2010年12月15日00時38分掲載  無料記事
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地域

市民団体、成田空港騒音問題で国交省と空港会社に申し入れ 「1分半から2分おきに生命に危険さえ感じる騒音が」

 市民団体「いま成田空港で何が起きているか」(略称・成田プロジェクト)は12月9日、国土交通省と成田国際空港株式会社に騒音問題で申し入れを行った。成田空港は今年3月から年間発着回数22万回体制で運用され、2500メートルのB滑走路直下の東峰集落では基準をはるかに超える騒音が1分半から2分間隔で住民を襲う異常事態が続いている。成田プロジェクトは「人権・生存権を侵害し生命の危険を冒している航空機騒音を、人間が生存できる数値まで直ちに下げる」ことを求める声明を発表、国交省と空港会社に申し入れたものだ。申し入れに対し国交省は、「空港会社に住民と話し合うよう指導してる」と話した。しかし、詰めていく中で「話し合い」の目的は「移転していただく」ことであることが明らかになり、騒音軽減対策を講じることについては言及を避けた。(大野和興) 
 
◆生存権を侵害する騒音 
 
  成田空港は、従来暫定滑走路と呼ばれていた長さ2200mのB滑走路を2500mに延長し、昨年10月から運用を開始した。それに伴い発着回数を大幅に増やし、当面年間22万回,将来は30万回にする方針を打ち出した。同時に、主要滑走路である4000mのA滑走路のより効率的な運用をはかるため、A滑走路は離陸、B滑走路は着陸という運用方針を採用,実施している。このため、空港に囲まれ、B滑走路に近接する東峰集落では、中・大型ジェット機が頭上40mを1分半から2分間隔で着陸する事態になった。 
 
  東峰集落には有機農業を営む農家が家族とともに住み、農の営みを続け、また地元農産物を使い,安全でおいしいラッキョ漬けや漬物などを作り、消費者グループに届ける地産地消の農産物加工場などがある。これら住民や加工場で働く人たちは、日常的に異常騒音と航空機事故のリスクに囲まれて暮らしている。 
  成田プロジェクトは今年の夏、B滑走路下の一点を選び,騒音調査をした。その結果、明らかになったのが上記の状況だった。15時初めから16時初めまでの60分間に26便が着陸、計測値葉も最も低いもので89・3デシベル、最も高いもので101・3デシベルで、数値は90代後半に集中していた。 
 
  これを超えると人間としての生活が困難になり、健康障害をもたらすとされている「騒音限界値」は65〜70デシベルだから、受忍限界をはるかに超えた騒音が東峰地区の住民やこの地区にある職場で働く人に絶え間なく襲いかかっているのだ。 
 
  成田プロジェクト声明と申し入れはあわせて、かつて運輸次官を勤めた黒野匡彦成田国際空港社長(当時)が,平成17年5月9日付けで出した「東峰区の皆様へ」という文書についても言及している。同文書は暫定滑走路(B滑走路のこと)の計画策定や運用について非を認めて詫び、「皆様の生活環境や人間としての尊厳を損なうようなことは二度とやってはいけない強い決意を述べるとともに、「あくまで皆様との話し合いによって解決してまいりたい」と約束している。 
 
  声明と申し入れはこれらの諸点を指摘した上で、「人権・生存権を侵害し,生命の危険を冒してる航空機騒音を、人間が生存できる数値にまで直ちに引き下げる」ことを求めている。 
 
◆「移転を納得していただく」 
 
  申し入れには、国交省空港部成田国際空港整備推進調整室の箱田厚課長補佐と松本洋専門官が対応した。やりとりの一部を紹介する。 
 
成田プロジェクト(以下,成) (騒音調査の結果を報告した後)騒音問題をどう考えているのか。 
国交省(以下,国) 住民の理解のうえに進めるよう空港会社を指導している。この申し入れについても会社に伝える」 
成 騒音を軽減するようにと指導しているのか。 
国 納得いただけるよう十分な説明をするようにといっている。 
成 何を納得させるのか。 
国 成田の法律に沿って「移転補償について話し合え」と言っている。 
成 住民の要求は「騒音を減らせ」ということだ。それに対して「移転してくれ」では話し合いにはならないではないか。 
国 個別具体的には当事者間で防音工事とか防音室を作ったりとか。 
成 なぜ国は住民と直接話し合わないのか。 
国 北側への延伸を決めた時、当時の北川大臣の指示で、住民との話し合いは会社に任せ、国は出向くなということになった。 
成 黒野社長が東峰住民に出した手紙をどう考えているのか。騒音について「頭上を離着陸する航空機への恐怖心は表現できないもの」と述べ、「あくまで話し合いで解決といっている。これは住民への約束だが、全く守られていない。 
国 時間がかかる。 
成 これで30万回になったらどうなるか。 
国 計算上は1時間で60回やれば30万回できる。国際基準で大型機は2分間隔と決まっているが、中型は1分で大丈夫だ。 
 
  成田国際空港会社への申し入れは、東京・丸の内にある同社東京事務所で、戸井健司所長に行った。戸井所長は「申し入れについては上層部に伝え、対応を検討する」と答えた。 
 
【声明 人権・生存権を侵害する航空機騒音をただちに止めるべきです】 
 
 いま成田空港では、ほとんど報道されていませんが、人権と生存権にたいする著しい侵害が起きています。「民主国家」を標榜するこの国で発生しているこの事実を広く訴え、早急に解決策を講じる必要があります。 
 
 今夏、私たち「成田プロジェクト」(市民団体)のスタッフは、B滑走路の下の騒音測定をしました。測定結果は、90〜100デシベルを超えるジェット旅客機の騒音が、1分半〜2分毎に降りかかってくる、というすさまじいものでした。爆音の絶え間がほとんどないのです。 
 
 この騒音は、騒音限界値である65〜70デシベルをはるかに超えています。騒音限界値とは、これを超えると人間としての生活が困難になり、健康被害をもたらすという数値です。また、最近の普天間爆音訴訟判決、小田急騒音訴訟判決よって示された住民が受忍できるとされた騒音をはるかに超え、ガード下の状況です。 
 
 私たちは昨年10月に発した声明で、B滑走路の北伸2500メートル化と発着回数の増加によってもたらされる、さまざまな危惧を指摘しました。「B滑走路の南端の東峰区では農を営む人びとが暮らしており、いっそうすさまじい騒音と排気ガスが、そしてさまざまの事故の危険性がその人びとを襲うこと」「全国の一坪共有者に権利返上を求める動きを強めて権利の侵害がおこなわれている」「初めての死者を出した米フェデックス貨物機炎上事故をまったく顧みず滑走路の延伸と発着回数の増大だけを追求するのは、安全性無視もはなはだしい態度である」(「成田空港B滑走路の延伸の中止を求める声明」)などです。 
 
 さらに、現地で暮らす住民をはじめとする当事者の意向を聞き、延伸計画そのものを再検討することを求めました。 
 
 私たちが危惧した通り、B滑走路の北伸と今年4月からの発着回数22万回への増便によってもたらされたのが、「生き地獄」ともいうべき騒音の暴力なのです。これ以上の増便は許させません。 
 
 そもそも、国と成田空港会社は、住民と取り交わした約束事をどのように考えているのでしょうか。 
 
 たとえば、運輸次官を勤めた黒野匡彦成田空港会社社長(当時)は「東峰区の皆様へ」(平成17年5月9日付)という文書で、まず暫定滑走路の運用について詫び、東峰区住民との合意形成を図ることなく計画を策定したことの非を認め、騒音について「頭上を離着陸する航空機への恐怖心は表現できないもの」いう認識を示しております。 
 
 そして、「皆様の生活環境や人間としての尊厳を損なうようなことは二度とやってはいけないとの強い決意」を述べ、「平行滑走路 注、B滑走路のこと)問題については、あくまで皆様との話し合いによって解決してまいりたい」と約束したのです。 
 
 成田空港会社は、初心に返ってこの黒野社長の約束を誠実に履行すべきです。 
 
 政府と国土交通省は、成田空港会社が人権を尊重し、社会的責任をはたすべく、厳正な指導・監督をすべきです。 
 
 私たちは、人権・生存権を侵害し、生命の危険を冒している航空機騒音を、人間が生存できる数値まで直ちに下げることを求めます。 
 
2010年12月9日 


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