2010年11月09日13時01分掲載  無料記事
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環境

生物多様性保全は「絵に描いた餅」か  COP10開催中の名古屋で平針里山伐採、失われゆくSATOYAMA  上林裕子

  愛知県名古屋市の名古屋国際会議場で10月11日〜10月29日まで開催されていた生物多様性条約締約国会議(COP10)。会議は08年に開かれたCOP9からの懸案事項「遺伝子資源へのアクセスと利益配分」に関する国際ルールを定めた名古屋議定書を採択。政府は「参加国から議長国としての取りまとめ努力に対して高い評価を得た」と自らを自己評価している。しかし、会議場から最も近い名古屋市の平針里山では、COP10の期間中に伐採が始まり、長い年月をかけて育まれてきた里山は消えようとしている。(写真提供:平針の里山保全協議会) 
 
  今年1月にパリで開催された「SATOYAMAイニシアティブに関する国際有識者会合」では日本が提唱したSATOYAMAイニシアティブ(生物多様性と人間の福利のための社会生態学的生産ランドスケープの推進)について議論、その結果をパリ宣言としてまとめ、生物多様性条約締約国会議(COP10)の場に提出。COP10の会期中に世界の里山をつなぐネットワーク「SATOYAMAイニシアティブ国際パートナーシップ」を発足させた。 
 
  しかし、国際パートナーシップが発足した数日後の10月25日、COP10の会場から最も近い名古屋市天白区の平針里山で業者による伐採が開始された。住宅地に隣接する5ヘクタールの平針里山は、湧水による4つのため池と棚田、果樹園などがあり、池のそばの湿地には固有種のトウカイモウセンゴケやミズスギなどが繁茂している。起伏に富んだ敷地の中にはと竹や広葉樹が広がり、多くのトンボが生息する。3万人の署名を集め、市に里山の買い取りなどを求めて活動してきた市民団体「平針の里山保全協議会」の見守る中、伐採は始まった。 
 
  平針里山はわずか20日間ほどであらゆる木が切りつくされ、見るも無残な姿となってしまった。里山をすみかとしていたタヌキも、すみかを追われてしまった。人々が「トトロの木」と呼んでいたシンボルツリーも、あっという間に切り倒された。 
 
  いくら「SATOYAMAイニシアティブ」を掲げて国際ネットワークを作っても、足元の小さな生物多様性も守れないのなら「絵に描いた餅」でしかない。 
 
  当初、河村たかし名古屋市長は市民の要請を受け、平針里山全面保全の考えを示し、「平針里山をCOP10の象徴に」と考えていた。しかし、業者側の販売価格25億円と市側の買い取り価格(19億5千万円)が折り合わず市は買い取りを中止、開発許可を出さないのなら訴訟を起こすとの業者の強い態度に09年12月、市側はついに開発許可を出した。 
  「トトロの森」と呼ばれる埼玉県の「淵の森保全連絡協議会」の宮崎駿監督は平針の里山を「なごやのトトロの森」と呼び、里山を残したいという市民の活動にエールを送る。 
 
  平針の里山保全協議会は次のように言う。「考えてみてほしい、COP10、人口減少の時代に、素晴らしい里山を破壊して住宅地を造るべきだろうか」「将来世代に譲るべき自然環境の破壊は、『合法的』に行われている。『法律』が時代にそぐわないのであれば創りなおすべきだ」。 
 
  8割が切り倒されてしまった平針の里山。しかし、名古屋市はかってごみ処理場を計画していた藤前干潟を、ごみを大幅減量することで残し、渡り鳥の飛来するゆたかな干潟を守った。干潟も里山も、失ってしまえば2度と再生できない。今ならまだ、間に合う、平針の里山開発にストップをかけ、次の世代に残していこう。小さな生物多様性を守ってこそ、「SATOYAMAイニシアティブ」ではないのか。 
 
平針の里山保全協議会のHP http://www.wa.commufa.jp/~hirabari/ 


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