2011年05月30日11時03分掲載  無料記事
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東日本大震災

福島の子どもの放射線被ばく量で 文科省が方針転換  今後の課題は山積み

  文部科学省は5月27日(金)、福島県の児童生徒等が受ける放射線量について「年間1ミリシーベルト以下を目指す」と発表した。年間20ミリシーベルトに基づいた校庭等の利用制限毎時3.8マイクロシーベルトというこれまでの方針を事実上断念し、棚上げにしたもので、20ミリシーベルトの撤回を求めて福島の父母が中心となって結成された「子どもたちを放射能から守る福島ネットワーク」代表の中手聖一さんらは「とりあえず一歩。みんなで勝ち取った成果だ」と喜ぶ。その一方で、積算線量には学校給食などの内部被ばくがほとんど考慮されていないことや、財政支援が土壌の汚染低減措置に限られていて、学童疎開などは対象にならないこと、低減措置も1ミリシーベルト未満の学校は対象ではないことなど、まだまだ問題が多いと指摘している。(望月芳子) 
 
  4月19日に文科省が福島県教育委員会などに出した通達では、福島県の学校や幼稚園などの使用に関する暫定基準は年間1〜20ミリシーベルト(毎時3.8マイクロシーベルト)で、20ミリシーベルト未満の学校は屋外活動も通常どおり行ってよいとしている。この通達に対し、保護者や専門家から「毎時3.8マイクロシーベルトは、労働基準法で18歳未満の作業を禁止している「放射線管理区域(毎時0.6マイクロシーベルト)」の約6倍に相当する。基準が緩すぎる」と抗議の声が上がっていた。 
 
  福島の父母が中心となって結成された「子どもたちを放射能から守る福島ネットワーク」などの市民団体は、20ミリシーベルトの撤回を求めて過去3回文科省と交渉し、3度目の5月23日には福島から来た保護者70人を含む約650人の市民が文科省に乗り込んだ。そして、対応した渡辺格・文部科学省科学技術・学術制作局次長から「文科省は年間1ミリシーベルトをめざし、可能な限り下げていく方針」という言葉を引き出し、政務三役に諮ったうえで文書で福島県に通知することを約束させた。 
 
  27日の高木義明文部科学大臣による発表は、この約束が実現したもの。年間20ミリシーベルトという上限値に変更はないものの、「今後できる限り、児童生徒等の受ける線量を減らしていくという基本に立って、今年度、学校において児童生徒等が受ける線量について、当面、年間1ミリシーベルトを目指す」という。また、福島県内のすべての学校に積算線量計を配布し、校庭や園庭の空間線量率が毎時1ミリシーベルト以上の学校には土壌の除染のための財政的支援も行う。 
 
  この発表について、同ネットワーク代表で、小学校1年生と4年生の子どもを持つ中手聖一さんらは「とりあえず一歩。みんなで勝ち取った成果だ」と喜ぶ。その一方で、積算線量には学校給食などの内部被ばくがほとんど考慮されていないことや、財政支援が土壌の汚染低減措置に限られていて、学童疎開などは対象にならないこと、低減措置も1ミリシーベルト未満の学校は対象ではないことなど、まだまだ問題が多いという。市民団体では、引き続き政府に対し、これらの問題への対応と20ミリシーベルト基準の撤回を求めていく。5月27日には子どもたちを放射能から守る福島ネットワーク(代表 中手聖一)、グリーン・アクション、福島老朽原発を考える会(フクロウの会)、美浜・大飯・高浜原発に反対する大阪の会(美浜の会)、国際環境NGO FoE Japan、環境NGOグリーンピース・ジャパンなど市民団体は以下のようん声明を発表した。 
 
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文科省:当面の対応として「今年度、年間1ミリシーベルト以下を目指す」 
「子ども年20ミリシーベルト暫定基準」事実上断念 
福島の父母たち、市民運動が勝ち取った大きな一歩 
同時に、文科省の発表は多くの問題と課題を残す 
http://dl.dropbox.com/u/23151586/110527_statement.pdf 
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  本日(5月27日)、文部科学省は、「福島県内における児童生徒等が学校等において受ける線量低減に向けた当面の対応について」を発表し、この中で、「年間1ミリシーベルトから20ミリシーベルトを目安とし」としながらも、「今後できる限り、児童生徒等の受ける線量を減らしていくという基本に立って、今年度、学校において児童生徒等が受ける線量について、当面、1ミリシーベルトを目指す」としました。また、校庭・園庭の空間線量率が毎時1マイクロシーベルト以上の学校の除染について、財政支援を行うこととしています。 
 
  明言こそしていませんが、年間20ミリシーベルトに基づいた校庭等の利用制限毎時3.8マイクロシーベルトを事実上断念し、棚上げにして、私たちがいままで求めていた通常の基準値年間1ミリシーベルトを目指すという基本姿勢を文書で示しました。 
 
  これは、5月23日の福島の父母たちおよびそれを支援する多くの市民たちの要請にこたえたものであり、この間の市民運動が勝ち取った大きな一歩です。一方で、下記の課題も残ります。 
 
1.「今年度1ミリシーベルト以下を目指す」について・事故後からの積算線量で年間1ミリシーベルト以下を目指すべき。また、学校外における積算線量も含めるべき。 
・さらに、既に1ミリシーベルトを超えている学校については、表土除去だけではなく、学童疎開など、あらゆる被ばく低減策を実施すべき。 
・この1ミリシーベルトには、学校給食などによる内部被ばくは含まれていません。これも考慮にいれるべき。 
・内部被ばくに関しては、モニタリングの対象とすべき。 
 
文科省が示している「今年度」とは、4月1日からとなり、事故後の3月分は含まれない可能性があります。また、「当面の対応」では、積算線量計を各学校に配布し「積算線量のモニタリングを実施する」となっています。マスコミ報道によれば、この測定は基本的に6月からとされています。4月以降または6月以降の評価で「1ミリシーベルト」とするのは不十分です。 
 
2.財政支援を、土壌の汚染低減措置に限っていることについて 
・授業停止、学童疎開、避難などあらゆる被ばく低減策について、これらを実行に移す具体的な措置を示し、財政支援を行うべき。 
「当面の対応」では、国による財政支援を土壌の汚染低減措置に限っています。 
 
3.土壌の汚染低減化を毎時1マイクロシーベルト以上に制限していることについて 
・土壌の汚染低減化は毎時1マイクロシーベルト未満であっても必要です。年間1ミリシーベルトの被ばく以下になるよう土壌の汚染を除去するべき。 
・除去した土壌については、東電と国の責任で管理すべき。 
「当面の対応」では、財政支援の対象として、校庭・園庭の空間線量率が毎時1マイクロシーベルト以上と制限を設けています。しかし、毎時1マイクロシーベルトは、事故以前の福島県の平均空間線量の約25倍にもあたり、年間では8.8ミリシーベルトにもなります。年1ミリシーベルトを守るためには、セシウム137で考えれば、土壌1平方メートル当たり40キロベクレル、空間線量では毎時0.15マイクロシーベルト以下にする必要があります。 
 
  なお、今回の問題の根底には、文科省がもつ根強い「安全」神話がありました。文科省および福島県の放射線リスクアドバイザーは、あたかも100ミリシーベルト以下であれば安全であるかのような宣伝を行ってきました。この偏った文科省および一部の無責任な学者の宣伝を修正していかない限り、問題は繰り返し生じるでしょう。 
 
  私たちは、勝ち取った今回の大きな前進を、一緒になって行動を起こしてくださった全世界の市民の方々とともに確認するとともに、引き続き、日本政府に対して、以上の問題の対応および20ミリシーベルト基準撤回を求めていく所存です。 
 
以上 


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