2009年12月15日00時12分掲載
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地域
地方の小さなスーパーの‘再生’物語 手づくり・有機・おいしさをお客さんと従業員でつくり、そろえる
デフレスパイラルの今、価格戦争で大手スーパーに対抗できず、つぶれる店が少なくありません。そんな中、札幌市中央区に過去6年間、毎年前年比100%〜103%とわずかながらも売り上げを増やしてきたミニスーパーがあります。スーパーも百貨店も売り上げがダウンしている今、微増とは言え、売り上げが増えているのはすごいことです。(村上良太)
札幌市中央区にそのスーパー「フーズバラエティすぎはら」があります。パートを入れても従業員は20人弱、店の広さは100坪=330平米、一年間の売り上げはおよそ2.2億円とコンビニと大手スーパーの中間の規模です。一体、何が成功の鍵なのでしょうか。
入ってみると女性客が3人〜4人連れで水族館や動物園にでも来たようにうきうきと買い物を楽しんでいます。郊外から車で来る人も少なくありません。店をよく使っている女性が仲間を連れて買い物に来ているのです。話が弾むこと弾むこと!こんなに客が楽しげに商品を見ながら話をしているスーパーを見たことがありません。
入り口の青果物コーナーには珍しい国産の有機野菜がところ狭しと並びます。山芋や長芋などの子供である黒い粒の「むかご」、あるいはイタリア原産の黄緑色で奇妙な形をした「シュー・ロマネスコ」。その多くは日本の若者が新たに挑戦して育てた野菜です。九州産「京いも」や静岡産「えびいも」、生食できる道内産「葉茎の赤いほうれん草」、中南米原産のサボテン科野菜もあります。しかもすべて国内産なのです。さらにピラフやカレーに適した北海道産有機米。1つ1つに手書きの説明や生産者の顔写真がつけられています。「○○町の○○君が育ててくれた有機米です」といった具合に。珍しい野菜や店を紹介する記事のコピーもあちこちに。
書いているのは6年前、ベジタブル&フルーツマイスターの資格を取った店長の杉原俊明さん(46)です。「すぎはら」は1943年、米の配給から始まった店で、両親は青果商です。杉原店長はその3代目に当ります。1972年には近くの肉屋、魚屋とともにスーパーの形態を取りました。生鮮食品の品質がいいことがこのスーパーが生き残った基本にあります。
小さなスーパーの良さは大量に仕入れず、毎日、少しづつ仕入れて売り切ることで売り場をその日の状況に合わせて毎日作り変えることができることです。これが客がいつ「すぎはら」に行っても飽きることがない理由の1つです。小さなスケールを生かした売り方です。
特に興味深いのは冷凍食品コーナーです。たとえばギョーザやシューマイは大手スーパーだと100円台から並んでいます。一方、「すぎはら」の場合兵庫県芦屋で手焼きしている「伊東屋のギョーザ」や札幌で手作りしている「ニシムラのシューマイ」など、400〜500円台です。また青森産の鴨を使った手作りハンバーグも1つ280円と、安い冷凍ハンバーグの3倍近い値段です。それでも美味い、安全だと好評です。
6年前まで「すぎはら」でも大手スーパーと同様、ナショナルブランドの冷凍食品を並べていました。しかし、競合スーパーの店頭価格が、すぎはらの仕入れ値より高くなる現象が6年前に起きはじたのです。しかも赤字で営業してもお客さんから「お宅は高いわね。向こうのスーパーではもっと安く売っていたわよ」と言われる。そんななすすべがない状態だったそうです。
そこでナショナルブランドの安売り冷凍食品は全部撤去し、ある程度値の取れるこだわり食品で固めました。野菜も叩き売りをやめたのです。品揃えにこだわり始めたのが丁度この6年前。杉原店長は野菜の学校に通い、一から勉強し直しました。
さらに、この時期、ロビンソン百貨店から「すぎはら」に移って来た佐藤伸行氏(45)がお客さんのリクエストに答える「御用聞き」型の商売をはじめたのです。
佐藤氏はネットでリクエストを募りました。「いつか食べたあの美味しい食材を扱ってくれませんか?」こんなメールが届くたびに、商品を取り寄せ、従業員全員で試食します。面白いのはネット販売だけでなく、リクエストされた商品のうち、みんなで試食してうまいものは実際に店の棚に置いたことです。するとどんどんお客さんから美味情報が集まるようになり、店の品揃えがどんどん普通のスーパーと違って来ました。
たとえば最初にお客のリクエストで置いた豆腐の「豆太」(315円)です。地元で作っている豆腐ですが、うまいけど1丁315円は高い。1日に10個も出ないだろうと思ったら、実際には毎日10数個完売する商品になりました。北海道産の大豆を使っており、独特の甘みがあるため醤油をかけなくても食べられ、大豆の味を楽しめるのです。お客は値段だけで買っているわけではないことがわかった、と言います。
試食会では値段も、主婦の多い従業員に試食後「これいくらだと思う?」とか、「いくらだったら買う?」など聞きます。店に置くかどうか、置くとしたらいくらが妥当か、またどんな食べ方がいいのか。まず買い手の目線でみんなで考えるようになりました。この老若男女様々な視点で意見をぶつける試食会を経た食材がお客さんの人気を呼ばないはずがありません。さらに、全員で試食することで従業員全員が商品知識を持てるのもサービスに確実に反映します。何人ものお客さんから「すぎはら」の食品で外れた経験がない、という声を耳にしました。
全員で試食会を行うことで男性である杉原店長や佐藤さんには気付かない良さが発見できたと言います。たとえばお客のリクエストで取り寄せてみた「ビバ・ガーリック」。刻みニンニクを漬けたオリーブオイル(店頭価格966円)です。店長たちは美味しいけれど966円は高いんじゃないか、と売るのを躊躇したそうです。しかし、女性従業員から「これは売れるから置いたほうがいい」と言われたそうです。ニンニクを切る手間が省けて、しかも匂いもつかないなど、主婦目線で見ると決して高くない値段だというのです。実際に売り出したらヒット商品になりました。
北海道の主婦が作って持ち込んだ「北おからクッキー」(500円)も、最初は500円でこの小型カップは高いんじゃないか。それに、硬い・・・と店長たちは渋ったそうです。しかし試食会で杉原店長の80代の父親が「美味い」と言ったのです。歯の弱い店長の父親はしばらく口に含んでゆっくり味わっていたそうです。実際に店に置いてみると、おからのダイエット効果を期待する20代女性を中心にどんどん売れました。食べ物1つ1つに予測のつかない良さがあるものです。
試食会で見えた良さを「こんなに硬くていいの?」(北おからクッキー)など、説明をしっかり書いて脇に置くと、お客さんの好奇心を引きます。
こうして毎日ちょっとした時間に試食を行い、良ければすぐに置いて見る。売れ行きが良くなければ止める事もできます。こうしてどんどんいろんな食材を試しては店に置き、絶えず客が新しい発見ができるようにしました。
佐藤氏は午後になるとその日の午前中に注文を受けた品を籠に集め、車で宅配します。区域は札幌市内4区です。そこで、またお客さんから美味しい情報や食後の感想などを対面して耳にすることができます。まさに、これこそデフレの今、見直したい商売ではないかと思います。
デフレスパイラル下では客である我々が望んでいない価格まで一方的にどんどん商品の値が下がっていきます。これは店同士が集客で他の店に負けないためにしかけている現象であり、本質は売り手側の都合なのです。もちろん安ければ買ってしまいますが、それを客は必ずしもいいことばかりとは思っていません。なぜなら安売りは生産者から買い叩くことで成立しているからです。生産者が疲弊して、後継ぎがいなくなるような値段まで値下がりすることはナンセンスです。
「すぎはら」では妥当な値段を生活者の目で品質と釣り合わせながら妥当な線を出しています。こだわっているけれど、決して一部の人しか手の届かない値段ではありません。その価格設定であれば生産者にも利益を還元できます。
前年比が100%〜103%という数字はむしろ21世紀の優良企業の数字ではないでしょうか。成長率数十%増、というのは生産から販売までのサイクルの中で誰かを泣かせている可能性もあります。今まで優良企業と言うと成長率の数字の大きさだけが評価されてきましたが、むしろ、数字が控えめの方が21世紀の企業として健全なのではないでしょうか。「すぎはら」のような地場の1軒のスーパーが津々浦々で存在し、業績も控えめで、かつ好調であれば日本がデフレスパイラルから脱出できる日も遠くないと思えてきました。
★フーズバラエティ すぎはら
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