2011年10月21日09時05分掲載
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http://www.nikkanberita.com/print.cgi?id=201110210905105
アフリカ
カダフィの死をめぐるニュース フランスの新聞・雑誌から
カダフィ大佐の死が世界で報じられている。フランスのルモンド紙は「写真とビデオがカダフィの死を映す」と題して、その最期についてレポートしている。というのは、カダフィ大佐の最期についてまだ不明な点が多く、正確な情報をより分け分析する必要を感じていたからだと同紙は書いているが、その一因としては今年5月にビン・ラディンの死が報じられたとき、フォトモンタージュで偽造された写真が出回ったことがあったからだ。
http://www.lemonde.fr/libye/article/2011/10/20/photos-et-videos-ont-devoile-la-mise-a-mort-de-kadhafi_1591643_1496980.html#ens_id=1481986
ルモンドが最初にカダフィ大佐の死を写した写真を入手したのはAFP通信からだった。AFPにルモンドが問い合わせたところ、写真を送ってきたのは20年来AFPと提携している写真家のPhilippe Desmazes氏だった。Desmazes氏はこの血にまみれたカダフィ大佐の写真を反政府勢力だったCNTの闘志から入手した。画像は氏の携帯にデータで送られてきたという。それを写真に起こしたのが Desmazes氏だった。
パリ時間で昨日午後3時(東京とは8時間の時差)にAFPはその写真がカダフィ大佐であると確認した。その37分後、Desmazes氏はNATO軍がカダフィ大佐の乗った車両を空爆したのち、逃げ隠れたコンクリのパイプの写真を得た。
一方、午後4時、アルジャジーラが公表したカダフィ大佐の映像には最初の写真で見られた血はなくなっていた。
午後4時54分、フランスのアラン・ジュペ外相が「フランスはリビアの市民を支援したことを誇りに思う」と語った。さらに5時になるとロイターが別のビデオを公開した。
ルモンドはこう書いている。
「カダフィ大佐の最期についてはまだ不明な点が多い。NATOは逃亡中の車両群をシルトで空爆したが、カダフィ大佐がいたかどうかは確認していないという。CNTがカダフィ大佐は負傷して死んだと説明しているにしても、どのように傷を負ったかについてはわからない」
匿名者から戦闘員に囲まれた生きているカダフィ大佐の映像がリンクされたインターネットアドレスが送られてきたが、それがどのような映像かは確認できなかった、など慌ただしさがうかがえる。
■ヌーベルオプセルバトゥール誌のブログではバンサン・ジョベール(Vincent Jauvert)氏が「カダフィの死はサルコジ大統領にとって最良の<頭皮>」と題した一文を書いている。
http://globe.blogs.nouvelobs.com/archive/2011/10/20/kadhafi-un-beau-scalp-pour-le-candidat-sarkozy.html
「頭皮」とは戦利品のことだが、来春の大統領選に向けてサルコジ大統領がこの件を最大限選挙戦に使うであろう予想だ。これによって他の外交上の多くの失敗を帳消しにしてしまうだろう、と皮肉まじりに書いている。
昨年秋に結んだ英仏間の軍事同盟(財政難による軍事費削減のために英仏間で提携することが狙いだとみられている)によって、アメリカに頼らずとも欧州だけで軍事行動を起こしたこともまた誇らしく語るだろう、と推測している。
ジョベール氏はこのブログの最後に、サルコジ大統領が次期大統領選でカダフィ大佐の死に関連してPRするであろう点についてこんな警告めいた一文を書き足している。
「だが、その大統領の議論が有効なのは(大統領選の行われる)2012年春までにイスラム過激派がトリポリを制圧することがなかった場合。また、あるいは、リビアから流出した対空ロケット砲でテロリストが民間人数百人の乗った旅客機を撃墜することがなかった場合だ」
リビアの武器が国外に流れているらしいという記事は最近、ニューヨークタイムズに出ていたばかりである。下の記事は「ハイテク対空ミサイルがリビアの武器庫から流出」とされるものである。今年9月の記事だ。
http://www.nytimes.com/2011/09/08/world/africa/08missile.html?pagewanted=all
この記事では肩にかけて発射する対空ミサイルが武器庫から流出していることが書かれている。このミサイルは熱を感知し、熱源を追跡するハイテク兵器で、これがブラックマーケットに出回る危険が指摘されているのだ。その大半はロシアなど旧ソ連圏の兵器だという。ジョベール氏が警告しているのも、この兵器が民間機撃墜に使われる可能性があることである。記事によればアメリカの軍事専門家たちが一番恐れているのがリビアの兵器がブラックマーケットに出回ることだという。ブラックマーケットではミサイル1つにつき、数千ドルで売りさばけるという。
こちらは3月に出た「リビアの武器が流出するリスク」。テロリストに武器が渡って地域を不安定にするという記事は初期から出ていた。
http://atwar.blogs.nytimes.com/2011/03/04/the-perils-of-libyas-loose-arms/
http://www.nytimes.com/2011/03/04/world/africa/04weapons.html
この記事によれば、カダフィ大佐自身が過剰な武器を旧ソ連圏から買い集めていたほか、それらの兵器をパレスチナ、北アイルランド、その他サハラ以南の親リビア国に与えてきた。兵器メーカーにはロシア、ルーマニア、ハンガリーさらには中国などが挙げられ、「旧ソ連東欧兵器のクリアランスセール」と銘打たれている。(ただし、別の情報源によればイタリア、フランス、英国など欧州諸国もカダフィ政権に武器を売っている)
イラク戦争では独裁者サダム・フセインを倒した後、国家再建の困難が待ち受けていた。それは現在も継続している。
■エリゼ宮(大統領官邸)のウェブサイト
サルコジ大統領がリビアのベンガジでCNT議長らを訪問している写真が紹介されている。大統領の脇には「新・哲学者(Nouveaux Philosophes) 」と称される一派のベルナール・アンリ・レヴィ氏らしい人物も見える。http://www.elysee.fr/president/mediatheque/photos/2011/septembre/deplacement-de-m-le-president-de-la-republique-a.12021.html
■ベルナール・アンリ・レヴィのウェブサイト
氏は頭文字を取ってBHLとメディアで記されることもある。フランス語版のウィキペディアによると、新哲学者と言われる一派の中心にBHLがいるのだが、その核となっていたのは2つの告発だという。ソ連を中心とする全体主義国家群に対する告発と、それらの国々を擁護してきたインテレクチュアルに対する告発、この2つである。しかし、哲学者のジル・ドゥルーズからは「新哲学者たちの思想はゼロ」と批判されており、敵対していたらしい。
http://1libertaire.free.fr/Deleuze03.html
新哲学者たちに対する批判者によると彼らはメディアの露出度は高いが、内容空疎ということのようだ。
そのBHLはリビアのCNTの戦いにコミットしてきた。自身のウェブサイトでは10月20日付で「リビアの夜が終わった」という一文を書いている。
http://www.bernard-henri-levy.com/bhl-la-nuit-libyenne-est-finie-23798.html
テレビの電話インタビューでBHLは「戦いは終わった」と祝福の辞を述べている。
http://www.itele.fr/video/bhl-une-victoire-du-peuple-libyen-pas-des-occidentaux
■ジュペ外相(フランス政府のウェブより)
http://www.gouvernement.fr/gouvernement/alain-juppe/biographie
村上良太
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