2010年04月02日22時00分掲載
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文化
今法案化が進められている劇場法への懸念 文化統制につながる危険を演劇人が指摘
日本で演劇がどう作られ、運営されているか、一般にはほとんど知られていない。今、与党と一部の演劇人が劇場法という法律を作ろうとしている。しかし、それが施行されると文化統制につながる危険が懸念されている。一体何が起きているのか。木下順二作「山脈」を公演中の東京演劇アンサンブル・志賀澤子氏(共同代表)の寄稿を掲載する。(日刊ベリタ編集部)
■平田オリザ氏が提案している劇場法について
劇場法とは、かねてから全国の劇場の安全をまもり設備を向上させるために、芸団協で追求してきた法律だった。それを民主党政権下内閣参与となった平田オリザ氏が日本の文化芸術の発展のためにと、劇場の芸術制作、活動の内容までシステムをつくり法制化を急速にすすめ、今年参議院選挙後には成立させようとしていると、昨年11月頃から、にわかに新聞などに報道されはじめた。東京演劇アンサンブルが加盟して、志賀澤子が理事となっている日本劇団協議会でも、平田氏を招いてその構想をきくなかでその内容と問題点が明らかになってきた。
■10年後には全劇団が公共劇場の専属に?
先ず前提としては日本の文化予算が、欧米諸国とくらべて極端に少ないことがある。芸術文化の重要性を説得力をもって主張できなければ文化予算は増えない。これまでも各方面の努力で、文化の助成は文化庁だけでなく、自治省、外務省などで従来よりも行われるようになってはきた。演劇のジャンルでも現在公演助成や、海外公流、学校公演など様々な分野で、さまざまな劇団、演劇人が助成をうけている。しかし従来の劇団単位への助成では、質にばらつきがあり、助成が無駄になっている。一方いくつもの都市に立派な公共劇場ができ、芸術監督による企画、制作など、また地域のワーショップなども行われ成果をあげている。平田氏の提案は、今の日本では文化の認知度が急激にふえることは望めないから、まずばらばらに配分している助成金をひとつにまとめ、全国の公共劇場を拠点劇場としていくつか決め、そこに助成金を集中する。その劇場で芸術監督と俳優が作品をつくり、その他を観るだけの劇場として巡演し、その地域の人々とコミュニケーションを育て、子供たちに芸術の素晴らしさを教え、芸術文化の認知度をたかめることで、文化助成をふやしていく。平田氏によると10年後には、劇団はみんなどこかの公共劇場の専属になるか、そうならないなら、演劇教育者として働けばいいといったとか。簡単な説明だがそういう提案だ。
■多様な演劇の可能性を生かす助成を!
東京演劇アンサンブルのメンバーとして私はこのような方向を持つ劇場法に反対する。東京演劇アンサンブルは、現在文化庁から、重点支援事業、ほんものの舞台芸術、海外交流などに、作品、企画ごとに助成金を申請し、新作を仕込み、公演している。一方で自前の芝居小屋を維持し、学校の演劇鑑賞、演劇鑑賞会、こども劇場など、先生方や、観客と話し合い、交流するなかで、公演をつくり、誇りをもって劇団活動をしている。
私達はいまたくさんの方たちの援助をうけブレヒトの芝居小屋を改修し、新しい歩みをはじめようとしている。よその公共劇場に引っ越すことを望んでいない。しかし演劇を創り続けるための採算が、このような小劇場では成立しないことが自明だから助成金を望んでいる。助成を受ける事ができなくなっても芝居を創り続ける覚悟と、文化助成を求める活動が同時に必要と考えている。現在のような作品ごとの助成の持続を望み、改善も望んでいる。
現代世界のあらゆる問題を問い、豊かな人間の心を育てる、多様な演劇の可能性に賭けるどのような助成が大切か。演劇人の自由と、情熱を生かす文化助成を創りだす機会として、平田氏の提案の劇場法を捉え、よりすぐれた提案を沢山の演劇人と考えだしたい。
2010年3月11日
志賀澤子
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