2010年06月21日09時52分掲載  無料記事
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中国

広がるストの現場ルポ(上) ホンダ労働者「自分たち独自の労組を設立したい」 新世代が先頭に

  5月になり、中国では日系の自動車部品会社、南海本田(ホンダ)でストライキが起き、台湾系の電子メーカー富士康で自殺者が相次ぎ、中国国有系の紡績工場、平棉紡織では女性工員たちを中心にストが決行された。『亜洲週刊』記者は南海本田と平棉紡織のスト現場を取材、労働者たちの生の声を伝えている。各地でいま起きている労働運動の主人公は誰なのか。彼らが訴えているのは何か。そこにはどんな社会矛盾が隠されているのか。将来どんな方向に向かうのか。動労運動は中国の経済、社会、そして政治にどんな影響を与えるか──。(納村公子) 
 
 照りつける太陽が春を消し去り、5月にして真夏のような暑さとなった広東省仏山市南海の本田ロードで、200人あまりの若い人が日差しのもと「要求が達成されなければ徹底ストだ!」と叫びながら歩いている。彼らは頭に「HONDA」と書かれた帽子をかぶり、白い作業服を着て、マスクをかけ、自分たちが作業をしている有名な日系企業、本田自動車部品製造有限公司に向かって歩いていた。 
 南海本田の工員たちは5月17日から断続的にストを行っていたが、25日から本田の中国工場すべての生産ラインが停止し、1日に4000万元(約360万ドル)の損失が生じた。 
 
 そこから遠く1000キロあまり離れた河南省平頂山では、現地最大の綿糸紡績企業、平棉紡織グループでは、5000人を超える工員たちが中途退職の補償金、国営体制改編の際の株券、賃金などの問題で作業を拒否していた。工場正門前には、南海本田のストを伝える地元紙「大河報」のトップ記事が貼り出されていた。平棉のある工員は本誌記者に言った。「彼らにできることが、おれたちにできないはずはない」。工員たちは毛沢東、周恩来の大きな肖像、そして毛沢東がストを論じた文章を貼り出し、工場の入り口には「共産党は母親だ。われわれは生活したい」と書かれた横断幕を掲げた。 
 彼らは18日間闘ったが、最後は河南省政府によって強制退去させられた。 
 
 ほとんど同時に、中国各地でストが起きている。無錫の日系企業、無錫ニコンでは工員が有機ガスによる中毒にかかったことから連日のストによる抗議が起きた。中国石油系列の儀征化繊公司では、企業の制度改革と資産の分配問題で古参の工員たちが抗議ストを決行、ヒョンダイ自動車に車体などの部品を提供している北京星宇科学技術有限公司は賃上げ問題で工員たちが抗議ストを行った。重慶市の■[其の下に糸]江歯車工場では、過労死問題でストが行われた。 
 
 1か月の間、中国各地で20近いスト事件が起き、宣伝系統によってメディアに「各地のストについて一切報道や評論をしてはならない」という禁止命令が出たが、情報はネット上で流出しつづけ、ネットユーザーたちの関心を呼び、「5月の大ストライキ」だと揶揄された。 
 南から北までストライキを起こした工員たちには期せずして一致した要求があった。それは自分たち独自の労働組合を設立したいというものだ。平棉グループの工員たちは「黒組織のほうが労働組合よりましだ」と言っている。南海本田でストを行った工員たちは、政府側の統制にある獅山鎮総工会〔労働組合本部〕が、工員たちに渡す金を取り上げたうえに工員たちをたたいたことを責め、ストの始めに労働組合の主席および関係人員を刷新することをはっきりと提示した。 
 
 香港の理工大学副教授で労働問題の専門家である潘毅氏によれば、「もし世界の工場が低廉な労働力というスタイルを変えなければ、こうした矛盾は積み重なる一方だろう。政府側にとって最もよい誘導方法は、底辺の労働者に組合に入る機会を与えることだ」という。まさに南海本田の工員たちは、「独自の労働組合」は必要ない、「労働組合を工員たちに返してくれればいい」と言っているかのごときだ。南海本田の工員たちは独自の組合を求めているのではなく、組合の再編を提示した。 
 それは彼らの中国の政治体制へのはっきりした認識を示している。ネット上では「組合の団結」をキーワードに、多くの人がスト決行の工員たちの組合再編を支持している。どのような訴えであれ、労働組合に関する主張は必ず中国社会の深い部分に抵触し、中国の将来に影響を与えることになる。 
 
 潘毅氏が本誌記者に述べたところによれば、2003年以来、ストライキによる工場労働者の運動は何度も起きており、今年5月が決して特別なのではなく、「矛盾の蓄積の現れ」だということだ。潘毅氏によれば「世界の工場」は今日にまで発展したが、労働対価の安さに頼って経済成長を進める方式を変えないかぎり、「矛盾は蓄積される一方であり、ストライキもさらに増えていく」という。 
 
▽新しい世代の労働者が登場 
 
 各地でいま起きている労働運動の主人公は誰なのか。彼らが訴えているのは何か。そこにはどんな社会矛盾が隠されているのか。将来どんな方向に向かうのか。動労運動は中国の経済、社会、そして政治にどんな影響を与えるか。 
 
 南海本田で労働運動の最前線に立つのは「80後」〔1980年代生まれ〕、「90後」〔1990年代生まれ〕と呼ばれる新しい世代の労働者である。彼らはストライキの計画者だ。24歳の譚はストを前にして工場側に退職届を出している。深センの富士康グループで半年の間に12件もの飛び降り自殺事件が発生した後、南海本田ストでは、新しい世代の「80後」「90後」の労働者が再びメディアの関心を集めた。 
 
 都市部に入った1億5000万の農民のうち、1980年以後生まれの人が約1億人、全体の六割あまりになる。今年の中央第一文件は、政府側として初めて彼らを新たな社会グループ「新世代農民工」として重視した。沿海部の都市では、80年代、90年代生まれの世代が見る間に「メイドイン・チャイナ」の主力労働者となり、出稼ぎ労働者の八割を超えるまでになっている。 
 
 社会科学院の調査によると、新世代の労働者には「3高1低」の特徴があるという。すなわち、教育程度、仕事への期待度、物質的精神的要求が高く、仕事での忍耐力が低いというものだ。 
 
 北京大学社会学部の郭於華教授は、仕事での忍耐力に欠けていることには、別の圧力があるからだと考えている。「この世代の人は現代の情報技術が使用できるので、社会の不公正に敏感で、その度合いは彼らの両親より高い」という。 
 郭教授によると、富士康の若い工員が飛び降り自殺をしたことと、南海本田の工員がストライキを行ったことはある程度関連しているという。「自殺は弱さの表れというだけでなく、内向的なものであり、自分の命を終わらせるという方法で抵抗を示している。ストライキは外向的で、経営者側、社会全体、権力部門に対して全力で姿勢を示そうとする積極的な表現方法だ」としている。潘毅氏もその見方に賛同し、「新世代の農民工が表しているのは怒りと絶望である。それは1つの問題の両面であり、制度そのものへの反抗だ」としている。 
 
 農村と都市とのはざまに生きる新世代の労働者たちの夢と戸惑いはいま大きなインパクトとなり、中国の改革と都市かのプロセスの空白を埋めようとし、深層部分にまで達しようとしている。南海本田のストで登場したのは、まさにこのグループである。 
 
 南海本田で働く労働者は全国各地の中等専門技術学校〔日本の専門学校にあたる。中学・高校卒業者が入る〕から広東に来たもので、雇用契約書を交わし、世界のベスト500企業の第一線に入った。彼らはそこに将来を見いだしたのだ。しかし、「賃金が低すぎる」「実習生と正式採用との格差が大きい」という現実にぶつかった。そして5月1日、仏山市は市内の最低賃金規定を引き上げたが、南海本田では賃金の実質アップをせず、労働者たちの長年積み重なった不満が爆発した。 
 
 郭於華氏は本誌にこう示した。「この世代は彼らの上の世代より教育があり、技術の受け入れもよくなっている。生活スタイルの選択も同じではない。彼らは都市での現代的な生活スタイルに共感を持ち、郷里の社会に帰る意志は持っていない。しかし、さまざまな制度や体制がネックとなって都市には入れない。彼らの苦悩は親の世代より大きい。これは根無し草になった状態だ」 
 
 南海本田の工員たちが出した要求の主なものは、基本給を最低800元〔約10700円〕にアップすることである。現時点では職能賃金(精勤手当などを含む)を除いた基本給が675元から700元で、実習生はわずか560元だ。工員たちは、賃金が長期にわたって低く抑えられているのは、労働組合が彼らの福祉のために働いていないからだ。今回、工場内のデモ行進では、労働組合の改編と組合長および関係人員の選挙を訴えていた。ストの推進者の譚氏はこう述べた。「労働組合ならば労働者の利益を保護すべきだ。しかし獅山鎮の労働組合本部はまったく経営者側に立ち、労働者のために何もしていない。我々は中国の労働組合にすっかり失望した」 
 
 若い工員たちは、南海本田が提示した4セットの給与見直し案をいずれも拒否し、そのうちの1セットがただ基本給を見直さず手当にとどめた案が場当たり的だと指摘し、「800元にアップ」がなければ「職場にはもどらない」とした。また、ストを決行したことで、あとで報復されないように、「スト参加の工員を解雇しないこと、依願退職に追い込まないこと」を付け加えた。経営者側がつくった「承諾書」には、工員に「今度、先導に立たない、人を組織しない、作業の遅滞や停止、ストライキに参加しない」という条項を確認させてサインさせようとしている。多くの工員たちはこれを破り捨てたり、足で踏みつけたり、ゴミ箱に捨てたりした。 
 
▽団体交渉が効果を得る 
 
 5月17日から、南海本田の工員たちは「工場内散歩」というスタイルでストを決行し、あくまで自分たちの要求を通して、労働者を代表しない労働組合との妥協はしなかった。仏山工場が親会社の本田自動車の中国工場(3社)に変速器を供給していたことから、仏山の工員たちが行った「散歩」スタイルのストライキによって各地への変速器供給が一時ストップし、ほかの工場は5月25日まで全面的に操業がストップした。 
 
 6月1日朝、広汽ホンダ〔ホンダと広州汽車との合弁会社〕の中国側代表、曾慶洪総経理は労働者と交渉後、6月1日の児童節に3日間の就労再開を求め、この期間に労働者側が提示した問題を処理し、金曜日(6月4日)午後、工員たちに回答をするとした。6月2日、就労再開を前にして、工員らは本誌記者に、金曜日に曾慶洪が回答できるかどうか、わからないが、軽視はしないと言った。 
 
 南海本田事件について、郭氏は、この期間に現れた組織力は注視にあたいすると考えている。「団体を形成する行動には、社会的な連帯関係がその中にきっとある。この意義はたいへん重要だ。労働者自身にとって、階級意識がつくられることが重要なのだ」 
 「これは健全な力だと思う」と潘毅氏は言う。「ホンダにしても富士康にしても、彼らが中国大陸で工場を建設したときから階級問題は持ち込まれている。いま労働者たちが組合法によって与えられている権力を通して自己を守り、資本側と良好な対話の基盤を持てるかどうか、これが重要である」 
 
 携帯電話のショートメールやQQ群〔テンセント(騰訊公司)が提供している無料ソフトで、ネット上でグループをつくったりチャットをしたりできる〕など最新技術が、今回、工員たちが始めた「工場散歩」の主な連絡方法に役立った。職員寮にはふつうネットのサービスはない。自分で部屋を借りても冷蔵庫やテレビなどまで用意できないので、定額料金の携帯電話が工員たちの生活の楽しみであり、情報の中心となっている。QQを使ったり、小説やニュースを読んだり、音楽をダウンロードしたりできるからだ。 
 
 南海本田の工員たちは携帯電話とネットメディアの力でストをすばやく広げ、メディアの報道をはやく得ていた。それと比較すると、河南省平頂山の平棉グループの一幕は明らかに「伝統」の色が加わっていた。 
(つづく) 
 
原文=『亜洲週刊』2010/6/13 張潔平、朱一心記者 
翻訳=納村公子 


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