2010年12月16日21時33分掲載  無料記事
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農と食

「沈黙の春」は人にも来る――農薬の現状 有機農業関東集会青山美子氏の講演を聞いて 笠原眞弓

 
  12月11日熊谷市立文化センターで「有機農業関東集会」が催されました(主催:有機農業関東集会実行委員会)。前橋市の小児科開業医、青山美子医師の「農薬と人体被害の実態」の記念講演は、春に沈黙するのは虫ばかりではなく、ヒトもいなくなることをはっきりと示すものでした。青山医師はミツバチの大量死に関係があるとされているネオニコチノイド系農薬を例に、生態系、人体への影響について述べられました。 
 
 
《カメムシ防除かミツバチ保護か――答えは明白なのだが》 
 
  その内容は、現在欧米で購入・使用ともに禁止、あるいは厳しい制限のある、有機リン系農薬(メタミドホス、クロルピリホスなど)とアセタミプリドなどのネオニコチノイド系農薬(殺虫剤/製剤名モスピラン、マツグリーンほか)の人体への影響についてでした。ネオニコチノイド系農薬については、昨秋の国際有機農業映画祭で募集した3分ビデオで上映されたカメムシ防除にも使われる農薬で、神経毒性があるためミツバチが巣に帰れなくなり、ミツバチの大量死にもつながっているというものです。 
 
  稲に付くカメムシは米の胚乳を食し、刺し痕が黒く残ります。この斑点米の発生率で等級、(玄米1000粒に2〜3粒で二等米、3粒〜7粒で三等米)が決まり、買取価格が決められますが、買い取ったあとに流通業者は色彩選別機にかけて斑点米を除去し、一等米と混ぜて消費者に届けています。 
  「一等米」と斑点米を混ぜた「二等米」「三等米」を実際に炊いての試食会でも、参加者のみなさんが「食味の違いはなかった」という結果だったのに、等級が下がらないためだけにカメムシ駆除をしているのです。 
 
 ちなみに、一等米と二等米の買取価格差は60kgあたり1000円ですが、選別機にかけるコストは50〜100円といわれています。 
にもかかわらず、農協は農薬によるカメムシ駆除を推奨しています。実際に、昨秋たまたま覗いた秋田駅のコンコースで開催されていた農協主催の米の品評会の会場には、この農薬使用を推奨するポスター展示がありました。 
  それには、「残効性が高く、したがって散布回数が減らせる(減農薬)」とあったのです。残効性が高いということは、いつまでも毒性を持っているということです。たまたまそばにいた農協の方に、ミツバチの大量死の原因と言われていて、欧米では禁止の方向だというと、「エッ」という顔をしていました。しかも、斑点米の食味の話をすると、「はッ、あずさ(味は)かわんね」というのです。「では何故、散布を奨励するの?」には答えてくれませんでした。 
 
  もちろん、ネオニコチノイド系農薬は、カメムシ以外の虫にも殺虫効果があります。 
 
《脳神経の異常を引き起こす農薬――自殺、子供の暴力も関係あるかも》 
 
  ところで、青山さんのお話では、虫ばかりでなく人間にも薬効(?)が認められ、すでに中毒症状が出てきています。特に成人よりも、胎児(ラットでの実験)や成長期にある子供に強く影響するというのです。青山さんは、1970年代から来院する患者さんの症状と有機リン系農薬の関係を研究していたところ、ラジコンヘリによる無人散布が始まったのと時を同じくした1995年以降急速に中毒患者さんの増加に気づきました。人が撒くときは1000倍希釈、無人の場合は5〜8倍希釈とか。 
  青山さんは、有機リン系農薬の空中散布と健康被害の関係を立証して、06年に県内での空中散布を止めました。 
 
  ところが再び松くい虫の防除後に、体調不良を訴える患者さんが増加し始めました。04年ころから散布農薬がネオニコチノイド系農薬(アセタミプリド・製品名マツグリーンと思われる)に替わったのです。再びアセタミプリドの散布中止要請を群馬県に対して求め、ついに08年に全域で廃止になりました。 
 
  この農薬は、95年に農薬認定されたもので、機序(作用するメカニズム)は違いますが有機リン系と同様に脳神経系に作用します。ネオ二コチノイドは、神経のシナプスにある神経伝達物質の受容体に結合して神経を興奮させ続けて正常な情報伝達を阻害します。これは、人も虫も同じで、中枢神経をやられるのです。ミツバチの大量死もこの中枢神経の障害で、巣に帰れなかったり、帰っても神経がマヒして死に至るのです。 
  参考までにいうと、アセタミプリドはベンゼン核の1つの炭素が窒素になっているビリジン核に塩素が結合し、猛毒のシアン基も持っています。 
 
  中枢神経を侵すので、風邪様症状(全身倦怠、頭痛など)のほか、指の震え、四肢脱力感、動悸があり、心電図にも異常が現れ(自律神経の異常)、心不全で死に至ることもあります。物忘れや痴呆、うつなどの症状もあり、何の理由もなく突然暴れたりします。しかも有機リン系農薬があると相乗効果で、さらに症状が顕著になるということもわかってきました。 
 
 ここで示されたのは、自殺者の年次推移と子供の暴力行為の発生件数のグラフ。自殺者はうつと相関関係があります。98年に急増して3万人台を超えたのは有名です。それと児童暴力。これは97年から05までは3万から4万件の間を推移していたのが、その後08年にかけて直線的に3倍に増えています。 
 
  これを青山さんは、生物学的変異があるに違いないと、ネオニコチノイド農薬の関与の疑いを示唆しています。自傷行為の激しい子供、他人を平気で傷つける子供の食生活を改めたところ改善したという実績に基づいての発言です。今後、その科学的実証が待たれます。 
 
《治療は解毒と原因物質断ち――改善されるということは》 
 
  松くい虫防除の空散を止めてひと息つく間もなく、中毒症状の患者さんが来るようになったと青山さんは続けます。心臓がバクバクすると言ってくる患者さんの心電図は、頻脈、除脈などが現れていて、よくこれで生きているという人もいました。 
 
  患者さん発生に地域性がないことから、口径によるものと考えて、3日間の食べたものを書いてもらったものが、パワーポイントで投影されました。年齢はまちまちですが、枠の中に納まらないものや、字ともいえない線が書かれているもの、記入欄の隅に書いてあるもの、記憶力低下のため前日夕食以外空欄のままのものまでありました。ところが治療後のものはまったく正常で、丁寧な文字で書いてあります。 
 
  治療は、対処療法と原因物質の除去が基本。イチゴ狩りの4日後に発症した人は、解毒剤と点滴などで、毎日国産果物を食べていた人は下剤と解毒剤を処方して果物をやめる指導をしました。梨畑の真ん中に住んでいた人には転地を勧め、お茶、ウーロン茶もやめさせました。農薬をまく地域の下流域での地下水は飲まないようにします。土壌がすでに汚染され、したがって地下水も危ないからです。その指導に従った人は、改善向かったといくつかの例を示されました。 
 
  このような患者さんは年間100〜200人いらっしゃるとか。これらのお話を伺っていて、さまざまな条件を割り引いても、脳神経に悪さをしていることは歴然としていて、衝撃的であることには変わりがありません。 
 
《作物全体が毒で汚染されている――根から吸収して蓄積》 
 
  ネオニコチノイド系農薬は分解が遅く、土壌にいつまでも残る上、分解生成物の毒性はさらに強いと宣伝されているそうで、その通りいつまでも毒性を保持します。しかも根から吸い上げられた農薬は、植物全体に蓄積され、それを食べたものに作用します。つまり、駆除目的の虫ばかりでなく、それを食べた動物にも「薬効」があるのです。もう一度言いますが、この農薬はカレー事件でもおなじみ、猛毒のシアン(青酸)基をもっているのですよ。 
 
  「毎日野菜や果物をたくさん食べる人、お茶をたくさん飲む人に多く発症します。もしりんごを食べるなら、皮を厚くむき……」、ここで私は、内心爐修Δ修θ蕕貿戚瑤……瓩隼廚辰討い襪叛鳥海気鵑蓮屬修海鮨べてください。農薬は皮にもあるけれど、内側ほど濃度が濃いのです」と続けます。 
 
  一般に化学物質を取り込むのは、8割が肺からと言われていますが、この農薬は、肺からと同じかそれ以上に、飲食による摂取が大きいというのです。浸透性がよく、分解が遅く、根からも吸収し、作物全体が農薬漬けになるからでしょうか。 
 
《行政無策の農薬、化学薬品規制――残留濃度は欧州の500倍》 
 
  行政はこの事実を把握しているはずなのに、これも驚くべきことに残留農薬基準が、EUのなんと50倍(リンゴ、梨、桃、トマトなど/11年2月10日から20倍)から500倍(ぶどう、いちご、茶葉など/同300倍)なのです(表2)。この数字は、体重25キロの子供がぶどう500グラムを食べると、許容摂取量になり、それ以上食べると中毒になるという量です。 
 
  さらにゾッとしたのは、同じ農薬が家庭用殺虫剤や家庭菜園用、公園の樹木用、ゴルフ場の殺虫剤として売っていますが、農薬としての使用ではないので、まったく規制がありません。つまり、私たちは、知らずに危険な化学薬品にさらされているのです。これらの事実を踏まえて、危険な農薬身辺から排除していかなければなりません。 
 
  同じ農薬が家庭用殺虫剤や家庭菜園用、公園の樹木用、ゴルフ場の殺虫剤として売っていますが、農薬としての使用ではないので、まったく規制がありません。 


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