2011年06月25日11時53分掲載  無料記事
http://www.nikkanberita.com/print.cgi?id=201106251153356

米国

米「依存症」研究の最前線 

  アメリカでは近年、通常の麻薬依存よりも、精神科の治療で使われた薬物に対する依存や痛み止めで処方された薬への依存がクローズアップされている。米紙によれば治療で使われたドラッグの中毒で病院に運ばれた人が過去10年で5倍に、使用過多による死亡は4倍に上昇している。 
 
  そのため、ある科学者を中心とする依存症の研究に10億ドルを超える緊急の国家予算がついた。その科学者とはノーラ・ボルコウ(NoraD.Volkow) 博士。National Instutute on Drug Abuse(NIDA)のディレクターである。ボルコウ博士は長年、PETという脳のスキャナーを使って、依存症と脳内のケミカルな動きの関係を研究してきた。その結果、ドラッグ依存も、虚言癖も、セックス依存も、過食もドーパミンという物質の関与に集約されると結論する。 
 
  アルコールも、ドラッグも、甘い食品もすべての「依存」にかかわる物質は脳のある部分のドーパミンのレベルを上昇させる。その部分とは「側座核」(nucleus accumbens)である。この部位が快という「報酬」系をつかさどっている。 
 
  食欲低下などの治療に用いられるアンフェタミンはドーパミンが多量に出るように促す。一方、アルコールやモルフィネ、ヘロイン、鎮痛薬などはドーパミンの産出を抑える神経細胞の働きを阻害する。いずれも側座核のドーパミンのレベルを向上させる。 
 
  ボルコウ博士は長年アメリカで行われてきた、依存症患者に対して努力不足や根性の不足を責めるといったアプローチでは「依存」との戦いには勝てないと考える。博士は脳内のドーパミンの研究を生かしたヘルスケアシステムの確立を急いでいるのである。そうしたことを背景に、ドラッグ依存やアルコール依存、肥満などこれまで別々に行われてきた研究を統合する動きも始まっている。 
 
  (インターナショナルヘラルドトリビューン、6月15日づけを参考にした) 
 
■ノーラ・ボルコウ博士(NIDA) 
 
  メキシコ生まれ。トロツキーの曾孫として、トロツキーが暗殺されたメキシコシティの家で、4人姉妹の一人として育った。メキシコ大学で学んだ後、ニューヨーク大学に進んだ。以後、アメリカでPETを駆使しながら、依存症の研究を続けている。 
http://www.nida.nih.gov/about/welcome/volkowpage.html 


Copyright (C) Berita unless otherwise noted.
  • 日刊ベリタに掲載された記事を転載される場合は、有料・無料を問わず、編集部にご連絡ください。ただし、見出しとリード文につきましてはその限りでありません。
  • 印刷媒体向けの記事配信も行っておりますので、記事を利用したい場合は事務局までご連絡下さい。