2011年02月19日00時30分掲載
無料記事
http://www.nikkanberita.com/print.cgi?id=201102190030396
TPP/脱グローバリゼーション
【TPPって何なのだ】TPPは民主的プロセスを破壊する アメリカでは市民グループがTPP改革を打ち出す
アメリカでも国際協力、環境、人権などに携わる有力NGO、市民グループがTPP交渉を監視する活動を進めている。彼らは、TPPに反対するというよりも、それを通して民主的で弱者や環境にやさしい貿易&投資をめぐるルールを新しく作り直す必要性を主張している。彼らのスローガンは「New Deal or No Deal(新しい協定を、それができないならば協定などやめてしまえ)」というものだ。(安藤丈将)
アメリカは、すでに52カ国とFTA(自由貿易協定)あるいは二国間投資条約(BIT)を結んでいる。FTAとBITによって、企業は環境&労働権上の義務を負うことなく、外国での投資の自由を謳歌することができる。ますます多くの企業が協定の締結国に生産拠点を移した結果、地域の雇用が減少した。しかもFTAとBITは、民主主義という観点からも問題含みである。企業は外国で自分たちの利益が被害を受けていると感じれば、国際法廷で訴訟を行い、賠償を求めることができる。FTAとBIT によって、外国の企業が一国の民主主義のプロセスに介入することができる。
アメリカの市民グループの多くは、こうした状況を問題であると考えてきた。そこで彼らは、TPPに反対するというよりも、それを通して貿易&投資をめぐるルールを新しく作り直す必要性を主張している。アメリカでTPP交渉を監視する市民グループが「New Deal or No Deal(新しい協定を、それができないならば協定などやめてしまえ)」というスローガンを掲げているのは、こうした状況を背景にしている。
選挙運動期間中にオバマ大統領が企業の利益よりも労働者、環境、消費者、家族農業の利害を優先させる貿易協定を新たに作ると約束したこともあって、市民グループは、これまでのひどい協定に規制をかけるべく、オバマ政権に対して積極的にロビー活動を行っている。
アメリカの市民グループが特に問題にしているのは、まず投資家と国家との間の紛争解決メカニズムである。これはオーストラリアの項でも触れたが、企業が投資先の国の法律によって自分の利益が損なわれていると考えた場合、国際法廷に出てその国を訴えることができるというものである。パブリック・シティズン、フレンズ・オブ・アース、シエラ・クラブなどの連名で2010年8月に出された報告書の中では、この紛争解決メカニズムの改革が10の要求のうちのトップ項目として出されている。http://p4tpp.dyndns.org/images/stories/TPPInvestmentPacketFINAL.pdf
次に市民グループが問題にしているのは、知的財産権の項目についてである。ブッシュ政権は、そのFTAとBITの交渉の中で、WTOのTRIPS(知的財産権関連の貿易に関する協定)で求められる以上の知的財産権の保護を交渉相手国に対して課してきた。これによって、途上国の恵まれない人びとが医薬品にアクセスできないという事態が生じてしまった。途上国援助や保健衛生問題に取り組む20を超えるグループは、2010年9月にUSTR(アメリカ通商代表部)に向けて公開書面を出した。ここでは、あらゆる市民の健康を守り、あらゆる市民が医薬品を手にすることができるという観点から、これまでのFTAやBITを改革していくべきであると訴えている。http://www.citizen.org/documents/TPPaccesstomedicinesandIPsignonletter.pdf
もう一点、市民グループが問題にしているのは、エネルギー政策である。市民グループは、オバマ政権がエネルギー政策に関して、依然としてブッシュ政権の規制緩和政策を引きずっていると指摘している。
2010年4月、オバマ政権が石油採掘の規制を緩和した直後、メキシコ湾の原油流出事故が起きた。この事件を受けて、市民グループは、化石燃料への依存を改め、クリーン・エネルギーへの移行を進める必要性を唱えている。2010年6月、サンフランシスコでのTPP会合の開催を前にして、インターナショナル・フォーラム・オン・グローバリゼーションのVictor Menottiは、メキシコ湾原油流出事故の教訓を踏まえ、TPPの中でエネルギーや環境サービスの自由化や規制緩和を進めるべきではないと強調している。http://www.youtube.com/watch?v=zBoYf1jMHFI
Copyright (C) Berita unless otherwise noted.
日刊ベリタに掲載された記事を転載される場合は、有料・無料を問わず、編集部にご連絡ください。ただし、見出しとリード文につきましてはその限りでありません。
印刷媒体向けの記事配信も行っておりますので、記事を利用したい場合は事務局までご連絡下さい。