2011年04月03日12時53分掲載
無料記事
http://www.nikkanberita.com/print.cgi?id=201104031253450
核・原子力
食品への放射線照射に関して 賛成ではないが、とりあえずの誤解を避けるために 落合栄一郎
日本では、現在ジャガイモの芽止の為にガンマ線照射が行われている(1972年から)。そう処理されたジャガイモがあたかも放射物化されたかのような誤解が蔓延しているようです。実際は、このようなガンマ線照射によって、ジャガイモが放射線を帯びることはないことが、詳しい研究から証明されている。(今の世の中、放射線に関して、なにか弁護するような発言をすると、すべて体制側(原発推進したりなど)の御用学者とかのレッテルをつけられるようであるが、この誤解だけは解いておかなければならない。筆者はなんども原発即時廃棄を提唱している。)私自身はこの論考の最後で述べている通り、放射線照射による食品安全管理のやり方に賛成しているわけではない。放射性物質の使用は、あらゆる分野で禁止されるべきと考える。
このことを理解するためには、放射線、放射性物質、放射線の生体への影響についての正確な基礎知識を持つことが必要であろう。放射性物質には2種類ある。自然に人為に関係なく地球上に存在するものが第1。これには、主なものとして、炭素14(普通の炭素は炭素12;この数値は、原子の核にある陽子と中性子の総計)、カリ40、ウラン235、238など。このうち特に、カリ40は、人体その他あらゆる生体内にいつでも存在していて、ベータ線を出しつづけている。炭素14も体内には、様々な形で入ってきている。また地球外から宇宙線の形で様々な放射線が降り注いでいる。これらがいわゆる人間が受けるバックグラウンドの放射能被曝であり、平均して1年間に2.4ミリーシーベルトぐらいと見積もられている。これは地球上に生きている限り避けることはできない。日本政府の責任ではない。しかし、現在の原発事故に付随する放射能は 、このバックグラウンド以上の問題である。この人為放射線量の許容限度は一般市民については、1ミリシーベルト、業務従事者では、許容上限は,50ミリシーベルトとされている。(なお,様々な単位が使われていて、紛らわしい;シーベルト、シーベルト/時、ベクレル、(キューリー)など。これらの解説は、必要ならば,別の機会に)。
さてここで注意しなくてはならないのは、外部被曝と内部被曝の違いである。カリ40も炭素14も、水や食物を通して我々の体内に入り込んで来るものである。そして、体内に留まる限り、それが出す放射線は、組織に影響を与える。宇宙線とか、健康診断などで受けるX線による被曝は、いわば外部被曝である。といっても、ガンマ線、X線などは、体内へ浸透はする。しかし、それが、体内の組織に与える影響は大きくはない(何度も繰り返せば別である)。
さて人為によって造り出される放射性物質は、現在では殆どが核分裂を利用する過程(原爆と原発)で出る。それ以外にも、医学用などに用いられる放射性物質がつくられてもいるが。現在問題になっている放射性物質には、核燃料のウラン235、238や,核分裂も含む核反応過程で生じるプルトニウームやヨード131、セシウーム137など(この他にも多くの核種がある)がある。これらの放射性物質が出す放射線には主として、アルファ、ベータ、ガンマ線がある。アルファ線は、主としてウランとかプルトニウームなどが出すもので、生体への影響は強烈であるが、浸透性は微小である。だから、よく言われ様に、紙すらも通れない。体外被曝の場合はこれが直接体に接しない限り殆ど問題はない。しかし、食物やホコリに付着したもの、微粒子の形になったものが、体内に入れば大変な障害を起こす(この例は特に劣化ウラン弾にまつわる問題)。ベータ線は、いわゆる電子線で、電子そのものである。それが生体内の組織に当たれば、そこの分子(DNAも含む)を変化させる。外部照射の場合は,浸透力が大きくなく、影響はそれほどではない。ガンマ線は、いわゆる電磁波で、X線、紫外線、我々がみる可視光線と同じ性格のものである。電磁波の持つエネルギー(それが生体へ影響)は、可視光線、紫外線、X線、ガンマ線となるにしたがって大きくなる。紫外線が、皮膚がんの原因になる可能性はよく知られている(普通の可視光線ではない)。X線やガンマ線はさらに強烈である。 放射性物質から出るガンマ線は、外部から受ける限り、皮膚から浸透し、その影響はすぐ弱くなるが、放射線強度に依存する。もちろん、こうした放射線物質が体内に入れば、その物質の周辺の組織に大きな影響を与える。場合によっては、組織破壊やら、がん化を引き起こすであろう。これは、内部に入ったアルファ線源、ベータ線源でも同様であるし、同一量なら、ガンマ線よりも影響力は大きい。
さて、食物への放射線照射の人間への影響である。まず食物にガンマ線を照射するーこれは、ガンマ線を出す物質を食物に混ぜるわけではない。かなり離れた位置から、短時間ガンマ線をあてる。すなわちガンマ線という光を照らすのである。この時食物にどのような変化がおきるかが問題である。ガンマ線を当てたことによって食物の中に放射性物質ができるかどうか。理論的には,可能であるが、通常行われている照射量では、放射性物質はできないことが研究の結果わかっている.
http://foodirra.jaea.go.jp/dbdocs/001001000003.html
(こういう研究も信用できないと言われる向きもあるかもしれないが、原理上も出来ないことは説明可能)だから、ガンマ線を当てた食物を食べたからといって内部被曝を被るわけではない。その食べ物に放射性物質が含まれていないのだから。
もう一つの問題は、放射線照射によって、人体に有害な物質ができるかどうか。これについても、通常用いられている照射量では、問題がない。例えば
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%A3%9F%E5%93%81%E7%85%A7%E5%B0%84#.E8.AA.98.E5.B0.8E.E6.94.BE.E5.B0.84.E8.83.BD
この照射によって、食物中の化合物(様々なものがある)に変化が起きる可能性はある。例えば、食物(生物)の細胞核中にあるDNAに変化が起きる可能性はある(放射化されるわけではない)。しかし、食物中の細胞内のDNAは、食べ物の消化の過程で体内で分解されて、人間のDNAに影響する(例えばがん化)ようなことはありえない。照射によって発ガン性物質が生成する可能性もゼロではないが、殆どない。
すなわち,放射線を照射した食べ物を食べたからと言って放射線障害になるという可能性は、限りなくゼロに近い。科学的には,様々な条件を勘案すれば、絶対にゼロであるということは言えない。こう言ったからとて、放射線照射による食品安全管理のやり方に賛成しているわけではない。放射性物質の使用は、おそらく,どうしても不可欠な医学的用途を除いて、あらゆる分野で禁止されるべきと考える。
最後にもう一つ付け加えておくほうが良いと思われることを。現在問題になっているのは、原発の事故により放射性物質が環境に拡散して、土壌や作物に放射性物質が付着したために放射能が観測されているのであり、放射線によって作物に放射能が生じたのではない。水や牛乳から放射能が検出されたのも、それらに放射性物質が入ったからである。その放射性物質を取り除かずに食べれば、内部被曝になる。やがては、土壌に取り込まれた放射性物質が、作物の根から吸収されて作物に含みこまれることになるであろう。一方、もう一度繰り返すが、放射線照射された食品には、放射性物質は出来てはいないので、それを食べても内部被曝になることはない(上で述べた条件が満たされているかぎりーすなわち現在許可されている照射線量以内で)。
Copyright (C) Berita unless otherwise noted.
日刊ベリタに掲載された記事を転載される場合は、有料・無料を問わず、編集部にご連絡ください。ただし、見出しとリード文につきましてはその限りでありません。
印刷媒体向けの記事配信も行っておりますので、記事を利用したい場合は事務局までご連絡下さい。