2011年01月24日12時31分掲載
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アジア
【イサーンの村から】(14) 虫を食べる 森本薫子
イサーンでは虫を食べるのはよく知られているが、本当にびっくりするほどいろいろな種類の虫を食べる。コオロギ、イナゴ、セミ、バッタ、タガメ、カミキリムシ、タマムシ、様々な蛾のサナギなど。油で素揚げしたり、レモングラスなどで味付けして食べることが多く、イサーン人には大人気。私も一通りは食べたことがある。竹虫を揚げて塩をふったものなんて、トウモロコシの味にそっくりで食べやすい。
◆昆虫のエネルギー効率は最高
昆虫は、加熱することで雑菌等の問題もなくなるので食べても何の問題もなく、タンパク質もたっぷりで、植物から摂取したミネラルやビタミンも豊富らしい。調べてみると、昆虫類は食べた植物のエネルギーの40%を自分の質量に変換できるので、食料資源としては、少ないコストと時間で食料に出来る段階まで養うことができる、生態学的および経済的に効率の良い優れた動物性タンパク源・・・とのことだ。
昆虫食って、食べ物が不足している地域で食べ始めたのが起源と聞くけれど、今となってはイサーンの人たちは明らかに好んで食べている。美味しいから食べている。その上こんなに優れた食べ物だったとなると、虫が住みやすい環境を保っていくことは重要事項だ。
味付けされた虫は市場でも売っているけれど、イサーン人は捕まえるのもとてもうまい。コオロギは養殖する村人もいるが(なかなかいい値段で売れる)、普通は土の中に隠れているのを掘って捕らえる。素人ではそう簡単にはいかないが。
夜間に飛ぶ虫は、電球の横に板を設置し、その下にバケツを置く。暗くなってから電球に集まってくる虫が、その電球や板にぶつかり、下のバケツに落ちるという仕組みだ。うちの農園では、この仕組みを池の上に設置して、板にぶつかった虫が池に落ちて、魚のエサになるようにしている。
◆アリはおいしい
食する昆虫の中にはアリも含まれている。タイは暑いだけに、アリの出現は日常茶飯事。アリと一緒に暮らしているという感覚だ。甘いものにたかるアリ、湿気のあるところに住み着いて卵を産むアリ、農作業をしているとものすごい痛さで噛み付くアリ、などなど、黒、茶色、赤、小さいのから大きいのまで、様々な種類が出現する。この中でもイサーン人が大好きなのは赤アリだ。他と比べて大きめなので、噛まれるとめちゃくちゃ痛いのだが、この卵が大人気なのだ。
よくマンゴーの葉に巣を作っていて、それを上手にとって、生きた赤アリがまだうじゃうじゃいるまま一緒に料理してしまう。卵自体はぷっくりしていてただのタンパク質のかたまり。特に味がするわけでもないが、プチっとした食感がいい。
そこに、酸味の聞いた赤アリを混ぜる。「蟻酸」というけれど、本当に「酢」の味として利用することには驚く。これに、例によって、ナンプラー(魚醤)や唐辛子などで和えてもち米と一緒にいただくのだ。市場でも結構いい値段で売っていたりするのだけれど、ものすごく美味しいというよりは、これも、「そう簡単に集められない」という希少価値から美味しさが増すのだろう。この前も、野生の生き物を捕まえるのが得意の叔父さんが、あっという間に採ってきて料理してくれた。
私はカブトムシには全く興味がないので種類は知らないけれど、イサーンではカブトムシさえも食べられてしまう。よく発生する時期には家の中にも入ってくるので、つかんで外に投げ捨てるくらいだ。本当にじゃまくさい。子供達ははしゃいで服に付けて遊んだりしている。叔母さんも次から次へと捕まえて、バケツの中に溜めている。炭で焼いて、甲羅と足をとって、中身を食べる。なんてことない味だけれど、まあ、香ばしいかな。
◆蛙をさばく
虫以外にも、農村では一般的に食べるのが蛙。養殖もできるが、田んぼや池でもよく捕まえられる。何年も前になるが、夫の実家で得度式の料理の準備を手伝っていた時のこと。たくさんのお客さんに料理を出すために、厨房は大忙しだった。すると義母がバケツを持ってきて、「これ、さばいてね」と私に渡す。中では大人の拳ほどもある蛙が7匹飛び跳ねていた・・。「さばけるよね・・?」と言われ、「こんなに大きくてグロテスクな蛙は、つかんだこともありません・・」と心の中でつぶやきながらも、「はい、できます」と答えていた…。
「このくらいできなかったら、ほんと子供以下。使い物にならないよなぁ」と思いながら、思い切って1匹つかんでみた。ぐにゃっと生ぬるい感触。すかさず包丁の刃の逆側で頭を叩き、息の根を止める。そして白いお腹を切り開いて内臓を出し、あとはぶつ切りにするだけ。まあ、やってしまえば魚と同じでなんてことはないのだけれど。揚げたり炒めたり、スープに入れたりなど、食べ方は様々だ。今ではうちの食卓にも時々上がります・・。
◆一文なしでも生きられる
イサーンの農村では、材料を買ってそろえて作った料理よりも、捕まえてさばいて・・・と始まる料理の方がだんぜん人気料理が多く、イサーンの人たちも「ご馳走だ!」と興奮する。捕まえるところから始めると、食べられるまでに時間はかかるけれど、料理に時間をかけられるのは、贅沢で幸せなことだと思う。
食べなれていない物に関しては舌が慣れないと美味しく感じないものだから、都会の人がいきなりこの食生活になったら満足するかはわからないけれど、少なくとも、この土地で育った人たちにとっては、これだけ周りに野生の食べ物があるのは、食の安心感にも繋がるだろう。
先日も、近所のおじさんが自分の池で巨大な魚を捕まえた。魚のスープをたっぷり作り、私達もおすそ分けをいただいた。こんなことが、日常的によくあるのだ。イサーンの農村に住む限り、一文無しになっても、野生の生き物とおすそ分けがある限り、食べ物の心配をするのは後回しでも大丈夫そうだ。
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