2010年12月01日22時46分掲載  無料記事
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検証・メディア

ウィキリークス ーニューヨーク・タイムズへの疑いの眼:ジグソー・パズルの一片

 告発サイト「ウィキリークス」の米外交公電の暴露(11月28日以降)を巡り、暴露の前に情報を渡されていた米ニューヨーク・タイムズ(NYT)、英ガーディアン、仏ルモンド、スペイン・エルパイス、独シュピーゲルの5つの媒体による報道の中で、私が比較できたNYTとガーディアンの報道を見て、あれ?と思ったことを前回、書いた。(ロンドン=小林恭子) 
 
 やや情報を整理すると、外交公電のどれをどのように報道するかは、各媒体の編集部が決め、ウィキリークスとの約束は報道日の取り決めのみであったという(ガーディアン編集長記事29日付紙版、「Editor’s note(編集長のノート)」)。 
 
 これによると、ガーディアンを含めた5媒体は、外交文書のリークを報道することを事前に米政府に伝えていたため、どんなトピックがでるかのおおよそを米政府は予期できていた。米政府はまた、5媒体側に対し、特定の公電あるいはトピックに関して懸念を表明したという。 
 
 報道直前までの細かな編集判断や米政府との行き来に関して、ガーディアンよりは明確に書いているのがNYTである。(前回紹介した「読者へのお知らせ」。) 
 
 ガーディアンの先の「編集長のノート」から読み取れるのは(繰り返しになるが)、米政府には「外交公電のリーク報道が出ること」が通知され、「米政府側は特定の項目に関して懸念を表明した」こと。ガーディアン側あるいは他の媒体が、米政府の特定の懸念を考慮に入れて、当初の編集判断を変えたのかどうかは、明確になっていない(その一方で、NYTは政府のアドバイスを受け入れて、変えたものがある、とはっきりと書いている)。 
 
 ガーディアンは「名誉毀損で訴えられないように」、あるいは特定の項目の影響を考慮して、独自の判断で出さなかった、あるいはぼかした情報があったことを説明している。 
 
 さて、「ニュース・スパイラル」さんに、日刊ベリタ掲載分から転載していただき、いくつかコメントをいただいた。 
 
http://www.the-journal.jp/contents/newsspiral/2010/12/post_705.html 
 
 そのひとつは 
 
「WLは公表前にNYTには情報を流していません」。 
 
 ガーディアンを通じてNYTに情報が渡った・・・という話は私もどっかで(ガーディアンで?)読んだ記憶があるのだが、今、どの記事だったか見つからないので(!)、とりあえず、見つかってからまた考えようと思う。ただ、ガーディアンから渡ったにせよ、公表(28日)のだいぶ前に情報を得ていたということは、NYTやガーディアンの記事に書かれているのだがー?もし、ウィキリークス(WL)とニューヨークタイムズの関係が、何らかの意味でこじれている・こじれていたとすれば、これはこれで興味深い話である。 
 
 もう1つのコメントは、情報リークの人物とされる、マニング兵の表記の英訳である。 
 
 「low-levelと云うのは「階級が低い」という意味で「無能」という意味ではない。 それにa security loophole云々は、彼が海外(敵?)の万全のセキュリティ・システムで防御されたコンピュータに侵入する技術を持っている情報分析の専門家だということです。 つまり現状に失望した若い有能なコンピュータ技術者だと云っているのでNYTが彼を「賤しめている」とは思えません。易しい英文なので英語の読解力の問題ではないでしょう。NYTの記事は必ずしも公平とは言い難いですが、小林さんの解説もNYTへの偏見をもって書かれているのでは? 」 
 
 「low-levelと云うのは『階級が低い』という意味」――ああ、そうか!と思った。そういう意味もあったな、と。軍隊の話である。 
 
 ところが、たとえ「階級が低い」と訳・解釈したとしても、実のところ、私のNYTに関するマニング兵の紹介(この「読者へのお知らせ」の記事の中、という意味)が不当である印象は消えないのである。 
 
「失望した(がっかりした)、階級が低い、セキュリティーの抜け穴に(不当に)侵入した」アナリストー。 
 a disenchanted, low-level Army intelligence analyst who exploited a security loophole 
 
 一つ一つが、一定の(ネガティブな)価値判断をもって発せられている。個々の情報は事実といえば事実。中立とさえいえなくもない。しかし、問題は、「文脈に必然性がない」ことや、「当局側にたった視点」であること。これが気になるのです。この気になる感じ+胸がドキンとする感じは、もしこの兵士が自分の弟だったらどうか?と考えると、身近になるかもしれない。 
 
 そこで、ガーディアンを見てみる。デービッド・リー記者の「いかに25万点の文書がリークされたか」という記事である。 
 
http://www.guardian.co.uk/world/2010/nov/28/how-us-embassy-cables-leaked 
 
 ここでは、いかにマニング兵がたやすく外交情報を取得できたかが書かれている(7段落目から10段落目)。「例えばレディー・ガガと書かれたCD(書き込み可能)を手にし、音楽を消して、機密情報をこれに書き込んでいく」ーといったことが簡単にできたとするマニング兵のコメントが紹介されている。 
 
 この情報自体はすでにほかで報道済みの話ではあるが、記者の立ち位置は「セキュリティーが甘い米政府の情報体制」への批判のまなざしである。 
 
 マニング兵は、「情報は自由であるべきだ。公的空間に所属するべきだ」と述べ、「自由な情報の活動家たち」であるウィキリークスに情報を送ったという。 
 
 同兵のコメントはこれまでにも何度も他の媒体が報道している。しかし、ここであえて入れたのは、リー記者はあるいはガーディアンは、マニング兵を情報公開の推進者として、つまりは一種のヒーローとして(勇気ある行為をした人物)、ポジティブに見ていることを示す。 
 
 ・・・ということを読んで、私はNYTとガーディアンの立ち位置の違いを感じた。本当は、ここまで詳しく書くほどのことでもないのだろうが、あえて書いてみた。つまるところ、「ぴんときた」という話なのだが。 
 
 また、前にも書いたが、この立ち位置の違い(と私が受け止めたもの)は、米国のメディアと英国のメディアの違いから来るかもしれない。つまり、米国メディアにとっては、米国の外交公電が及ぼすリスクを英国メディアよりは真剣に考えざるを得ない部分がある「かも」しれない。 
 
 「NYTへの偏見をもって書かれているのでは?」という点だが、これはコメントを書かれた方だけではなく、私の前回のエントリーを読まれた方で、「ガーディアンに好意的過ぎないか?」と思われた方は結構一杯いらっしゃるかもしれない。 
 
 私の結論は:確かに、今のところ、ウィキリークスとガーディアンの報道に関して、「ガーディアンはすごい!」と思っている。好意的過ぎるかもしれない。中立であろうとは思っていない。ただ、ウィキリークス及びウィキリークス的動き(告発サイト、流出)には問題もたくさんあると思う。公務員機密法はどうなるのか、情報の信憑性をどうやって確認するのか、そのほかにもあるだろう。 今は、「すごいなあ」と思うばかりだが、他の問題も考えるときだと思っている。「問題がある」と書くと、それ自体でネガティブな意味に取られそうだが(?)、そうではなく、「面白い課題がたくさん出てきたぞ」、という意味である。 
 
 それと、NYTへの偏見だが、少なくとも「大いなる疑問」はある。大いなる疑いの眼(まなこ)がある。ただ、それは、いわばジグソー・パズルの一片である。あれ?と思ったら、これをメモり、自分の心に留めておく。そしてそのメモを自分なりに証拠をあげてブログなどに書いている。 
 
 パズルの一片が「黒」であったとしても、全体が黒とは限らない。それでも、私が今持っている一片は「黒」なのである。テロの警告でいえば(!?)、黄色―注意、である。とりあえずはこの一片を宙に浮かせている状態である。(「英国メディア・ウオッチ」より) 


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