2011年07月07日03時35分掲載  無料記事
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米国

米「依存症」研究の最前線 その2 肥満とドーパミン

  前回、依存症研究で著名なノーラ・ボルコウ(Nora Volkow)博士について紹介した。ボルコウ博士らのチームは今、国から巨額の研究資金を得てドラッグ中毒とともに肥満の治療法にも取り組んでいる。肥満はアメリカの大きな社会問題になっているからだ。 
 
  ボルコウ博士はPET(ポジトロン断層撮影法)を使って依存症者の脳内の変化を調べている。依存症に深くかかわっているのが神経伝達物質のドーパミンである。2001年2月、米エネルギー省ブルックヘイブン国立研究所にいたボルコウ博士は同僚のジーン=ジャック・ワン博士と共同で研究結果を発表した。 
http://www.bnl.gov/bnlweb/pubaf/pr/2001/bnlpr020101.htm 
  発表されたのは肥満の人々は普通の人々に比べて脳内のドーパミン受容体が少ない、という衝撃的な事実だった。というのも肥満は意志の欠如という風に精神の問題としてとらえられていたからだ。 
 
  ドーパミンは満足や喜びを作り出す神経伝達物質であるため、ドーパミン受容体が少なければ同じ刺激に対して快感が乏しくなってしまう。そこでドーパミンを増やして快感を補おうとする。これが過食につながるメカニズムである。この構造はドラッグ中毒の場合と基本的には同じだという。過食を繰り返すうちに脳内のドーパミン受容体が減っていくのだろうか。 
 
  研究をリードしたのはワン博士だった。ワン博士は「ドーパミンの機能を改善することが肥満治療につながる」と語っている。薬物中毒者は普通の人よりドーパミン受容体が減少しているのである。そのため、脳が満足を感じるための摂取量もエスカレートしていくのだ。これが依存症の怖さである。そして肥満の場合も同様だというのである。 
 
  過食になった人々はしばしば食べ物のことが頭から離れなくなってしまう。食べても食べても満足できない。ブレーキをかけられない。なぜ食べなくても平気な人がいるのか理解できない。もはや自分の体とは思えない・・・・肥満になると、こうした食べることへの魔力にとらわれてしまうというのだが、それは脳内でケミカルな変化が起きているからだ。満腹したら食べるのをやめる、生物が通常持っているこうした恒常性維持の機能が働かなくなってしまう。 
 
  この研究で大きな力となったのがPET(ポジトロン断層撮影法)である。PETを使えば脳内の活性化した部分が特定できる。ボルコウ博士は学生時代からPETを駆使してきたトップランナーなのだ。このとき行われた実験は肥満者10人と対照群の通常の人10人の脳内を比較することだった。ボルコウ博士はドーパミン受容体に結合する放射性物質を全員に注射し、一人一人の脳のドーパミン受容体を撮影した。そこで判明したのが肥満者の脳ではドーパミン受容体が減少しているという事実だった。しかも、肥満の度合いが高いほど、ドーパミン受容体の数が少ないこともわかった。 
 
   脳のドーパミン受容体の数をどうもとに戻すか。それができれば過食しなくても満足できるように回復できるかもしれない。こうした研究が続けられ、そして今、NIRA(National Institute on Drug Abuse )で研究を続けているボルコウ博士らのグループに国から10億ドルを超える研究予算が降りたばかりだ。 
 
  ちなみにエクササイズ(運動)をすれば脳内のドーパミンが増すばかりでなく、ドーパミン受容体も増やすことができるという。運動は単に一回性のカロリー燃焼というだけではなく、脳の機能を回復させることにつながるというのだ。 
 
★米エネルギー省ブルックヘイブン国立研究所のサイトを参照した。 
 
■米「依存症」研究の最前線 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201106251153356 


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