2011年02月03日23時47分掲載  無料記事
http://www.nikkanberita.com/print.cgi?id=201102032347054

中東

【エジプト情勢】ムバラクの戦略とはーシャシャンク・ジョシの見方(BBCニュースより)

 大規模デモが起きたのに、即時辞職を考慮に入れず、「9月の選挙後」に退陣を示唆したことで、多くの国民から反感をかったエジプトのムバラク大統領。一体、どんな戦略があるのだろう?BBCニュースに掲載されたシャシャンク・ジョシの見方を紹介したい。(ロンドン=小林恭子) 
 
 ロイヤル・ユナイテッド・サービス・インスティテュート(RUSI)のリサーチ・アソシエート、シャシャンク・ジョシ(Shashank Joshi)が、BBCニュースのサイトで、ムバラクの戦略を解説している。http://www.bbc.co.uk/news/world-middle-east-12356064 
 
 シャシャンク・ジョシによれば、彼には3つのいわば「選挙区」があるという。まず一つが、米国が主導する国際社会、次に軍部、最後にエジプト国民。長年の暴君としては、この3つの相手に力を分散することになる。 
 
 そして、ムバラクは国際社会、軍部、国民の順番で対処した、という。 
 
 まず、仲が悪かった内務大臣を含む、政府を解散させた。これは、エジプト国民に向けてというよりも、米国に向けた動きで、正直で活発な改革がこれから行われることを見せるためだったという。 
 
 カイロ国内で、政府解任の決定に心を動かされた人は「一人もいなかっただろう』とジョシは書く。しかし、米政府にとっては時間稼ぎの機会を与えたわけである。 
 
 その後、抗議デモが巨大化し、堪忍袋の緒が切れた状態となった米政府だが、できたことはムバラクに9月に辞任するように告げただけだったという。 
 
 さて、国際社会にひとまず対処したムバラクは、次に軍隊への対処に向かった。軍部と権力を共有するための地盤作りを始めたのだとう。 
 
 副大統領のスレイマン氏は軍出身者であるばかりか、軍内の情報収集にも関わっていた人物。シャフィク首相は空軍を統括していた人物だ。 
 
 ムバラクは「絶望の内閣」を作ったのではなくて、クーデーターを起こしうる唯一の組織を「買った」のであった。 
 
 「戦車の指揮官が権力の中核を握ろうとしない限り、政府不支持派は、革命のエネルギーを現政権に対する真に決定的な攻撃に変える手段をもてないことになる」。 
 
 ムバラクの譲歩で不支持派の数が減少すれば、軍にクーデータを起こすようなリスクを取るよう、説得することが難しくなってしまう、とジョシは見る。 
 
 実際、軍部はクーデーターを実行できる能力はあるかもしれないが、大量の脱落兵が出ないと、例えば大統領の宮殿を包囲するなどはできない。そして、もし、ムバラクが「うまく動けば、こうした脱落は起きないかもしれないのだ」。 
 
 ムバラクが軍に対し、市民に発砲しないよう告げたというのは、「単に友愛の印というよりも、デモ参加者の貴重な信頼を得るためなのだ」―この点をオバマ米大統領も誉めたぐらいなのだから。 
 
―若い将校はどう動くか? 
 
 ジョシが「もっとも予測しがたい」とするのは、若者将校たちの動きであるという。 
 
 将校たちのクーデターは、エジプトにとって忘れられない事件である。ウィキペディアによれば、「1952年、自由将校団がクーデターを起こしてムハンマド・アリー朝を打倒、1953年に最後の国王フアード2世が廃位され、共和制へと移行し、エジプト共和国が成立」しているのである。 
 
 今のところ、この点がどうなるか、ジョシも分からないようだ。 
 
 一体、どこまで現状が続くのだろう?ジョシによれば、現在、エジプトの国民の5分の1が貧困層。いつまでも抗議はしていられないし、いつかは、仕事に戻らざるを得ない。その「いつ」が来るまで、ムバラク大統領は「待ちのゲーム」をやっているのかもしれない。 
 
 国内のプレッシャーが高まり、まるで沸騰したやかんの中の水のようになった時ーージョシはこれをはっきりとは書いていないがーー武力衝突及び弾圧という事態が起きないとも限らないようだ。 
 
 ジョシは1991年のイラク民衆蜂起を具体例に挙げる。この時、「クルド人住民を中心にした反サダム国内のシーア派住民とクルド人が政権への反乱を起こした」「しかし、シーア派が期待したアメリカや多国籍軍の支援はなく、サダム政権は弾圧に成功する。この際、反政府蜂起参加者に対して、非常に苛烈な報復が行われ、シーア派市民に対する大量虐殺が発生した(ウィキペディア)」。 
 
 この1991年の民衆蜂起時、「米国はこれを当初奨励したが、抵抗を指示するところまでは行かなかった」とジョシは書く。「結果として、国際社会の眼前で、大量殺戮が行われたのである」。 
 
 暗い結論となったが、一触即発状態が続いている。 
 (「英国メディア・ウオッチ」より) 


Copyright (C) Berita unless otherwise noted.
  • 日刊ベリタに掲載された記事を転載される場合は、有料・無料を問わず、編集部にご連絡ください。ただし、見出しとリード文につきましてはその限りでありません。
  • 印刷媒体向けの記事配信も行っておりますので、記事を利用したい場合は事務局までご連絡下さい。