2010年05月01日14時30分掲載
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反貧困
制度の谷間で苦しむ多くの人がいる 障害者福祉の政策立案に市民・当事者の参加を
制度の谷間で放置されている障害者に対する政策をつくりだすことをめざして、市民運動が動き出した。日本の障害者福祉には大きな谷間があり、本当に必要なひとが福祉から排除されている現実がある。障害者福祉は臓器や疾病別に設けられた基準にそって交付される障害者手帳をもとに実施されるが、臓器、疾患、機能障害によっては対象にならず排除されるケースが多い。市民組織「制度の谷間のない障害者福祉の実現を求める実行委員会」は政府に対し、福祉の谷間をなくす政策立案過程への参加を求めて、賛同者をつのっている。(日刊ベリタ編集部)
同実行委員会の申し入れ書によると、年間3万2000人にのぼる自殺者のうち、メンタル的要因以外でも病気を理由に命を絶っている人が1万人を超えるとしている。その中には福祉の谷間で苦しんでいた人も、多く含まれていることが想定できる。以下、申し入れ書と、その背景にある福祉の谷間の制度的問題(資料1・2)を紹介する。
【制度の谷間のない障害者福祉の実現と政策立案過程への当会の参加を求めます】
日頃より制度の谷間のない障害者福祉、セイフティーネットの拡充にむけてご尽力いただき誠にありがとうございます。私達は介護や就労支援などが必要にもかかわらず、障害者福祉制度の谷間に置かれ、危機的な状況に置かれている現状を変えるために立ち上がった実行委員会です。
日本の障害福祉は実際の生活上の制限を反映していない、臓器、疾病別の基準で規制された障害者手帳を要件とした介護、就労等の制度(資料1参照)となっています。これではどんなに日常生活や社会生活上の制限が継続していても制度、相談窓口の入り口で排除されてしまいます。私達の日頃の相談でも、生きるあてがつかず途方にくれたまま危機的な状況におかれ続けている仲間がいます(資料2参照)。
年末の公設派遣村でも本来は障害者施策にアクセスしていなければならない方が「制度の谷間」に置かれ、孤立し、貧困化していることが明らかになっています。社会問題化する無縁社会の中で孤独死をされる方は年間3万2千人にものぼり、若年者の孤独死も多発しています。又、12年連続で年間3万人を越える自殺者のなかでも、メンタル的要因以外でも病気を理由として自らの命を絶つ人は1万人を越えます。仲間の現状をみていると、社会の底が抜け、社会が壊れ始めているのではと危機感が募ります。このような社会的損失を放置してもだれも得をしません。危機的な状態に追い込まれている当事者に直接手の届く施策を一刻も早く講じていくことは政治の使命であると考えます。行政・私達を含めた民間団体、全ての人が「一人、一人の命を守る取り組み」に向き合い、孤立させない、お互いが必要とされていると実感できる社会に向けた一歩として、まずは下記の実現を求めます
1、必要としている人が入り口で排除されず、誰でもアクセスできる「制度の谷間」のない障害者施策に向けて、障害者手帳要件による入り口規制を見直し、緊急対策、経過措置を求めます。
*障害者の手帳をもっていないくても医師の意見書等でインペアメント(原因となる障害で種別は問わない)が確認され、1週間の利用計画票等を提出したものは、入り口で排除せず、他のものとの平等を基礎として、日常生活、社会生活上の参加に制限が認められる人については介護、就労支援等の施策にアクセスできるように緊急措置、経過措置を講じて下さい。障害者自立支援法の成立時や3度の緊急対策からも先送りされ続けた経緯をかんがみ、今回は優先順位をあげて対策を講じてください。
2、障がい者制度改革推進会議や障がい者総合福祉法部会において、介護、就労等の福祉制度の谷間の議論において当会の参加を求めます
<制度の谷間のない障害者福祉の実現を求める実行委員会 呼びかけ人>
共同代表 山本 創(重症筋無力症当事者)
共同代表 篠原 三恵子(慢性疲労症候群当事者)
佐藤 香織(多発性肝嚢胞当事者)、岡本 崇(多発性硬化症当事者)、西銘 亜希(線維筋痛症、全身性エリテマトーデス当事者)
<賛同団体>
患者の生活・就労をつむぐ会
代表 山本 創
フリースペース彩 〜内部障害・難病当事者ネットワーク〜
代表 谷川 俊太郎
慢性疲労症候群をともに考える会
代表 篠原 三恵子
賛同団体を呼びかけています。
賛同者を呼びかけています。
<連絡・事務局担当>
患者の生活・就労をつむぐ会
担当 山本 創
〒121-0816
東京都足立区梅島1−15−5−203
tel/fax 03-6312-0383
資料1 介護、就労等における「制度の谷間」にある対象とは
障害者自立支援法の身体障害については、第四条(定義)で身体障害者福祉法の対象と規定してあるので、下記の谷間にある方々がどんなにその障害が重度で、介護や就労支援が必要な状態になっても、入り口で排除されている現状です。基準にある障害を2次障害等で発生した場合においてのみ限定して対象となります。精神障害、知的障害については、このような手帳要件がないにもかかわらず、身体障害だけ手帳要件が設けられ2重に入り口規制されています。
身体障害者手帳(身体障害者福祉法)で対象外とされている障害
(1)臓器別で排除されている障害
すい臓、脾臓、胆道等の臓器に起因する障害は対象外
*日本は腎臓、心臓、大腸等だけに限定。肝臓も数値基準等が厳しく、介護等が必要であるにも関らず、対象とならない方がいる
(2)疾患ごとで排除されている障害
血液・リンパ、免疫系(HIVを除く)の障害は対象外
*日本は免疫障害をHIVだけに限定。膠原病等の他の自己免疫性疾患は対象外。
(3)代謝及び酵素系の障害も対象外
(4)皮膚障害等に関わる障害も対象外
(5)活動障害は認められていても原因となる機能障害の違いで排除されている障害
A 2km歩行できるかどうかについては、筋肉、骨格、神経に原因がみとめられる機能障害がある人だけに限定。血液、免疫、臓器等の障害が理由で2km歩行できない人は対象外としている。
B 下記の症状が継続して障害とされるのはHIVだけ。血液・リンパ、免疫等を原因として同じように社会的制限が認められていても対象外となる。
・一日一時間以上の安静臥床を必要とするほどの強い倦怠感及び易疲労が月に七日以上ある、
・月に七日以上の不定の発熱(摂氏三十八度以上)が二か月以上続く
・軽作業を超える作業の回避が必要である等
介護保険は65歳以上で若年者は対象とならず、40歳以上の特定疾病も15疾病に限られる
難病居宅生活支援事業は難治性疾患克服研究事業130疾患と慢性リウマチに限られる。又、この事業を実施している自治体も全国で35%しかないために、住む地域によって利用できる人、できない人が出てしまう。
障害者の雇用の促進等に関する法律や特定求職者雇用開発助成金においても、実際の就職のときに必要となる障害者の法定雇用率や給料を補填する特定求職者雇用開発助成金については身体障害者手帳の保持が要件となっているために、上記の手帳制度で谷間にある方々利用できない現状。結局は生活保護制度等、他の制度に過重に負担がいく仕組み。障害者職病リハビリテーション等の訓練の対象では障害者手帳要件を問わず対応しているので、訓練だけに終わらせることなく、就職時にも利用できるように支援の継続性を担保すべき。
資料2 制度の狭間にあり介助等が利用できない難病等の事例
(1)33歳女性 埼玉県在住 骨髄性血小板増多症 19歳ごろから症状あり 障害者手帳なし 一人暮らし
<症状>脳梗塞に近い状態で体が動かなくなる。だるさ、痛みが酷く、動いた日の翌日から続く。一日一時間以上安
静にして寝ている必要が毎日ある。感染しやすいので人ごみを避ける必要があり、少しのタバコの煙でも脾臓の痛
みが出る。日光による火傷や体のだるさも酷く外出制限がある。特に免疫が弱くなっているのでカビや科学洗剤に
も弱い。生理は四日間最低寝込む(出血過多)。甲状腺、腎、肝機等の機能低下、全身いたるところに症状がでる。
以上のような症状が10年以上続いている。
<介助>家事支援等による体力的軽減が必要。週に1,2回でも
<外出>通院、買い物をかねて週に1,2度。外出後は寝たきりになって体力の調整が必要。
【当事者の声】
この10年間で私がやっていた生活が全部だめになり、失うばかりでした。若くして症状がでたので、働いて、貯金をためる機会も奪われました。週3日働けているときも、一日、一日出勤するのに覚悟がいりました。お化粧をするだけでも疲れてしまって、帰ってきてもぐったりで寝ているしかない状態。体がついていかない。介助、年金などあれば、できる範囲は自分でやっていきたい。今は、なんでもかんでも自分でやるしかない。様々な相談機関に行ったり、電話したりしましたが、理解してくれ心配し同情はしてくれますが、「ここでは何も出来ないんです…ごめんなさい…」と言う結果ばかりで、何も変わりませんでした。これから先の生活も心配。歳をっていくとどうなってしまうのか、なにかあれば今の居場所すらなくなってしまのではと思うと心配。
(2)46歳女性 福島県在住 多発性肝嚢胞 33歳時に診断 障害手帳なし 一人暮らし
<症状>不定熱、腹水が内臓を圧迫し、腹囲の増大、腸閉塞を起こし食事が困難になることも。腹痛・腰痛、足のむくみ・しびれ、ヘルニア、極度の疲労感、息切れ等、台所に立つのもやっとの状態。利尿剤の副作用も強い。月に3回の救急通院を繰り返し入院へ。その後も制度改善なし。
<介助>家事支援、通院介助が必要
<外出>通院、買い物以外で外出なし。用事が済めばすぐベッドに横になっています。
【当事者の声】
腹水の内圧などもあり内臓を圧迫しています。無理をしないで、腸が飛び出さないように、皮膚が裂けないように活動を制限する必要があります。いろいろな相談機関でもわからないと言われ、疾患名で差別され、余命があるかないか、歩けるか歩けないかなどの見た目で線引きされています。行政の支援窓口がないため、自分ひとりで、かかりつけ医、一般病院、専門病院間の連携もこなさなければならず、どの制度にもあてはまらない私は、自分で自分のケアマネージャー、ホームヘルパーです。心身疲れ果て絶望感でいます。
(3)43歳男性 鳥取県在住 多発性硬化症 31歳より治療開始 障害者手帳なし 一人暮らし
<症状>痛み、脱力が体のいたる部位に多発。症状悪化時には視野狭窄、全身動かなくなる等。
<介助>家事支援、通院介助、身体介助が必要 <外出>通院、買い物以外で外出はしない
【当事者の声】
私の住む地域では、はじめ難病居宅生活支援事業を実施していない地域でした。地域の相談機関に相談して、市役所、議員さんと交渉し実施させるまで、何の介助制度も受けることがでず、長い期間かかり、難病も重度化しました。緊急対応が必要なため、病院の近くにすむ必要があり、一人暮らしです。介助制度がないとき、症状が急激に悪化、全身痙攣をおこし、自宅で一人3日間転がっていることもありました。介助制度のない、同じような立場にある難病等の人に同じような危険な目にあわせないように、全国どこにすんでいても、介助がうけることができるようにしてください。
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