2010年01月28日12時36分掲載
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文化
石山永一郎編著「彼らは戦場に行った―ルポ 新・戦争と平和」
ブッシュの戦争で殺されたイラクの人々、15万人。この中には大勢の子どもたちがふくまれている。本書は、この15万人を殺した側の兵士たちの物語である。練達のジャーナリストが世界を歩き、事実の断片をていねいに集め、再構成した物語は、「加害の側の兵士」もまた、身体を損傷し、あるいは失い、心を破壊されている実態を浮き彫りにしている。共同通信が配信して反響を巻き起こしたルポルタージュを、一冊の本で読めるのは、とてもうれしい。2009年12月、共同通信社から刊行された。(大野和興)
話はイラク帰還兵の証言から始まる。筆者はイラク帰還兵を訪ねて全米を旅する。その一つひとつの証言を読むごとに、本を置いてしばらく目をつむって考える。そして、その人の人生を、戦争を思う。そんな本だ。
米政府によると、01年10月から08年4月までにアフガン、イラクに展開した米兵約90万人。そのうち約30万人が帰国後に退役軍人病院で治療を受けている。うち4割は「機能性または心因性の脳神経系」の問題を抱えている。うつ、自殺、そして路上生活へ、彼らはとめどなく墜ちていく。
戦場では、その兵士たちの下に”もうひとつの兵士”がいた。軍事請負会社が雇う兵士たちだ。ブッシュの戦争のもう一つの側面は「軍事の民営化」であった。この現代の傭兵たちは、戦場の主役として活動した。
記者は傭兵たちの故郷、南太平洋の島フィジーを訪ねる。一見平和な島の男たちの最大の就職先は戦場であった。はじめは口を閉ざしていた彼らも、ぼつぼつ語り始める。死亡率は高く、報酬は低い。安上がりな戦争。対テロ戦争とは、まさに戦争の新自由主義グローバリゼーションであったことが分かる。そして、大手の民間軍事会社の経営陣にブッシュ政権の副大統領チェイニーがいた。
最も手軽な核兵器、劣化ウラン弾が最も活躍したのがイラクの戦場だった。イラクから日本の支援団体に入る情報は、医療関係者の証言として、子どもたちを中心にガンや白血病が増えていることを伝えている。記者は、この超小型核兵器を使った側の兵士たちのその後を求めて、1990年代半ばのバルカン戦争の地まで足を運ぶ。イタリアでは政府が設置した調査委員会が「バルカン帰還兵にガンの異常な率の発生がみられる」と結論づけた。補償も始まっている。
しかしアメリカ政府は、イラク帰還兵に様々な異常がで出ているにもかかわらず、いまも因果関係を認めていない。そして、イラク全土にばらまかれた劣化ウラン団は今も犠牲者を増やしつづけている。
記者は今も戦火が続くアフガニスタン、そしてコンゴの子ども兵士の実態を追い、最終章でバクダット郊外の墓地にたつ。すぐそばにアブグレイブ刑務所がある。墓守小屋に泊まり、墓掘りを手伝う。遺族の想いで死者を聖地ナジャフに移すための「掘り起こし」もやってみた。強烈な異臭。早朝から遺族たちが次々とやってくる。悲しみはいつまでも癒えない。多くの人が話した。
「米軍は動くものをすべて撃った」
その兵士たちがいま、心身の後遺症で苦しむ。
ジャーナリストは人を救えない。しかし、それを伝えることはできる。だが、とも著者は思う。戦争が始まってしまったときに、既にジャーナリズムは敗北している。
本書は、敗北を噛み締めるジャーナリストの、戦場で心身を喪失したものたちへの鎮魂の花束である。
《共同通信社2009年12月刊、1500円+税》
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