2010年04月04日08時56分掲載  無料記事
http://www.nikkanberita.com/print.cgi?id=201004040856250

中国

さらば、グーグル! 「花は捨てることができるが、春の到来は止められない」

  3月22日、グーグルが中国本土から撤退した。一時は中国政府との話し合いが進められていたが、情報の自由が焦点となったこの問題はグーグルの撤退によって決着を見た。中国政府によるネット上の情報統制の事実は世界的に知られている。中国市場の「うま味」を捨てるはずがないと中国政府は考えたのかどうか知らないが、グーグルの撤退は今後の中国にどのような影響をおよぼすのか。それは政治的な米中対立にとどまることではないのではないだろうか。(納村公子) 
 
 さらば、グーグル! 「やっとこのことばがきっぱり言うことができた」と、ネットユーザーの小小白は言った。彼は2か月前同僚と賭をし、ずっと複雑な気持ちでこの日を待っていた。そのとき彼らはグーグルが本当に中国から撤退するかどうかを賭けたのだ。 
 
 3月22日、グーグルはブログで宣言した。─グーグルは、中国国内で検閲を受けるネット検索サービスを閉鎖しました。中国のユーザーが中国語エンジンやグーグルのニュース、画像を検索する場合は、自動的に検閲のないグーグル香港のサイトに移動します。中国本土のユーザーはアドレス欄内にwww.google.cnまたはwww.goole.comを入力すると画面はwww.google.com.hkに移動します。 
 
 1月12日、グーグルはオフィシャルサイトで、中国のgoogle.cnの検索内容に対する検閲に耐えられず、中国側と話し合ったが、もし「必要とされる法律範囲内」でまったく検閲を受けない検索エンジンが運営できないならば、中国語グーグルは完全撤退する、と公表した。 
 
 このとき、グーグルはすぐには撤退せず、水面下で長い交渉を展開していた。見守っていた人々の中から徐々に「かっこうだけだ」という声が出てきた。小小白の同僚はそう決めつけた。彼らが中国のインターネット企業に勤務している。小小白は、グーグルが信念のある会社だと信じていたが、彼の同僚は、企業というものはビジネスの利益がすべての上であり、グーグルも「撤退」という言い方は「うまい売り込み」となるわけだ。 
 
 この2か月来、グーグル事件をめぐって、グーグルの道徳説と陰謀説が噴出し、結局、グーグルは撤退、小小白は賭けに勝った。 
 
 3月23日、無名の人々が砂塵の吹く中、次々とグーグルの北京本社にやってきた。大きなグーグルの標識を取り囲み、花や記念品を置いていく。百合や菊の花、紫のヒナギク、白いバラ、赤いバラ、焼酎が2本、ヨーグルト飲料が1本、リンゴや飴までが置いてある。メッセージカードには「Thx 谷歌for Freedom of info」(情報の自由をもたらしたグーグルに感謝する)「純なあなた方に敬意を表する」「グーグルはりっぱだ」と書いてある。小小白も百合の花を1本贈った。彼はカードは残さなかったが、そばにあった黄金色のガーベラを指さし、言った。「ぼくの言いたいことはみんなが言っている」 
 
 ガーベラについていたカードにはこう書いてあった。「花は捨てることができるが、春の到来は止められない」 
 
 この花を捧げたのは法律を学んでいる院生だった。彼はこの日、南二環をまわって北京中心部に入り、本社のある中関村に来た。「このことばはぼくのことばではない。プラハの春を推進したアレクサンデル・ドプチェクが『希望は死なず』で言っていたものだ。現状が困難であることはみんな知っている。しかし趨勢は変えられない。そうだろう? ただ(自由の)代償が小さいことを願うだけだ」 
 
 彼は以前はこうしたことに注意をしていなかったが、ごく自然に使う習慣から、グーグルか百度かの選択でグーグルを選んだ。だが、この数年「壁」の存在をひしひし感じたという。「検索がなぜか何度もできないことがあった。敏感ワードはないと感じたり、あると感じたりすることがあり、こういうことに気づくようになった。それでグーグルに花を捧げに来ることになった」 
 
 グーグルと中国政府は何を話し合ったのだろうか。グーグルの上層部はメディアには会談の詳細を語ろうとはせず、ただ中国側と何度でも意思疎通をはかったが、成果は得られなかったことは認めた。グーグルが声明を出した当初、国務院の新聞弁公室ネットワーク局の担当者は、新華社を通してグーグルに対し厳しい口調で反応した。「グーグルが、中国市場に参入するときにかわした書面での約束に違反し、検索サービスのフィルターを解除し、(グーグルへの)サイバー攻撃について中国側を非難したという話はまったくの誤りだ。われわれはビジネスの問題を政治化することに断固反対であり、グーグルの理不尽な非難とやり方に不満と怒りを表明する」 
 
 アメリカのホワイトハウスはグーグルの決定を尊重すると表明し、グーグルが中国政府と和解できないでいることに失望しているとコメントした。 
 
 中国の『環球時報』はグーグルを非難する論を発表した。「グーグルは外資系企業を代表していない」「グーグルは中国だけでなく全世界を敵にまわした」「いったん中国から撤退したら、もどることはむずかしい」と。ネット上では自由のために叫ぶ声と同じくらい上がっていたのがナショナリズムの声だった。「百度、sosoを使え、お国の企業を支持しよう」「グーグルは中国から出て行け!」「香港に出て行け、遠ければそれだけいい」など。それと同時にグーグル事件に関する報道統制の要求が通達された。「グーグル事件に関する情報に関与してはならない。また報道してはならない。わが国の関係する政策を攻撃するための話を提供してはならない」 
 
 逼塞したネットユーザーたちは書き込みの中にこう書いた。「中国は、イランと北朝鮮に続き、世界でグーグルのない第三の国になった」「われわれは西朝鮮(北朝鮮の西にある中国。北朝鮮と同じような国の意味)の道を行っている。有害ワクチン、三鹿粉ミルクがあとから続いている。グーグルに撤退され、この悲しさは西から吹いてくる黄砂のように茫漠としている」 
 
 ACBridge投資コンサルティングの創設者、張濤はこう言っている。「グーグル事件の重要な意味は、中国政府がこれをきっかけに発するシグナルだ。つまり、どんな外国企業が撤退しても、中国市場は変わらず展開していく」 
 
 多くの分析でも、グローバル企業と中国企業は過去20年の共存状態から、中国市場の争奪戦へと代わりつつあることは認められている。 
 
 中国におけるアメリカ照会の最新調査によると、アメリカ企業が中国で歓迎されていないという。在中アメリカ企業203社のうち、38パーセントは中国で人気がない。昨年12月に公表された調査では、26パーセントの企業がそのように感じている。2008年の23パーセントである。 
 
 グーグル香港のウエルカム・ページ(中国でグーグルを入力し香港のアドレスにジャンプしたときの表示)には、「ようこそ、中国の新しい検索エンジンへ」ということばが加わった。香港政府は、ネットの内容は検閲しない、情報の自由を完全に尊重すると表明している。 
 
 しかし、中国大陸でグーグル香港を開き、胡錦濤をはじめとする中国要人の名前を検索しても、「ページが表示できません」となってしまう。ネットユーザーはグーグルは存在しているというが、中国のネットユーザーは言う。「国は変わらないが、歌はもうあの歌ではなくなった」(グーグルの中国語名が「谷歌」であることから)。 
 
( )は訳注 
 
原文=亜洲週刊2010/4/4 張潔平記者 
翻訳=納村公子 


Copyright (C) Berita unless otherwise noted.
  • 日刊ベリタに掲載された記事を転載される場合は、有料・無料を問わず、編集部にご連絡ください。ただし、見出しとリード文につきましてはその限りでありません。
  • 印刷媒体向けの記事配信も行っておりますので、記事を利用したい場合は事務局までご連絡下さい。