2011年07月22日22時27分掲載  無料記事
http://www.nikkanberita.com/print.cgi?id=201107222227305

みる・よむ・きく

伊藤千尋著「反米大陸」 その2 チアパスの蜂起

  伊藤千尋氏は「反米大陸」の中で、1994年1月にメキシコで起きた先住民の武装蜂起について語っている。いわゆる「チアパスの蜂起」のことだ。チアパスはメキシコの南部でグアテマラとの国境に位置する。蜂起したのはスペインの植民地時代から虐げられてきたマヤ民族の末裔たちだった。その発端はアメリカが音頭を取って実現しようとした自由貿易地域構想にあった。 
 
「1994年12月、マイアミで第一回米州サミットが開かれた。北米から南米までキューバを除く米州34か国の首脳が集まった。そこで当時のクリントン米大統領は、米州自由貿易地域(FTAA)の創設を提唱した。南北アメリカ全域にまたがる、壮大な自由貿易地域を作ろうとする計画だ。実現すれば、総人口約8億、経済規模13兆ドルという世界最大の自由貿易圏となる。」 
 
  自由貿易地域構想を聞いて、なぜチアパス州の人々が立ち上がったのだろうか。それは彼らが伝統的に育ててきたトウモロコシ農業が破壊されようとしていたからだ。1994年1月にアメリカ、カナダ、メキシコが加盟した北米自由貿易協定が発効した。これがチアパス州の農民たちにもダメージを与えると思われたのだった。実際にアメリカ産の安いトウモロコシがメキシコに流入することになったのだが、その理由はアメリカでは輸出用農産物に対し政府が農家に補助金を出していたのだ。しかしメキシコ政府は出さないため不公平な競争になり、メキシコ農民の中は農業をやめて都会に出てルンペン化する者が少なくなかった。いったんメキシコのトウモロコシ農家が壊滅してしまったら、以後、遺伝子組み換えでも米国のトウモロコシを買うしかなくなる。 
 
  「さらに経済の破壊が社会の破壊を招き、失業率の高いメキシコで畑を失った農民は、都市に出てホームレスになるか、国境のフェンスを越えてアメリカへの不法移民となった。彼らはアメリカ人が嫌うゴミ集めやビルの掃除など下働きの仕事をし、不法移民であるが故に安い賃金しかもらえない。こうして国家と国民がアメリカの支配下に置かれる仕組みが出来上がった。」 
 
  日本のコメ農家にとっても他人事ではなかろう。もちろんそれは消費者にも関係することである。 
 
  チアパスで蜂起した人々はサパティスタと呼ばれた。サパティスタは平和路線に切り替えたことで世界的に認知された。フランスのルモンドディプロマティーク誌にはノーベル賞作家のジョゼ・サラマーゴが「チアパスの苦悩、そして希望」(1999年3月号)と題する文章を寄せている。サパティスタは今も新自由主義に反対し、反政府活動を続けているようである。これは彼らのインターネットラジオである。(戦いも続けているが音楽活動も続けているようである) 
http://www.radioinsurgente.org/ 
  チアパス州の農民蜂起については自由貿易圏を考えるときに振り返ってみる必要があるのではなかろうか。 
 
■伊藤千尋著「反米大陸〜中南米がアメリカにつきつけるNO !〜」(集英社新書) 


Copyright (C) Berita unless otherwise noted.
  • 日刊ベリタに掲載された記事を転載される場合は、有料・無料を問わず、編集部にご連絡ください。ただし、見出しとリード文につきましてはその限りでありません。
  • 印刷媒体向けの記事配信も行っておりますので、記事を利用したい場合は事務局までご連絡下さい。