2010年06月05日04時56分掲載
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文化
パリの散歩道8 夜行性の風景画家マザル 村上良太
黄昏時から夜にかけて活動する風景画家に出会いました。画家の名はティエリー・マザル(Thierry Mazal)。動物にも日中活動するタイプと夜行性のものとがいますが、マザルの場合は夜行性です。彼が活動するテリトリーはパリとその郊外。夜の場合、街灯やイルミネーションなどの光を生かして描きます。そんな夜行性の画家が描く風景画に興味を感じました。
たとえば「2005年4月20日夜」と題された絵には黄昏時の街角が描かれています。まだ空は青さを残していますが、街灯はすでに灯っています。一方、「貯蔵庫」と題された絵はすでに夜になっており、たった1つの街灯が貯蔵施設の塀と入口をぼんやり照らし出しています。淋しい光景ですが、何かを感じさせる絵です。
何故黄昏の風景なのか。いつもどこで描いているのか。
マザルに聞いてみました。
「夕暮れ時、絵筆を抱えて運河に来るとノスタルジーを感じます。創作意欲が掻き立てられます。場所はパリ北部の運河や、パリの中の運河などです。夜は照明に照らされています。」
風景画を初めて描こうと思ったとき、黄昏時か夜の風景を描くことに決めたそうです。音楽、ミステリ小説、探偵映画、印象派の絵画など、かつて味わったそれらの記憶が想像力を駆り立てます。そうすることで彼独自のファンタジーを見つけることができるそうです。
マザルの画家としての経歴は少し変わっています。
子ども時代から図工が好きだったマザルはパリの応用美術学校(Ecole superieur d’arts appliques)に進みました。絵や彫刻といった芸術よりは工業デザインなどを専門に学ぶ美術学校のようです。卒業後、21歳でアニメーション映画の仕事を始めます。ディズニー映画のアニメーションなどを作っていたのです。この世界に夢中になったマザルは造型感覚やデザイン性、さらに色彩感覚などのセンスを磨きました。
それを裏付けるような一連の絵があります。
「ルブラン」では地下鉄のベンチに座っている3人の人間を描いていますが、3人それぞれ独特の姿形をしています。「部族」と題する絵でも公共のベンチに様々な人種らしい男女が集まって座っています。激しくデフォルメされた人間達にかえってリアルなものを感じます。そこにマザルの批評眼とユーモアがあります。
僕がマザルに出会ったのはモンマルトルの画廊Galryでした。
画廊のステファニー・モランさんはこう評します。
「マザルとは5年以上付き合っていますが、彼の絵が白黒のデッサンから、色彩豊かな都会の風景へ進化していくのを見てきました。その途中にはナイーブなバンドデシネ(BD=フランスの漫画)調の一連の絵もありました。マザルの絵を見ていると、本当にパリの郊外を歩いている気がしてきます。」
もともと画家になるつもりはなかったマザルですが、集団作業のアニメーション映画から、年を追ううちに、一人で自由に描いてみたくなっていったそうです。マザルの絵は彼の感覚の旅を見せてくれます。それはピカソのような大向こうを張ったものでなく夜行性動物が静かに変貌を遂げてきた印象があります。パリで生まれ育ったマザルですが、風景についてこんなことを言っています。
「パリの美しい風景やモニュメントを描こうと思ったことは一度もありません」
■画廊Galryのホームページ
http://www.galrystore.com
マザルの他の作品もここで見ることができます。
村上良太 ( Ryota MURAKAMI )
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