2010年01月08日16時05分掲載
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人権/反差別/司法
空港の全身スキャン検査に批判広がる 人権だけでなく健康被害の恐れも 小倉利丸
空港におけるセキュリティ強化に対して人権団体から次々と批判が出されている。空港における全身スキャンシステムの導入は、クリスマスの航空機爆破未遂事件をきっかけに実施されることになったのではなく、昨年の早い時期から導入が画策されながら実現されていなかったことであり、早い時期からプライバシー団体などからの批判が出されていた。まさに、クリスマスのテロ未遂事件は、この新たな空港における身体検査導入に恰好の口実を与えた格好だ。
米国政府が導入を決定し、さらに他の諸国にも広がりを見せているあらたな全身スキャン装置とはどのようなものか。電子プライバシー情報センターのウエッブの解説によれば、通常の医療用放射線よりも高いレベルの放射線を用いて服の上からでも透視可能なものであって、事実上裸の身体検査に等しいデータが得られるという。電子データに共通した特性だが、こうしたデータは記憶装置に保管されたりコピーされるなどが容易であるため、プライバシー保護に必要な防衛措置がとれない。
また、自己情報コントロールなど個人情報の保護に必要な一連の権
利行使が空港の出入国管理では事実上困難だ。このこと自体明らかなプライバシー侵害であり、裸の身体検査であることへの批判がもっとも強いのだが、さらに私たちとして危惧すべきなのは、放射線の照射による身体への被害の程度である。この点については詳細な批判はまだみられないようだ。
米国政府は、情報機関相違の意思疎通の不備を表明しているが、もし、そうだとしたら、こうした政府内部のミスをすべての旅行客を裸にするような検査の導入で解決しようとするのは、明らかに本末転倒だろう。
しかも、米国自由人権協会によれば、すでにテロリストの名簿には百万人以上の人物がリストアップされており、毎月2万人以上の名前が追加されているという。
これだけ膨大なリストを持ちながら、「テロリスト」の搭乗を防げなかったのは、網羅的な監視という米国の手法では「テロリズム」を防げないということを示唆している。問題の根源は、米国の世界戦略の誤りにある。世界の百ヶ国以上に米軍関連施設を持ち、軍事力では他を圧倒しているにもかかわらず、アフガンが泥沼化し、さらにイエメンなどにも軍事的な介入の矛先が向かっている。暴力の問題は暴力では解決できないのだが、暴力で解決をするとすれば「最終解決」つまり、皆殺しの路線を突っ走るしかないということは戦争と侵略の歴史が繰り返し教えていることだ。
米国が軍事行動をエスカレートさせ、多くの民衆を犠牲にすればするほど、日々米国に敵意を抱く新たな「テロリスト」が生まれる。こうした敵意は、米国内の移民やその子どもたちにも共有されてきたことをこれまでの「テロリズム」は教えてくれている。過激な宗教指導者の影響ばかりがクローズアップされるが、米国の不合理な覇権主義にこそ原因があるというべきだ。
こうして日々うまれているであろう「テロリスト」を一人一人特定してブラックリストに載せて監視するといったことが明らかに不可能なことであって、いかに愚かなことかがわからない米国の指導者たち自らが墓穴を掘っているというしかない。しかし、その愚か者たちの戦争ゲームによって犠牲となるのは、世界中の民衆でもあるのだ。
米国以外の国への拡大が急速に進んでいる状況をふまえると、日本の空港への導入の可能性も十分にある。導入阻止の運動が重要になる。
(富山大学教員)
原文は下記で。
http://alt-movements.org/no_more_capitalism/modules/no_more_cap_blog/details.php?bid=17
米国自由人権境界(ACLU)
https://secure.aclu.org/site/Advocacy?id=1009
電子プライバシー情報センター
http://epic.org/privacy/airtravel/backscatter/
Stop Airport Strip Searches
http://www.facebook.com/group.php?gid=179598280013
The Privacy Coalition
http://privacycoalition.org/stopwholebodyimaging/
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