2011年08月25日02時34分掲載  無料記事
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やっとおさまった、イングランドの暴動 ―真実は何か?

 ロンドン、そしてイングランド地方各地で勃発した、放火・略奪行為(とりあえず暴動という言葉が使われているので、「暴動」)が、ようやく終息を迎えたようだ。今回の一連の暴動の原因や分析を考えるとき、書き手がどこにいて何を見たかによって、結論が変わってくると思う。(ロンドン=小林恭子) 
 
 私はここ10日ほど、国外に旅行に出かけており、その間、ほとんど英国のニュースに触れることができなかったが、旅行先でも「暴動(ライオット)」はどうなったかといろいろな人から聞かれた。 
 
 帰国してみると、英国でもそして日本でも「一体、何故?」という大きな疑問がいまだ渦巻いていることが分かった。確かに、イングランド各地で相次いで発生し、新聞やテレビが大々的に報道し、逮捕者も3000人近くに上ったのだから、理由を知りたいのは当然だ。 
 
 いろいろな方が「何故か」そして「日本でも同様の行為が発生するのかどうか」に関して、論考を書かれている。私も一通り、複数の論考に目を通してみた。それぞれ、一理ある論考ばかりであったが、私自身の感触に最も近かったのが、 
 
 ブログ「ロンドンで怠惰な生活を送りながら日本を思ふ」の、「ロンドンの暴動の原因は?」であった。 
http://news.livedoor.com/article/detail/5785280/ 
 
 また、広い意味でこの問題を考えたい方には、英エコノミストの論考が役に立つかもしれない。 
 
 英国の暴動:自己像を見失った国http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/18882 
 
―理由は一つではない 
 
 今回の一連の暴動の原因や分析を考えるとき、書き手がどこにいて何を見たかによって、結論が変わってくると思う。 
 
 ここで、私自身の見方を少しだけ書いておこうと思った。どうにも文章でうまく表現できないようにも思うのだが、とりあえず、やってみる。 
 
*まず、今回の暴動の原因・理由は、「一つには絞りきれない」。低所得、失業(あるいは一度も働いたことがないなど)、人種差別などによる社会からの疎外感(これがあったのかどうかは私には分からないが)、うっぷん晴らし、他人の不幸を関係ないと思う気持ち、警察への不信感、面白そうだからやった・・などなど、いろいろな要因が絡み合っている。「理由はこれ!と、すっぱりとは言えないこと」−この点は、とりあえず、了解しておくべきだと思う。 
 
*さらに、「人種差別あるいは移民であることに対して何らかの差別を受け、このために社会に対して疎外感を持つ」、あるいは「職を見つけられないので、社会に対して恨みを持つ、疎外感を持つ」といったことは、そういう事態が発生していたとしても、これと暴動とはあまり・ほとんど関係ないかもしれないこと。 
 
*また、日本で前に「空気を読む・読まない」ということが流行ったが、事件の背景には、一つの空気として、社会の決まりごとや権威(例えば親、警察、そのほかの)に対する敬意の欠落(あるいは希薄化)があったと私は感じている。つまり、「社会契約」(ソーシャル・コントラクト)の瓦解、すなわち、「(社会の)ルールを守る」ことに関して、日本と比較すれば、英社会には非常にゆるい態度があるのではないかと思う。 
 
 実は、個人的には、私はこの点が一番大きな背景要因だと思っているのだけれど、どうやって説明したらいいか、迷う。「社会が機能するために、みんなが守る決まりごと」なんて、「どうでもいい」「適当にやっておけばいい」という感覚が、日本よりは強いと思う。(この項目、もっと上手な表現があるはずだが、とりあえず、ご勘弁を。)ある人は、「モラルの欠落」と表現していたーただし、「モラルの欠落」あるいは「希薄化」は、私にすれば、暴動者のみならず、社会全体でモラルの希薄化を許す土壌があるような気がする。(政治家だって、モラルが高いとはいえないのだ。) 
 
 それでも、決まりごとをきちっと守らない(守らなくてもよいと思っている)ーというのは、必ずしも悪いことではない。例えば、電車だったら、到着時間が数分遅れてもいいじゃないか(あるいは、仕方ないよ)と思うほうが、「1分でも遅れたら、切腹モノ」と考えるよりは、いい。 
 
 「権威」(政府、親、年長者)への追随・尊敬が減少したのは、ある人は第2次世界大戦後というし、ある人は1930年代という。1960年代以降という人もいる。 
 
 「親だから」「政府の言うことだから」といって、そのままうのみにしないのは、なんでもうのみにして批判せず、相手の言うことを黙って受け入れるよりは、いい。 
 
 結局のところ、社会の自由化、緩やかさ、ルール順守を最優先しない雰囲気が、一部の人にとっては反社会的行動をとっても良いと考えるような下地を作ったようにも思う。 
 
―日本で同様の暴動は発生するか? 
 
 日本で「同様の暴動が発生するか」?が大きな関心事になっているようだ。現在の日本社会にもいろいろな問題があり、不満を持った層が、何らかの行動を起こすことは「ない」とはいえないだろう。 
 
 しかし、「同様の」に注目すれば、「ない」と言っていいかと私は思う。 
 
 例えば英国には、10歳の少年・少女も含め、反社会的行動(車両にいたずら、騒音行動、窃盗など)を起こす、一定の層が存在する。また、職に就かなくても暮らしていけるほどの福利厚生制度があるために、自分自身が一度も職に就いたことがない人や、親の世代からずっと失業状態だった人たちの層が存在する。ロンドンでは刃物や銃による傷害行為で、命を落とす若者(圧倒的に黒人男性・少年たち)が多い。若年層が軽犯罪や傷害行為で刑務所に送られ、短期間で釈放され、その後、また犯罪者となって刑務所に戻る比率も高い。いざとなったら、反社会的行為に手を染めうる人たちが、結構いる。 
 
 私には、こういう層に相当する人たちが日本に存在することを想像できない。日本のニート層や、あるいは就職氷河期で苦しむ若者たち、あるいはリストラで職を失った人たち、あるいは反原発を訴える人々が、大規模な抗議運動やデモを行う可能性は大いにあるだろうし、実際に行っているだろう。 
 
 でも、果たして、一斉に、放火・略奪などの反社会的な暴力行為を行うだろうか?つまり、ある主張を分かってもらうために抗議をするのでなく、自分の私物を増やすために、大規模な窃盗行為を行ったり、放火したりするだろうか?私には、そういう事態が想像できない。 
 
 つまるところ、今回、少なくとも当初は警察への反発(ある男性を射殺)があったとしても、その後に拡大した放火・略奪行為を実行するためには、相当の「ルール無視」感覚がないと、実行できないと思う。これほどまでの「ルール無視」行動を、果たして、日本人が数千人規模で起こすことがあり得るだろうか?(ここで、東日本大震災で、海外メディアが日本人の「落ち着いた行動」を誉めていたことを思い出していただきたい。決して、お世辞でなく、心底驚いたのであり誉めていたのは本音だったのである。) 
 
−それでも「理由」を知りたい人のために 
 
 ロンドンの暴動の理由に関して、もっと具体的に知りたい方に、ロンドン在住藤沢みどりさんのブログ「ロンドンSW19から」をお勧めしたい。これで頭がすっきりするはずである。 
 
*ロンドンで暴動に参加しているのは誰ですか。 
 
http://newsfromsw19.seesaa.net/article/219843371.html 
 
*暴動はイギリス旅行に影響しますか。 
 
http://newsfromsw19.seesaa.net/article/220742526.html 
 
*** 
 
ーやや別の話 
 
 ジャーナリスト佐々木俊尚さんが有料メルマガ(15日発行)で、ソーシャルメディアをトピックとして取り上げていた。全文でなければ紹介可能とのことなので、一部を抜粋。 
 
 
 「日本においては従来、企業のようなアソシエーションは息苦しいムラ社会と同義語でもありました。「友愛」という名のもとに、隷従を強いるような組織形態がごく一般的にどこででもまかり通っていたのです」 
 
 「その息苦しさを突破するツールとして、先ほどから説明してきたような「場」的なソーシャルメディアがあったといえます」 
 
 「たとえば2ちゃんねるはその典型です。日ごろは企業に終身雇用制で勤めているサラリーマンであっても、「名無しさん」という無名の人に戻り、会社のことを気にせずに自由に意見を言い、時には他人を非難したり暴言を吐いたりすることもできる。1990年代末にスタートした2ちゃんねるが人気を博し、2000万人とも言われるユーザー数を誇るまでになったのは、息苦しい戦後社会に対する「ガス抜き」を求めていた人が多かったことの証明といえるでしょう」 
 
 「アメリカでは友愛の関係性をベースにしたアソシエーション的フェイスブックが最も普及したのに対し、日本では匿名やハンドルネームを使った「場」的な殺伐ソーシャルメディアの方が普及しました。これをもって「日本人のネットは匿名が好きで卑怯だ」とか言いたがる人もいますが、まったく的外れとしかいいようがありません」 
 
 「日本人は実社会ではあまりにも強く実名に紐づけられ、息苦しいほどにアソシエーションに縛り付けられているがゆえに、ネットの中ではアソシエーションを忌避したということなのではないでしょうか」。(引用終わり) 
 
 日本の「息苦しさ」は、どんな形で爆発するのだろう、と考えさせられた文章だった。(ブログ「英国メディア・ウオッチ」より) 


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