2010年09月27日02時06分掲載
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農と食
野生猿を追って 2 〜日光で猿と熊と〜
日光を荒らしている野生の猿を追っていたある早朝のことだ。道路脇の民家の屋根に猿たちが上っていくと、中から、おばさんが寝間着姿で出てきた。彼女は銀色の銃を手にしていた。猿の被害に遭っている土産物屋で働いているおばさんだった。「撃たなくても銃を見せるだけで猿は逃げていくんですよ」と説明してくれた。モデルガンだったのだ。被害に遭っている地元の人々の多くがモデルガンやエアーガンを持っており、猿が来ると威嚇のために撃っているのである。
一階の引き戸から入ってくるのはまだ序の口で、悪質なのは電線を伝って二階の窓を開けて入ってくるケースだ。こうなると、窓も開けられない。夏場は特にきつい。しかも、家の中でがたがた不審な物音がしたら、相当不気味だろう。猿か、物取りかにわかにはわからないからだ。毎日がこんな日々なのである。餌付けしたら、観光客が喜ぶだろうし、集客効果もあるに違いないが、住民たちは被害を受ける。
取材でいろは坂周辺をレンタカーで回っていると、いろは坂の入り口に車を止めてライフル銃を取り出している青年たちを時々見かけた。迷彩服を着ている。戦争ごっこなのか、猿を撃つためなのか。彼らがトランクからライフル3〜4丁を取り出すのを目にすると、興味を引いた。本物でなくエアーガンだろう。日光の猿たちは銃を見ると一目散に逃げていたから、しばしば撃たれて痛い目に遭っているのだろうと推測される。だが、こうして撃たれる猿たちも哀れだ。確かに人間の食い物がうまいから人間を襲うのだが、もとはと言えば山が杉林ばかりになって食糧が不足してきたことが猿の異常を生んだ原因になっているのだ。
日光の山中湖畔は美しい。山があり、湖があり、大自然の恵みに満ちたところだ。湖畔の一等地にはフランス大使館の宿舎がある。さすがフランス人だけあって、いい場所に建てられている。しかし、フランス人たちはしばしば猿に襲われていた。食糧を持って歩いているところに猿が飛びかかるのである。欧州に猿はいないから、驚いているだろう。
山中湖畔のレストランでは鱒料理が食べられる。そこではツキノワグマのハクセイが入り口で観光客を歓迎している。「最近、また熊が降りてきてつかまったそうですよ」と店員が教えてくれた。熊も出るのである。男体山という勇壮な山が湖の向こうにそびえている。熊はそこに生息しているのだろう。しかし、熊も時に人里に降りてくるらしい。
翌日、小型ビデオカメラを手に猿の群れを追って男体山に入った。次第に道から奥に入っていく。しばらく追っていると、突然、猿たちがみなするすると木を上っていくではないか。あたりはしんと静まりかえり、嫌な感じがした。何かがいるのだ。熊だろうか。熊が出たら死んだふりをするのか。
その時、木陰から現れたのは鹿だった。鹿は10メートルほど向こうから顔をこちらに向け、興味深く見つめていた。カメラを回しながらファインダーから僕も鹿を見つめ続けた。その間どれぐらいの時間だっただろう。やがて鹿はぴょんと向きを変えて去って行った。
村上良太
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