2011年07月02日10時43分掲載  無料記事
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核・原子力

原発に頼らない安心できる社会へ 城南信用金庫の脱原発宣言は訴える 安原和雄

  城南信用金庫の脱原発宣言が話題を呼んでいる。「原発に頼らない安心できる社会」の実現を訴えているからだ。市民、住民としては当然の訴えだが、金融機関としては珍しい。 
しかも現職理事長が「信用金庫には中小企業や個人客を大切にし、地元の発展に貢献する使命がある。利益や株主への配当を重視せざるを得ない銀行とは違う。金(カネ)もうけはしないという自負がある」と明言している。 
 これは大銀行や大企業が追求している利益・海外重視のグローバリズムではなく、反グローバリズムであり、国内の脱原発型地域発展を重視するローカリズムにほかならない。ローカリズムの着実な実践に期待したい。 
 
▽ 脱原発宣言をめぐる一問一答 
 
 朝日新聞(6月29日付)は、城南信用金庫理事長(注)の吉原 毅(よしわら・つよし)さんとのインタビュー記事を掲載している。見出しは「脱原発宣言のわけ」となっている。 
(注)城南信用金庫の本店は東京都品川区。都内と神奈川県に85店舗がある。預金・貸出ともに信用金庫では全国2位の規模。理事長の吉原さんは1955年生まれ、77年城南信金に入り、企画部門が長く、2010年11月から理事長。ホームページで脱原発宣言を掲げており、さらに浜岡原発(静岡県)の廃炉を求めて提訴(7月1日)する原告団に加わるなど、従来の銀行マンのイメージとは異質の社会的行動派である。 
 
 城南信用金庫の「原発に頼らない安心できる社会へ」と題する脱原発宣言の大要は次の通り。 
 東電福島第一原子力発電所の事故を通じて、原子力エネルギーは明るい未来を与えてくれるものではなく、一歩間違えば取り返しのつかない危険性を持っていること、さらにそれを管理する政府機関も企業体も、万全の体制をとっていなかったことが明確になりつつある。私たちは原子力エネルギーに依存することはあまりに危険性が大きすぎることを学んだ。地域金融機関として今できることは、省電力、省エネルギー、代替エネルギーの開発利用に少しでも貢献することではないか。私たちは金融を通じて地域の省電力、省エネルギーのための設備投資を積極的に支援、推進していく。 
 
インタビュー記事(大要)を以下に紹介する。なお*印の小見出しは私(安原)が付けた。 
*原発事故は人間の思い上がりを象徴 
 
問い:城南信用金庫の脱原発宣言は「原子力エネルギーは私たちに明るい未来を与えてくれるものではない」などの表現で刺激的だ。 
答え:経済界のほとんどが原発問題で沈黙する中で、社会的メッセージを打ち出すのは勇気が必要だった。ほかの金融機関や大企業にも発言して欲しい。うちが世の中を変えてやろうじゃないか、という人がどんどん出てくれば、これほどうれしいことはない。 
問い:浜岡原発の運転終了や廃止を求める弁護団が、中部電力を相手取って訴訟を起こす。その原告団に加わっている。 
答え:そこまでするべきか、とも考えた。でも弁護団から力を貸して欲しいと頼まれたとき、逃げる必要はないと思った。今回の原発事故は人間の思い上がりを象徴するものだ。経済発展は無理のない着実な程度がよい。それなのに大局観もなく、突き進み、成長のために原発はやめられないと思いこんだところが問題だ。 
 
*原発がなくてもエネルギー不足にはならない 
問い:脱原発によるエネルギー不足や経済活動への影響は心配しないのか。 
答え:原発がなくても十分間に合うのではないか。まず停止中の火力発電や水力発電をフル稼働させる。天然ガスや地熱発電にも大急ぎで取り組む。一方で節電は「最大の電力源」だから一般家庭はライフスタイルを見直し、企業は省電力化に努める。私たちは原発への依存をなくす意味で「3割節電」を目標に掲げ、この3カ月間、ほぼ実現している。いかに無駄に電力を使っていたのか、と気づいた。 
今回のような事故を二度と起こしてはならないと考えるなら、すべての原発はいったん運転を止めるべきだ。一斉点検し、老朽化したものは廃炉にする。 
 
*適正に計算し直すと、原発のコストは高い 
問い:電力会社や大企業とのしがらみがない信金だから好きなことが言えるのではないか。 
答え:ごまめの歯ぎしりかもしれない。でも共感してくれる人は増えている。三井住友銀行の西川善文名誉顧問はネット上で、城南信金の脱原発宣言を「英断」と書いてくださった。 
 メガバンクは電力会社の大株主であり、債権者だ。総理大臣は電力会社に原発停止の要請しかできないけど、メガバンクが右を向けといえば、電力会社は右を向く。絶大な力だ。新しい方向性を打ち出してくれれば、世の中を変えることができる。 
問い:脱原発で電気料金が上がり、経済活動にも影響があるのでは? 
答え:適正に計算し直すと、原発のコストは高い。地域への交付金や放射性廃棄物処理、事故対策などの費用に加え、事故があったときの補償費も、私たち金融機関からみると、「経常費用」として計算に入れなければならない。純民間ベースなら原発事業に融資する銀行は一つもないはずだ。 
 
*信金の原点は金もうけではなく、そこに誇りがある 
問い:金融機関が脱原発を公言するのは意外だ。・・・ 
答え:信用金庫には中小企業や個人客を大切にし、地元の発展に貢献する使命がある。利益や株主への配当を重視せざるを得ない銀行とは違う。城南信金は、顧客に損失を与える恐れのある商品や消費者向けのカードローンなどを扱わない。金もうけのために存在するのではないという自負がある。 
 信金のルーツは19世紀に英国で生まれた協同組合運動だ。産業革命で貧富の格差が広がり、お金に振り回されて倫理や道徳が失われる恐れが出てきた。それを是正し、みんなが幸せに暮らせる社会を作ろうという理想を掲げた。 
 理事長に就任したとき、信金の原点に立ち返ろうと考えた。そこに大震災が起きた。損得勘定や事なかれ主義は許せない。社会の役に立とうという気持ちを大切にしたい。そこが私たちのアイデンティティーだ。 
問い:経済界の異端児ですね。 
答え:とんでもない。私は常識人ですよ。例えば電車の中で、誰かがからまれていたら「やめなさいよ」というでしょ。企業は人間と一緒だと思う。お金を稼ぐだけじゃなくて、理想もあり、魂もある。企業も正しいことは発言すべきで、そこで働く人たちの誇りにかかわることなのだ。 
 
▽ 城南信金の大先達、小原鉄五郎さんとのインタビュー 
 
 私(安原)が毎日新聞の現役経済記者だった1975年初春、当時の城南信金理事長、小原鉄五郎さんとインタビューしたことがある。「大企業優位を改めよ」と題して毎日新聞に掲載した。その2年後に現理事長の吉原さんは同信金に新人として入った。吉原さんにとって小原さんは文字通り大先達の地位にある。インタビューの大要を以下に紹介する。詳細は毎日新聞経済部編『揺らぐ日本株式会社 政官財五〇人の証言』(毎日新聞社、1975年)参照。 
 
問い:最近、大企業に対する批判が強まっている。大企業批判についてどう考えるか。 
答え:1億1000万人の国民がそれぞれ所を得て生活できる環境があってこそ福祉社会の建設ができる。だが最近の大商社、大企業は本来、中小企業が担っているラーメン屋もやれば、酒屋も魚屋も手掛けるようになった。何でも資本力にものをいわせてやる。これでは行き着くところ貧富の差が激しくなり、大企業だけが栄えて、その他の人たちはやせ衰えた生活を余儀なくされる。このままの姿勢でやっていたら、近い将来、保守と革新の連立政権になったり、革新だけの政府ができかねない。 
 
問い:そうすると最近の大企業批判は起こるべくして起こっているということか。 
答え:そうだ。大蔵省(補足=インタビュー当時は大蔵省だったが、現在は財務省)や日銀は金融効率化論を唱えた。しかし金融効率化とはなんぞやといいたい。大銀行にカネが集まり、大企業にカネが円滑に貸せることだという。しかし鉄屋さんが借りたカネでいい溶鉱炉を造るならそれでいいが、新日鐵がホテルをやるとしたら問題でしょう。事実、大商社や大企業は銀行から借りたカネで土地を買い占めたり、ボウリング場やホテルをやるなど中小企業が取り組むべき事業をやった。こうして物価が上がり、一般大衆が苦しんでいる。これが金融効率化の結果だ。とんでもない話ではないか。 
 
問い:「大きいことは悪ではない」と大企業側は大企業批判に反論している。 
答え:大きいからといって一概に悪いとはいえないが、中小企業や一般大衆を苦しめるようなことは、許せない。大企業もそれなりの分をわきまえた資本主義でないと、資本主義体制が維持できなくなる。こんなことではいまに資本主義は崩壊するよ。いまの大企業優位のやり方を改めよ、と強調したい。 
 
問い:高度成長時代は終わったというのが常識になっている。今後の日本経済をどう展望するか。 
答え:高度成長はもう来ない。問題は安定成長に即応して経営者の頭の切り替えができるかどうかだが、疑問に思う。いまの会社重役たちは過去の高度成長に慣れきっているので、安定成長への切り替えができない。 
世界的にみて英国の経済力は斜陽で、次に米国が経済的に落ち、その次に日本が落ちるだろう。日本は一等国といわれているが、いまに二等国、三等国になる。 
 
<安原の感想> 脱原発型地域発展重視のローカリズムに期待 
 
 小原さんのとのインタビューから10年後の1985年に始まったあのバブル経済(株価、地価の高騰)が崩壊してから、小原さんの予測通り日本は一等国から転落していく。そして今、再び苦難の最中にある。いうまでもなく東日本大震災、福島原発惨事である。 
 二人の理事長に共通しているのは、大企業、大銀行への徹底した批判精神である。小原さんは「大企業優位を改めよ」と力説、一方吉原さんは、電力会社、大企業の保守的な現状維持策=原発継続とは異質の脱原発を唱えている。 
 
このような多くの企業経営者には期待できない異質の経営姿勢の源(みなもと)は何か。現理事長、吉原さんの次の発言に着目したい。 
・信用金庫には中小企業や個人客を大切にし、地元の発展に貢献する使命がある。 
・利益や株主への配当を重視せざるを得ない銀行とは違う。 
・信金は金もうけのために存在するのではないという自負がある。 
 要約すれば、「地元の発展に貢献する使命」、「金もうけのためではないという自負」つまり「使命」と「自負」が信金経営の根幹にある。これは地域の発展を最大限尊重するローカリズムの実践であり、いいかえれば反グローバリズムの精神である。地域の発展にはほとんど関心を示さず、地球規模で利益を稼ぐことを重視する大企業、大銀行、大商社のグローバリズムへの反旗にほかならない。 
 
日本国内の地域発展を軽視するところに日本経済の発展はあり得ないだろう。東日本大震災、福島原発惨事後の日本再生は、地域をどう再生し、発展させていくかにかかっている。地域の再生、発展は従来型の経済成長、いいかえれば経済規模の量的拡大のみをめざす原発依存型の経済成長を意味しない。そういう経済成長とは異質の脱原発型地域発展をめざすローカリズムの今後の実践とその広がりに期待したい。 
 
*本稿は「安原和雄の仏教経済塾」からの転載です。 
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