2011年06月04日02時14分掲載
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コラム
悪魔の企画会議 村上良太
トルストイの短編小説にはしばしば悪魔が登場する。たとえば「イワンの馬鹿」は悪魔が善良な農夫の心を堕落させようと試みる話である。悪魔がなぜ人間を堕落させようとするか、といえば悪魔界にも出世の階段があり、多くの人を堕落させたらそれだけ出世できるシステムになっているからだ。悪魔にも上司や部下があり、定期的に企画会議も開かれている。
悪魔の企画の発端は、喫茶店や酒場で他人の話を横から聞いてネタを仕込むことが多いようだ。諍いだったり、困りごとだったり、何か変わったことがあればそこにつけいるチャンスがないかどうか、考えるのであろう。もし悪魔が関心を示せば、後ろを尾行して家までつけてくる。悪魔はさらに数日にわたって内偵を行う。落とせるかどうかを調べているのである。その結果、落とせると踏んだら先述の企画会議の場で大物悪魔にお伺いをたてるのである。大物悪魔の承認が得られたら、堕落させるための行動が始まる。
たとえば、こんな話がある。悪魔が無欲な農夫を堕落させようとする。まず土地所有の喜びを体験させる。手始めに小さな土地を買わせてみて、小作時代との違いを味わわせる。さらにもっと土地を持ったら、もっと豊かに作物が作れるだろう・・・と農夫に欲を出させる。次に旅人から農夫に「ある村では自由に土地を所有できる」という噂話を聞かせる。農夫は最初は半信半疑だが、試しに村を訪ねると、本当に誰でも欲しいだけ土地が無償で手に入るという。しかし、こんな条件があった。
「1日のうちに自分の足で囲める土地しか所有できない。日没までに出発点に帰ってこなければダメだ」
農夫は朝から張り切って、できるだけ広い土地をものにしようと早足で遠くまで出かけていく。日没迫り、焦り始める。欲を出しすぎて遠くまで来すぎてしまったからだ。農夫は力の限り走る。しかし、ぎりぎり日没前に最初の出発点に帰ってきたものの精根尽き果てて死んでしまう。
こうした世界に詳しいロシア人によると、悪魔はこの人物は落とせる、と確信したら、足しげく通ってくるのだそうだ。手土産やいい話をひっさげてくるのである。
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