2010年07月17日10時19分掲載
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外国人労働者
インドネシア・比の看護師候補生ら中途帰国者が続出 合格者も沈黙破り「改善策」を陳情
EPA(経済連携協定)により、インドネシアとフィリピンから来日した看護師・介護福祉士候補生の総数は、第一陣が到着した2008年から現在までで998人に達した。しかしこのところ、中途帰国する候補生があいつぎ、7月9日づけの読売新聞によると合計33人(インドネシア15人・うち看護師12人/フィリピン人18人・うち看護師11人)がすでに日本での国家試験取得をあきらめ、帰国していることが分かった。(和田秀子)
とくに、外国人の合格率がわずか1.2%だった今年の国家試験終了後の4月に帰国した者が11人のぼっており、読売新聞は、「日本の国家試験の難しさなどから、将来の展望が見出せずに就労をあきらめた人が少なくないと見られる」と報じている。
▽「壁」は国家試験だけか?
しかし、彼らが帰国した原因は、果たして国家試験の難しさによるものだけなのだろうか。
人材不足が進む日本において、今後、優秀な外国人たちが看護師・介護福祉士として活躍できるようにするためにはどうすればよいのか。
インドネシア人看護師の支援組織「ガルーダサポーターズ」の共同代表、宮崎和加子さんにお話をうかがった。
Q 候補生たちの中から多数の帰国者が出ているが、この原因は何だと思うか?
宮崎氏:今年3月に実施された看護師の国家試験では、インドネシア人2人、フィリピン人一人しか合格できず、非常に厳しいものだった。そのため候補生の中には、「来年も受かる見込みはないだろう」と思って肩を落とした者もいただろう。しかし、帰国の原因はそれだけではないはずだ。私が知るかぎりでは、病院や介護施設などの受け入れ機関とうまくいっておらず、「もうここには居られない!」「居てもらわなくて結構!」ということで、お互いに三行半を突きつけて帰国に至った候補生もいたと聞いている。
すでに多くの候補生たちは、期限内の合格は難しいかもしれないが、せめて日本滞在中に経験を積もう、と考え始めている。なのに、あと1年という今になって「試験に合格する見込みがない」ということだけで帰国するとは考えにくい。それよりも、施設側との折り合いの悪さに原因があったのではないか。もちろん、どの候補者も努力はしているだろうが、性格や能力、日本語の習得度合いもひとりひとり違う。なかには、「インドネシア人は皆、明るいと聞いていたのに、うちの施設にやってきた候補生は暗くて、ずっと隅っこのほうでジッとしているだけ」とこぼしていた施設担当者もいたという。
また、施設の規模も異なるため、機関によってずいぶん受け入れ体制に差が出ているのが実情だ。そんななかで3〜4年の期限内に合格しなくてはいけないわけだから、途中で嫌気がさしてしまったのだろう。
Q 現在、「受験機会を増やす」とか、「難解な専門用語を易しくして試験を実施する」といった試験方法の改善案が、東京都をはじめ各支援団体から挙がっているが、政府は第一陣が最後の試験を受ける来年3月までに何らかの改善策が示すことができるのだろうか?
宮崎氏:かなり厳しい状況だ。最悪の場合、第一陣で来日した候補生たちは、時間切れで帰国ということになるだろう。
というのも、今年、厚生労働省が約9億円の国家予算を投じて教育プログラムを作ったので、それを利用してどのくらいの合格者が出るか、というのを見てから判断するつもりだからだ。今年の看護師の国家試験は、インドネシア人2人、フィリピン人一人、合計3人の合格者しか出なかった。さすがに来年はもう少し合格者が出ると思うが、5割には届かないと思う。その数を多いと見るか少ないとみるか――。
最初の受け入れ段階で、一人につき、すでに200万以上の費用がかかっている。そのうえ、今回の教育プログラム作成で9億円ということを考えると、単純計算しても一人の受け入れに対して700〜800万円かかっていることになる。それで合格者が5割に届かないとなると、この制度はいったい何が目的だったんだろうか、と。そういうふうに総括し、改善策を考えるべきではないかと思う。
▽改善を阻む縦割り行政
Q こうした状況を、インドネシア人候補生たちはどのように受け止めているのか?
宮崎氏:去る7月3日にガルーダサポーターズの総会が開かれたのだが、そこに出席した第一陣のインドネシア人看護師候補生たち6人が、はじめて陳情を行った。
内容は、「期限内で合格できず帰国となった場合、インドネシア本国でも引き続き国家試験を受けられるよう、ガルーダサポーターズから政府へ提言してほしい」というものだった。この6人のなかには、今年、看護師の国家試験に合格したリア・アグスティナさんとフェブリアン・フェルナンデスさんもいた。私たちは、こうした陳情があるということをまったく聞かされていなかったので、とてもビックリした。
候補生たちは、これまで私たちが聞いても愚痴や泣き言を一切言わなかった。「がまんしなければならない」と思っていたからだろう。しかし、ここに来て陳情したということは、「日本での経験をムダにしたくない」という強い思いがあったからだと思う。私どもガルーダサポーターズとしても、彼らの陳情を受け止め、再度政府に提案したいと思っている。
Q ガルーダサポーターズでは、今年1月にも「外国人看護師・介護福祉士の受け入れについての改善策」を政府に提出したそうだが、その後、動きはあったのか?
(『国家試験改善が急務 インドネシア人看護師らの受け入れで支援団体が政府に要望書提出へ』http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=200912051211426)
宮崎氏:具体的には進んでいない。複数の省庁が関係してくるので、縦割り行政では思うように進展しないのだ。EPAは経済産業省が管轄だが、国家資格に関しては厚生労働省だし、私たちガルーダサポーターズはODAを使って看護師・介護士候補生の学生を受け入れたほうがいいと提案しているので、そうなると外務省や文部科学省も関係してくる。こうなると、どこがイニシアチブをとってよいのか分からず、ちっとも進展しない。本来は、政治判断で進めるべき問題なのだが、政権が不安定な状況なので先が見えない。ただ、近々、政府内で見直しのための委員会が立ち上がる、という話しは聞いている。
Q 受け入れ機関として手を挙げる施設も減っているそうだが、このままいくと、なんのメリットもないまま尻すぼみとなってしまう可能性もあるのではないか?
宮崎氏:このままいけばそうなるだろう。今後の対策いかんによる。そもそもEPAのスキームで人材を受け入れているかぎりは改善できない。看護・介護の専門家を育てて、日本の足りない部分を海外の優れた人材の手をかりて補おうという考え方に立てば、受け入れのスキームはずいぶん違ってくるはずだ。
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