2011年10月22日11時06分掲載
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アジア
大洪水に見舞われたタイ 経済大打撃で試練にさらされるインラク政権
2ヵ月以上にわたる洪水によって過去数10年で最悪の水害に見舞われたタイで、誕生したばかりのインラク政権がさっそく試練にさらされている。災害処理にもたつくようなら、政権は国民の不信感や対立勢力の抵抗の前に立ち往生し退場を余儀なくされる恐れも出てきた。(クアラルンプール=和田等)
水害を被った地域は北部および中部の27県、タイの総面積の約3分の1におよぶ。洪水で240万人が被害を受け、計66万人を雇用する1万4000以上の工場に被害がおよぶという予想を超える損害をもたらしている。国家経済・社会開発庁は、日系企業も多数進出しているアユタヤ県の5つの工業団地が被った損害額を1200億バーツ(3000億円強)と算定。農業部門の損害額は400億バーツ(1000億円強)におよぶと推定している。
さらに財務省は、この水害がタイの2011年の経済成長率が1〜1.7%押し下げるマイナス要因として働く恐れがあるとの予測を打ち出している。
こうした大被害に直面する中、インラク政権に対して政治的な反発を受けることを恐れて災害に関する情報を隠しているのではないかとの不信感が高まっている。洪水が足元まで押し寄せるまで政府が工場や住民に対して避難警報を出さなかった事例もあったことから、政府の対応の遅れに対する不満を募らせる人も少なくない。
世論調査機関ABACポールの調査によれば、政府が設置した災害救援作戦センターによる洪水に関する広報活動に対する評価は10点満点中3.4点にとどまり、政府の早期洪水警報システムに対する評価も3.1点と低い。また同センターが発する情報やニュースを信頼できないとの回答は87%に達し、同センターがしっかりした情報を提供していないとの回答も86%と高く、国民は概して政府の広報体制に懐疑的な見方を示している。
これに対してインラク首相は、「国民に情報を隠すようなことはしていない。ただ洪水が予想を上回るような危機的なレベルにまでいたってしまったということだ。タイ国民が直面している問題の解決に取り組まなければならないので、私たちには政治を弄している時間はない」と主張。政治的に対立する勢力も含めて全国民あげて復興に取り組んでほしいと呼びかけた。
また野党やタイ工業連盟などから非常事態宣言を布告するよう要求が出ていることに対して首相は、反タクシン派色の強い軍が前面に出てくることを嫌い、災害防止・緩和法を制定し災害時に首相に権限を集中させることを狙うなど、軍に主導権を奪われないよう対抗策をとる構えだ。
しかし、こうした広報態勢の不備に対する不信感の芽生えに加えて、インラク政権がもし災害復旧にむけての取り組みにもたつくようなら、ここぞとばかりに野党・民主党や軍部などが政権引きずり下ろし工作を仕掛けてくる可能性が高まる。インラク首相の政治的な手腕が未知数といわれているだけに、この危機を乗り切れるかが政権の存続に向けての正念場となる。
一方、一時的な危機を乗り切ったとしても、農産物をはじめとした物価の高騰や災害対策費の拠出によって財源不足に陥り、「大盤振る舞い」とも評された選挙公約の実現が困難に陥ることで、国民の支持が離れる恐れもあり、政権運営が容易に進まなくなることは間違いなく、インラク政権は早くも窮地に立たされている。
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