2011年05月09日13時54分掲載  無料記事
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核・原子力

シンガポールが海底原発の建設を計画 

  福島第一原発事故後、世界的に原発の是非論議が高まるなか、シンガポール政府は世界初とみられる海底での原発建設計画を打ち出し注目されている。7日に実施された総選挙では、与党・人民行動党(PAP)が獲得議席数を減らしたものの、9割以上(87議席中81議席)を確保して政権維持を果たし、政府は現時点では計画を撤回する可能性がないとの立場も示している。(クアラルンプール=和田等) 
 
 アジアでは将来のエネルギー需要の増大や環境問題への対応の面から、原発を信頼できるクリーン・エネルギーの選択肢から外せないとの立場をとる政府やエネルギー関係者が多く、はっきりと原発建設・導入に「NO」の姿勢を打ち出したところは今のところない。 
 
 シンガポール政府は、福島第一原発の事故のニュースが伝えられたことを受けて、同国の原発建設の決定には長い時間が必要だとして、慎重に検討するとの見解を表明した。政府は現在、原発建設に関する実行可能性調査前予備調査(プレフィージビリティー・スタディー)を実施しているが、安全性を主要な優先調査課題にすえている。 
 
 同国政府が原発建設計画について真剣に検討していることがわかったのは、2010年4月のことだった。地元華字紙「聯合早報」によれば、同年4月1日に南洋工科大学と韓国科学技術学院が共催したセミナーで、シンガポール外務省のレイプチュン首席科学顧問(教授)が、原発の建設候補地に言及して海底原発の建設計画がにわかに注目を集めたのである。 
 
 南洋大学学長顧問も兼任している同首席科学顧問は、シンガポール本島の南20キロ、ジュロン島から10キロのセナン島とセマカウ島間の海底を候補地としてあげ、実行可能性調査をおこなっていると明らかにした。しかし、国民にとっては、この発表は晴天の霹靂だった。狭い領土から考えてまさか自国に原発建設計画が浮上するとは想像だにしなかったシンガポール人がほとんどだったからだ。 
 
 同顧問は「放射性物質の漏えい事故が起きた場合でも、20キロ離れている本島には影響はおよばない。また海水の水圧で爆発や危険物質の拡散を抑止できるメリットがある」と指摘した。 
 
 海底原発建設というユニークなアイデアが出てきたのには、シンガポールが地震帯に属さず、インドネシアでたびたび地震が起こっても揺れを少し感じるだけという地形的な恩恵が得られていることも背景にある。 
 
 しかし、これまで海底原発は世界に例がないだけに、安全性・危険性ともに「机上の空論」でしか検証のしようがないのも事実。 
 
 一方で淡路島ほどの大きさしかない領土的な制約から、自然エネルギーを活用した再生可能なエネルギーの開発余地がほとんどないシンガポールだけに原子力発電に代わる選択肢がそう簡単に見つかるとは思えないことも同国のジレンマとなっている。 
 
 福島原発事故の影響で原発建設計画自体を根本から見直さざるをえなくなったのは間違いないが、ほかの選択肢が見つからない限り、そのジレンマにとらわれる同国は簡単に原発建設という選択肢を破棄できないのも事実。海底原発の安全性にかなり突っ込んだ調査研究や議論を経たうえで結論を出すことになるわけだが、結論が出るのはかなりの先になるのが確実となったことだけは間違いないようだ。 
 
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