2011年04月13日22時55分掲載  無料記事
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東日本大震災

【SMCサイエンス・アラート】福島原発事故評価の「レベル7」引き上げ:海外専門家コメント

  4月12日、福島第一原発の事故が、国際評価尺度(INES)のレベル7相当と判定されたことを受けての海外専門家の反応をお届けします。 
 
《SMC(イギリス)提供情報》 
◆チャード・ウェイクフォード教授(Prof. Richard Wakeford) 
マンチェスター大学客員教授(疫学) 
 
  日本の権威筋は、3月11日の震災以降に原子炉から放出されたヨウ素とセシウムの量に基づき、国際評価尺度(INES)での福島第一原発の事故をレベル7と評価付けました。これはチェルノブイリ原発事故以来の「レベル7」評価ですが、現在までに放出された放射性核種の量は、チェルノブイリの約10%です。 
 
  しかし、チェルノブイリ事故でははるかに大きな放射性物質の影響が広がったのに対し、日本の権威筋は事故対応の作業員と公衆に対する放射性物質の影響を抑え込むために動いています。実際のところ、これまで唯一のレベル6認定事故である1957年にソ連で起こった「キシュテム事故注1」においては、放射性廃棄物のタンクが爆発し、今回の福島第一原発から放出されたと目されている量よりも、はるかに大量の放射性物質が環境中に放出されました。 
 
  日本政府は、これまでの福島原発周辺20kmの退避区域を、すでに放射性物質に汚染を受けている幾つかの自治体を含むかたちへとさらに拡大しました。既に知られているように震災後の3月中旬の2〜3日のあいだ、福島第一原発の北西区域は放射性物質のプルーム注2の影響を受けています。また日本政府は、このエリアで汚染を受けた食材の消費に関して禁止令を出しました。 
 
  放射性物質が降下堆積した地域の放射能レベルは、それ以降(減衰などにより)低下していますが、依然として人々に避難を促すに足るだけの影響が残っています。それ以外の区域においては汚染度は低く、(当初設定された)20kmの退避区域の中においてもこれより汚染度が低い地域もありますが、福島第一原発が制御下におかれるまでは、避難している住民が戻ることは難しいと思われます。 
 
注1:「キシュテム事故(ウラル核惨事)」:これまでに報告された国際評価尺度(INES)「レベル6」の唯一の事故である「キシュテム(Kyshtym,「クイシトゥイム」表記もあり)事故」は、1957年にマヤーク(Mayak)で起こった。爆発によりタンク内の740ペタベクレル(74万テラベクレル)の放射性廃棄物がマヤークの周辺に放出された。この事故の影響で1957年から59年にかけ、10000人以上の住民が平均120 mSvの被ばくをし、5000人以上の労働者が2,3時間にわたって1 Svを被ばくした。そして30000人以上の事故処理労働者が250mSv以上を被ばくしたと考えられている。【参考:Wikipedia「ウラル核惨事」】 
 
注2(SMCによる):「プルーム(plume)」:放射性物質は大気中ですぐに拡散するわけではなく、気象条件によっては大気中で濃度の高い状態を保った「かたまり」となって移動することがある。このことをプルームと呼ぶ。 
 
◆ジム・スミス博士(Dr. J.T. Smith) 
ポーツマス大学准教授(専門:環境物理学) 
 
  福島での事故の国際評価尺度(INES)のレベル7への引き上げは、陸と梅への放射線核種の放出の深刻度を示しています。 
 
  しかし、福島原発と同じレベル7のチェルノブイリ事故との間には様々な違いがあります。これまでのデータを拝見したところ、チェルノブイリ原発事故で放出された放射能量は福島の約10倍です。また、福島原発周辺では重要な健康保護対策が実施されています。チェルノブイリ事故では、事故発生から48時間が経過してから、地元住民に避難命令が出ました。原子炉が燃えている中、子どもたちは外で遊んでいました。また、ヨウ化カリウム錠も配布されてはいませんでした。チェルノブイリ事故の数週間後でも地元の人たちは放射性ヨウ素で汚染された牛乳や葉野菜を食べ続けていたのです。 
 
  原発周辺の人たちの避難、食品の出荷禁止、そしてヨウ化カリウム錠の配布を実施したことにより、日本政府は福島原発事故の最悪の健康被害を阻止できたと思います。放射性ヨウ素の量も放射性崩壊によって急速に減少しています。現在の量は事故発生後に比べると約10分の1になっていると考えられます。 
 
  しかし、陸と海に大変な汚染が広がったことは明らかです。その結果、広い地域で避難命令や出荷禁止措置が取られています。これまでのデータを見る限りでは、福島の北西地域では放射性セシウム濃度が高いと見られます。放射性セシウムは長期的に環境に残るためこれに関する対策(たとえば出荷禁止)は、これから数十年続ける必要があるでしょう。 
 
◆ローレンス・ウィリアムズ教授(Laurence Williams) 
英国セントラル・ランカシャー大学ジョン・ティンダル研究所(専門:原子力安全) 
 
  レベル7への引き上げには少々驚いています。これまで公開された情報を見る限り、影響を受けている3つの原子炉と4つの使用済燃料プールには大きな変化が無く、大気に放出された放射能量に急速な増加も見当たりません。 
 
  あくまで推測ですが、日本の当局は3つの原子炉と4つの使用済燃料プールをまだ完全にコントロールすることができておらず、このような保守的な行動を取ったのではないかと思います。 
 
《オーストラリアSMC(AusSMC)提供情報》 
ジョン・プライス博士(Dr. John Price) 
英国安全政策 国家核安全団体 元メンバー 
オーストラリア・モナッシュ大学元准教授/民間コンサルタント 
 
  本日(4/12)、(国際評価尺度が)レベル7へ引き上げられました。これは昨日と比べて状況が悪化したことを意味をするものではなく、全体としてのこれまでの出来事が、以前まで考えられていた状況より深刻だという意味です。 
 
  国際評価尺度(INES)レベルは状況の一瞬を定めるものでは無く、事故全体の定義を示すものです。ある意味これは非客観的であると思います。誰かが『これは大変深刻な事故だ』と発表したのではなく、もともとの(INESの)基準を上回ったのです。 
 
  福島第一原発をレベル7に判定したINESに基づく評価は: 
 
「大気汚染の広がりや周辺住民の生活への深刻な影響が長期化していること」 
 
  によります。放射線物質の放出は(地震発生翌日から)特に一週間の間で悪化しました。水素爆発の影響を含めて、事故から数週間たった今までの調査の結果が、今回のレベルの引き上げに繋がったと思います。 
 
  (事故当初の、毎時あたり)10000テラベクレルという推計数値は放射性崩壊によって現在1000テラベクレルにまで減少しています注。合計ベクレルの数字は恐らく、日本の機関が収集したデータによる、これまで原子炉から放出された放射能量だと思います。1ベクレルは秒あたりの崩壊です。(このデータだけから)原発周辺にいる人間の健康に何が起こっているのかを判断するのは不可能です。人間への影響は放射能物質が落ちてくる場所によって異なります。 
 
  問題は放射線物質は風に乗って拡散するということです。私が聞いている情報によると現在、粒子を原発周辺に閉じ込めるため、抗散乱剤を巻いているそうです(原子力安全保安院4月9日0800の情報)」 
 
(以上、カッコ内注記は一部SMCJによる) 
 
※SMCJ注:「(事故当初の、毎時あたり)10000テラベクレルという推計数値は放射性崩壊によって現在1000テラベクレルにまで減少しています」という記述は、「事故後には1時間あたり10000テラベクレル(テラは10の12乗)相当の放射性核種が放出されていたと推定されるが、その放出された核種は、半減期を考慮すると大規模放出から日にちが経った現在は1000テラベクレル程度にまで減衰していると考えられる」という意味の記述です。 
 
◆プラディップ・デブ博士(Dr Pradip Deb) 
講師、豪州ロイヤルメルボルン工科大学(RMIT University)医学部医学放射線研究科 
 
  福島原発のレベル7への引き上げはこれまでの各原子炉事故の評価を組み合わせたものに沿った再分類であり、国民の生活に新たな障害を及ぼすことを意味しているわけではありません。今回のレベル7はチェルノブイリ原発事故と同じレベルですが、日本の原子力安全保安院は福島原発から放出されている放射能量はチェルノブイリより9割少ないと推定しています。 
 
  国際評価尺度(INES)レベルは地震の影響の大きさを人に知らせるような(主観的)尺度となっています。 
 
・レベル1:異常。このレベルは核施設内の安全部品、動作制限や低活性の放射線物質の紛失や盗難に対しての極めて小さな問題が発生した時に使われる。」 
・レベル2:レベル1の10倍相当の事故。被ばく総量が1時間で50ミリシーベルト以上。原発内で広い汚染。 
・レベル3:レベル2の10倍深刻な事故。施設内の被ばく総量が1時間で1シーベルト以上、広い範囲で汚染。一般人の被ばく率が低い。 
・レベル4:レベル3より10倍深刻な事故、施設周辺に影響。燃料の漏れか損傷により原子炉内に多くの放射性物質の送出。一般人の被ばく率が高い。少なくても1人が被ばくの影響で亡くなればレベル4と判定。放射性物質の送出量が低く、原発周辺の食料品管理が必要とされる。 
・レベル5:レベル4より10倍高い事故、広い範囲で影響。原子炉に大きな損傷ち大量の放射線物質が送出。一般人の被ばく率が極めて高い。被ばくによって数人が亡くなるか、計画放射線管理が必要とされる時に判定される。 
・レベル6:より広い地域への影響。レベル5の10倍の事故。大気に送出される放射線物質量が多く、計画的な放射線管理が必要。 
・レベル7:レベル6より10倍高い、大規模な事故。原発事故基準としては最悪。大量の放射線物質が大気へ送出され、国民の健康に影響を及ぼす可能性がある。長期的な放射線対策の安全プログラムの計画と実施が必要。 
(これまで、福島原発は)「汚染レベルの最悪」とされているレベル5の事故だと宣言されてきました。今回の事故の全体的な状態を表すために、これまで放出された放射線物質の量を含めて、レベルが再分類されました。 
 
  先日の震度7の余震のあと、放射線量の増加はありませんでした。現在、原子炉周辺の放射能レベルも低下していると思います。なので今回のレベル7の分類はこれ以上に状況が悪化することを意味しているわけではありません。 
 
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