2011年03月08日12時41分掲載  無料記事
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アジア

開発と核廃棄物処理場建設に揺れる台湾東部のアルイ古道を歩く(中)  開発反対で都市と農村の青年がつながる  安藤丈将

  この「樂園」が現在、消滅の危機にある。台湾政府は近年、台湾東部の開発を進めていて、その一環としてアルイ古道の近辺にまで「台26線」と呼ばれる公道が延びることになっている。すでに建設は進んでおり、もしこの公道が完成すれば、台北からの車でのアクセスが楽になるが、その一方でアルイ古道は消え去ってしまう。自然海岸林の環境上の価値や先住民の自然と土地に対する権利の観点から、現地ではアルイ古道を守ろうとする運動が立ち上がっている。地元だけでなく、台東、さらには台北など都市の人びとも、古道の行く末に関心を寄せている。 
 
◆「國光石化」開発案をめぐる争い 
 
  「台26線」をめぐる対立は、現在、台湾で議論を巻き起こしている地域開発をめぐる問題をはっきりと示している。春節前に台湾の政治をにぎわせたのは、「國光石化」の開発案をめぐる衝突であった。これは、国営企業と民間企業の共同組織である國光石化公司が主導して、巨大な石油化学工業施設を建設する計画のことである。 
 
  2005年にこの計画が公表された当初は、雲林離島工業区に建設が予定されていたが、その後、彰化県大城郷に建設することが決定された。彰化県大城郷は、台湾中西部に位置し、人口約2万人の海辺の小さな町である。國光石化公司はこの開発が2万人の雇用を生み出すと主張している。地域開発の大義名分のもとに、この4,000億台湾ドルを投資する大型の開発案は、官民一体となって強力に推進されてきた。 
 
  しかしこの開発案は、市民社会からの強力な批判にさらされている。2011年1月27日、環境保護署(日本の環境省に該当する)は、國光石化開発による環境影響評価(第四次)の結論を承認し、この開発案を可決する計画を立てた。この数日前から、で、建設予定地で、台北で、様々な抗議行動が展開された。とくにメディアの注目を集めたのは、高校生の座り込み行動であった。1月25日には建設予定地に近い彰化高中(高校)の約400名の学生が、この日の授業が終わった午前10時10分から10分間、学校の講堂前で座り込みをした。 
 
  彼らは、環境保護署に向けて、「Just Want Clear Air(きれいな空気が欲しい)」と訴え、建設の推進に抗議の意思を示した。http://news.chinatimes.com/politics/50205627/112011012600125.html 
 
  この日は彰化高中だけでなく、彰化地区で合わせて2,600名の高校生が同じ時間に座り込みを行った。 
 
  とくに國光石化に対する抗議行動の中心になっているのは、「全國青年反國光石化聯盟」に集まる若者たちである。http://fangyuan-tache.blogspot.com/ 全國青年反國光石化聯盟は、前日の26日の夕方から、環境保護署の前での抗議行動を組織した。「國光石化・決戰時刻」と称されたこの行動は、あいにくの小雨にもかかわらず多数の人びとを集めて、一晩中続いた。全國青年反國光石化聯盟は、開発案に反対する台湾各地の1,600名の大学生、2,646名の高校生による署名を公表した。さらに、(1)國光石化の開発案を撤廃すること、(2)持続可能な農業と漁業を保護すること、(3)環境上の価値のある建設予定地近辺の湿地である「大城溼地」を守ること、の三つを要求として掲げた。 
 
  全國青年反國光石化聯盟は、「國光石化・決戰時刻」行動前の記者会見で、「GDPの数値と國光石化公司の利益のために、世代間の正義に違反し、子孫に負債を残してはならない」と訴えた。また、石油化学工業施設の建設予定地近辺の海は、イルカの生息地であり、もし建設が進められた場合、イルカが死滅することが予測されている。イルカが暮らす海を汚すなという訴えも、多くの人びとの心を動かしていた。未来世代への責任、そして人間だけでなく動物の生きる権利という世界のエコロジー運動の中で共有されてきた考え方を、ここに見て取ることができる。 
 
◆「農漁永續」の未来を描く都市の青年たち 
 
  さらに全國青年反國光石化聯盟は、いったいこれが誰のための開発であるかを問うている。國光石化公司は、石油化学工業施設の建設によって、約2万人の雇用が生まれると主張している。しかし抗議者たちは、この数字の根拠の確かさに疑問を呈するだけでなく、雇用と引き換えに多数の農漁民の生活に悪影響が及ぶ点を問題にしている。全國青年反國光石化聯盟は、「農漁永續」という言葉を自分たちのスローガンに掲げている。そのマスコット・キャラクター(?)は、魚と稲を持った農漁民であり、日本で流行の「ゆるキャラ」を思わせるデザインである。 
 
  興味深いのは、現地の住民と連携しながら、都市の若者が反國光石化の運動の中で重要な役割を担っている点である。彼ら都市の青年たちは、農漁民の境遇に同情しているからというよりも、台湾が将来どのような社会であるべきかを賭けて、抗議行動に加わっている。「國光石化・決戰時刻」の会場で配られていたステッカーには、「2050年の台湾に送る」という言葉が書かれていた。大規模な石油化学工業施設を建設して雇用を生み出していくというやり方ではなく、自然と一体になった農業と漁業を軸にして生活を成り立たせていくこと。これが彼らの描く台湾の未来像である。 
 
  反國光石化の運動に集う青年たちは、環境保護署前の行動で、音楽やコメディーを中心に抗議行動を展開した。環境問題や先住民問題に関連する社会運動の集会の場には、しばしば音楽を通してメッセージを伝えようとするミュージシャンたちがいる。アクティヴィストたちの間でよく知られているのは、プロのバンドとしても活躍している「農村武装青年」である。農村武装青年は、青年の文化と行動が社会と時代を変える力であるという考えのもとに、農民と青年の運動を支援している。反國光石化の行動の場にも足を運び、石油化学工業施設の建設によって殺されてしまうイルカについての歌を歌っている。農村武装青年というお堅い名前から想像するのとは違って、優しさに溢れる歌である。http://www.youtube.com/watch?feature=player_embedded&v=6YzOIqUlISI#at=334 
 
  こうした文化活動とのつながりは、台湾の青年運動に顕著に見られる特徴である。 


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