2011年06月30日03時29分掲載
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コラム
英仏間の戦い 村上良太
パリの女友達に誘われて、一夕、映画を見に行った。それはインド映画だった。物語はインド人と大英帝国軍人との戦いだったが、パリの観客はそこに英仏間の代理戦争を見ていた。この映画館での体験を経てリビア内戦やイラク戦争も違った目で見えてきた。
映画は19世紀末、インドを植民地支配している大英帝国の軍人たちと、支配されているインド人たちがクリケットで勝負する話である。といっても、クリケットは英国貴族のスポーツであり、インド人たちはそのルールすら知らない。そこで同情した英国の貴婦人がこっそりインド人たちにコーチしてやる。まともな道具もないのにインド人たちは汗みどろになって毎日毎日、クリケットの特訓に明け暮れる。やがていよいよ、決戦の日。
インドチームは英国チームに得点されてもすぐに追いつく。猛特訓の成果だ。パリの映画館ではインド人が初得点すると「ウォー!」と大歓声があがった。さらに2点、3点と得点を重ねるたび、「ピュー」という口笛やドシドシ床を踏み鳴らす音すら聞こえ、その熱狂的な空気は次第にエスカレートしてきた。こんな騒がしい映画館は正真正銘初めてだ。この熱さに匹敵するものはサッカーのワールドカップだろう。
映画の主役は僕と同じ有色人種でアジア人のインド人である。パリの観客は植民地主義者の英国人に毅然と立ち向かうインド人をかくも応援しているではないか。僕はパリの観客を頼もしく思った。さすが構造主義を生んだ国である。自由・平等・博愛の国である。人間の人間に対する圧政と差別に抵抗し、立ち向かう。インド映画自体よりもそんなパリの市井の観客に深く感動した。
ところが映画が終わった後、フランス人の女友達はロビーで僕にこう告げたのだった。
「あの、勘違いしないで欲しいんですけど、観客はインド人を応援していたわけではないんですよ。宿敵の英国人が打ち負かされるのが嬉しかったんです」
英国とフランスは欧州で覇権を競った国である。その対抗心と怨念は子孫たちにも脈々と受け継がれているというのだ。一見信じがたいが、歴史を紐解けば欧州での戦争ばかりでなく、アメリカでの土地争いや独立戦争、アフリカにおける覇権争い、中近東、そして中国・・・枚挙にいとまがない。
フランス人が自由、平等、博愛を無視しているとは思わないが、アフリカやアジア、中東や中南米で起きている国際紛争や資源の争奪戦においても、かつての大国による植民地争奪戦時代の覇権意識が今も脈々と渦巻いているのではなかろうか。民主化というモットーの裏側にはまた違った顔があるのである。
■インド映画「Lagaan」
http://en.wikipedia.org/wiki/Lagaan
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