た教訓です。小さな島々に、巨大な軍事基地は似合いません。 
 「未来は言葉でなく、行動によって築かれる」という大統領の信念に偽りがないなら、強いリーダーシップで、沖縄を「悲劇の島」から「平穏な島」に劇的にチェンジすべきです。平和賞にふさわしい英断と行動を願ってやみません。 
 
▽ 沖縄の「命こそ宝」という悲痛な叫びに耳を傾けよ! 
 
 本土の大手3紙社説と沖縄の琉球新報社説を通読して、感じるのは日米安保体制と在日米軍基地の現状に対する認識度の大きな隔たりである。 
 琉球新報はこう主張している。 
 来年は日米安全保障条約改定から50年の節目だ。軍の論理がまかり通った世紀が終わり、人道を最優先に考える時代が始まる ― と。 
 さらにつぎのようにも訴えている。 
 沖縄には「命(ぬち)どぅ宝」(命こそ宝)という言葉があります。多大な犠牲を払って得た教訓です。小さな島々に、巨大な軍事基地は似合いません ― と。 
 
 日本の国土面積の0.6%にすぎない沖縄に、在日米軍専用施設の4分の3が集中している。そのために米軍機の離着陸や訓練による激しい騒音に悩まされるだけではなく、駐留米軍に起因する悲惨な事故、残忍な事件が後を絶たないことである。「人道を最優先に」、「命こそ宝」は心底からの悲痛な叫びと受け止め、耳を傾けなければならないだろう。 
 
 一方、本土の3紙社説の主張は、日米首脳会談の内容をほぼそのまま肯定している。朝日、毎日、読売ともに「日米同盟の深化」、「同盟の発展」を高く評価し、読売に至っては「米海兵隊普天間飛行場の移設問題は避けて通れない。政府は、今年中に現行計画の推進を決断し、決着させるべきだ」とワシントンと同類の姿勢で日本政府に決断を迫っている。小沢民主党幹事長流にいえば、「聞いていない」が、読売新聞は本社をワシントンにでも移設したのだろうか? 
 
 朝日、毎日も日米同盟への批判力を失って、日米同盟容認派に転じている。以前は批判力をのぞかせていたように思うが、いつ頃から腰くだけになったのか、不可解である。 
 その昔、新聞販売部数を増やそうという意図もあって、日独伊3国軍事同盟やアジア侵略、日米開戦を煽る新聞作りに狂奔した悪しき歴史がある。戦前、戦争中の毎日、朝日の大手2紙が競い合ったのである。まさかその再現めいたものを意図しているわけではないだろうが、危惧の念が消えない。 
 
▽ 日米同盟の深化・発展が目指すものは何か 
 
 日米同盟の深化・発展とは一体何を意味するのか。日米首脳会談とその後の記者会見で明らかになった諸点は、上述の各紙社説も論じているが、大要はつぎの通り。 
 
・来年の日米安保50年に向けて、同盟深化のための日米間の新たな協議を始めることで一致した。 
・首相は、会談で日米同盟が「日本外交の基軸」としたうえで、「米国による核の傘、ミサイル防衛、宇宙など従来の安全保障分野に限らず、新しい課題 ― 防災、医療・保健、教育、環境など ― も含めた協力の強化進めていきたい」と述べた。 
・米軍の普天間基地移設問題で、首相は早期解決を目指す考えを表明した。 
・「核のない世界」を目指す考えで日米が一致した。 
・大統領は、広島、長崎を将来訪問できれば「非常に名誉」と発言した。 
・地球温暖化を促す温室効果ガスを2050年までに80%削減することで合意した。 
・アジア太平洋における米国の存在の重要性を確認した。 
 
 さらにつぎのような日米共同声明とメッセージを発表した。 
・「核のない世界」に向けた日米共同声明=日米政府は「核兵器のない世界」を実現する決意を確認する。 
・気候変動交渉に関する日米共同メッセージ=両首脳は、低炭素型成長への転換が世界経済を再生させるうえで、中心的な役割を果たすとの認識を再確認した。両国は2050年までに(温室効果ガスの)排出量80%削減を目指すとともに、同年までに世界の排出量を半減させるとの目標を支持する。 
 
 以上から分かるように、日米同盟深化・発展の具体的な中身は、「従来の安全保障分野」に限らず、鳩山首相の唱える「新しい課題」も視野に含めることを意味している。前者の「従来の安全保障分野」とは、いうまでもなく在日米軍基地の存在を前提とする日米軍事同盟の問題である。後者の「新しい課題」については、首相は防災から環境まで幅広く取り上げているが、その中心テーマは、共同声明でうたった「核のない世界」実現のための日米協力であり、もう一つは共同メッセージで明示した「地球温暖化防止」のための日米協力だと受け止めたい。 
 
▽ 日米軍事同盟から日米友好平和条約へ転換を 
 
 さて以上の日米同盟の深化・発展について疑問点を指摘しないわけにはいかない。まず日米軍事同盟そのものの存在価値が疑問視される情勢となってきた。日米軍事同盟の根幹をなしているのが在日米軍事基地であり、そこからの海外派兵を当然視するわけにはいかない。その負(マイナス)の影響が大きすぎるからである。米軍基地の海外への撤去を視野に入れて、検討を始めることを提案したい。 
 さらに日米同盟の深化・発展の新しい柱として「核のない世界」と「地球温暖化防止」のための日米協力が挙げられている。この新しい次元の日米協力の方向には異論はない。大いに推進すべきである。問題はこの日米協力を進めるうえで、なぜ日米軍事同盟という古い日米安保体制が前提になるのか、なぜ在日米軍基地が必要なのか、である。いつまで軍事基地に執着しているのか、不思議である。新次元の日米協力を進めるためにはむしろ「脱・安保」への視座が不可欠だと考える。つまり現行の日米安保条約から新しい日米友好平和条約に切り替える好機ととらえることはできないか。日米友好関係の増進によって「日米協力」の実をあげていく。これこそ本物の対等な日米関係構築のための「チェンジ(変革)」ではないのか。軍事同盟が前提である限り、対等の日米関係はあり得ない。 
 
(1)日米軍事同盟の存在価値は疑問である 
 上述の読売新聞社説はこう主張している。 
 安保条約の根幹は、米国が日本防衛の義務を負う代わりに、日本が米軍の国内駐留を認めるという相互依存の関係にある ― と。 
 
 日本列島には沖縄をはじめ広大な米軍事基地網が張りめぐらされているが、その法的根拠となっているのが日米安全保障条約(1960年改定)第6条(基地の許与)である。日米安保体制信奉者たちは「日本の防衛のため」と称しているが、事実はそうとは限らない。現実には米国の軍事的覇権主義行使のための前方展開基地として機能している。 
 特に沖縄駐留の米海兵隊は海外で軍事作戦を展開するのが本来の任務である。沖縄などはかつてのベトナム戦争、そして現在のイラク、アフガニスタンへの米軍侵攻のための出撃基地としての役割を担って来たし、現在もそうである。ベトナム、イラク、アフガニスタンのいずれも日本を攻撃する恐れがあるから、それを防止するために、すなわち「日本防衛のため」に米軍が出撃したわけではない。 
 
 ベトナム戦争では多くの犠牲者を出して、米軍が敗退した。オバマ米政権はアフガニスタンへの米軍増派を検討しているが、現地の犠牲者はいうまでもなく、米軍側の犠牲者も急増しており、「第二のベトナム化」が次第に明白になりつつある。そういう米軍の海外戦争の足場としての在日米軍基地そのものの存在価値が疑問視される情勢となってきた。 
 
 軍事同盟は本来、存続するためには常に「敵の存在」を必要とするので、あえて「敵」が意図的に創作される。ブッシュ前米政権時代にイラン、イラク、北朝鮮などを「悪の枢軸」として敵視し、イラクには現実に侵攻した。「大量破壊兵器の存在」がその口実とされたが、大量破壊兵器は存在していなかった事実がすでに判明している。虚構に基づく「正義なき侵攻」だった。 
 日本では北朝鮮の脅威が、核開発、拉致問題などもからんで喧伝されるが、オバマ政権はブッシュ前政権と違って、敵視する姿勢ではなくなっている。そこには「チェンジ」の跡がうかがえる。 
 
 鳩山首相は11月15日、シンガポールで開かれたアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議のため滞在中のホテルで「アジアへの新しいコミットメント(関与) ― 東アジア共同体構想の実現に向けて」と題して講演した。つぎのように指摘した点に注目したい。 
 過去の戦争で日本が被害を与えたアジア諸国との「真の和解」が達成されていない。「不戦共同体」としての欧州連合(EU)をモデルに東アジア共同体構想の実現を目指したい ― と。 
 この認識には賛成したい。首相が東アジア共同体構想を「不戦共同体」と認識するのであれば、なおさらのこと、この「不戦共同体」にとって、戦争を辞さない多数の在日米軍基地を抱える日米軍事同盟はふさわしくないのではないか。首相の発言は立派ではあるが、つじつまの合わないところが多いのが気がかりである。 
 
(2)「核なき世界」と「温暖化防止」の日米協力に軍事基地は不要 
 何よりも21世紀の今日、軍事力そのものの有効性、打開力が失われている。軍事的脅威よりもむしろ地球温暖化に伴う災害のほか、新型インフルエンザ、世界的な貧困・飢餓、劣悪な保健・衛生、水や教育の不足 ― など多様な脅威が地球上の切実な課題になっているからである。 
 世界の年間軍事費は米国を筆頭に総額120兆円にものぼり、巨大な浪費となっており、軍事費を削減して、民衆の暮らしの質的改善に回せ、という声が地球上に響き渡っている。 
 だからこそ「核なき世界」の創出と「温暖化防止」の実現は急務と言うべきであり、この分野での日米協力が軌道に乗れば、大きな世界貢献となるだろう。ただし在日米軍基地を背景に軍事力をちらつかせながらの日米協力はいただけない。それは血の匂うような負の世界貢献となるほかないだろう。 
 
 米国との2国間軍事同盟は急速に時代遅れになりつつある。米軍基地の撤去を求め、米国の支配から離脱しつつある中南米諸国の動きがその顕著な事例といえる。真の意味で対等な日米関係の構築を目指すのであれば、ここは日米安保体制の質的改革、つまり日米安保条約破棄によって日米友好平和条約に切り替え、日米関係の在り方の大転換を図るときである。そういう新しい日米関係の枠組みの中でこそ、「核なき世界」、「温暖化防止」の日米協力を進めたい。 
 
 ついでながら日米安保条約第10条(条約の終了)を想起したい。こう定めてある。 
「いずれの締約国も、他方に対し、この条約を終了させる意思を通告することができ、その場合、この条約は通告後1年で終了する」と。 
 これは一方的な破棄が可能な規定といえるが、だからといって事を荒立てる必要はない。「現行安保条約を日米友好平和条約に切り替えたい。ついては米軍基地はすべてお引き取り願いたい」と冷静に申し出るのが賢策である。民主党政権にそれができるかどうかは未知数だが、鳩山首相の唱える「対等な日米関係」を実現させるには目下のところ、この方策以外の手は見出せない。 
 
 問題は米国政府がどういう反応を示すかである。反対のための高圧的な態度に出る可能性も否定できない。その時には在日米軍基地は、メディアも含めて日米同盟容認派が頑迷に思い込んでいる「日本防衛のため」ではなく、本音(ほんね)では米国主導の軍事的覇権主義のための前方展開基地であることを米政府自身が告白したも同然となる。そこでやっと気づくようでは遅すぎて、日本人はお人好し、ともいえるが、気づかないよりはましと腹を決めて、「対等な日米関係とは何か」を国民的規模で考え直す好機としたい。 
 
*本稿は「安原和雄の仏教経済塾」からの転載です。 
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