2011年11月06日11時10分掲載
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欧州
「英キャメロン政権の公費削減政策は失敗 米は二の舞を避けよ」ニューヨークタイムズ社説
ニューヨークタイムズは10月、社説で英国のキャメロン政権の経済政策を失敗と評価し、米国がその二の舞になることを避けよ、と書いている。その骨子となっているのがキャメロン政権が取っている厳しい公費削減政策である。ニューヨークタイムズ論説人は公費削減政策は成長率の低迷(0.1%)につながり、結局、英経済の負のスパイラル(失業率の上昇→需要の低下→生産の低迷→税収の低迷→さらなる公費削減→・・・・)を生むとしている。
保守党が主軸のキャメロン政権は自由民主党との連立政権で昨年5月に誕生した。財政再建のために強硬な公費削減を行っていると言われており、たとえば来年9月からは大学の学費も大幅に値上げされる方針である。英政府は10万人以上の公務員削減を実施し、今後もそれを続ける見込みである。その結果、失業率は現在8.1%だが、さらに拡大すると同紙は見ており、すでに過去15年で最も大きくなっている。
ギリシアに対して債権を持つ欧州各国が強いている劇的な公費削減の強要も誤りであり、ギリシアの不況を強めているとしている。しかし、英国は誰に強いられたわけではなく、自らギリシアと同じ不況を選んだと書き、米国はその轍を踏むべきではないとしている。社説のタイトルは’self−inflicted misery'とある、「自ら招いた悲惨」となる。
このような批判は新旧大陸の対立からだろうか?否、英国内からも同様の批判が出ている。以下は、ガーディアン紙のブログである。http://www.guardian.co.uk/commentisfree/2011/nov/01/big-bridges-sexier-than-jobs
コラムニストのサイモン・ジェンキンス(Simon Jenkins)氏は最悪の経済が人間に強いるものは低賃金でも労働条件の悪化でも住宅価格の高等でも出稼ぎでもない。それは失業である、と述べ、現在の失業率の高騰を批判している。これは「サプライサイドの経済学」にキャメロン政権が経済政策の基盤を置いているためだとしている。
ジェンキンス氏は1930年代に世界が軍備拡張に走ったのと同じメカニズムが今世界で進行している兆候が見られるとする。軍事ケインズ主義である。公費を劇的に削減する傍ら軍事費に巨額の税金を注ぎ込み、兵器を増産している。それは社会の生産性から見れば無意味なものである。英国がこのところ、アフガニスタン、イラク、さらにはリビア・・・と戦争にますます加担していることがその危険の証拠であると指摘している。
これは欧米に限ったことだろうか。今、日本の民主党は武器輸出三原則を緩和して、欧州の武器輸出大国と戦闘機の共同生産を始めようとしている。その理由として、民主党は兵器の共同生産によって軍事費が削減できるとしている。しかし、武器輸出三原則の緩和が軍事費を削減するためのものであるからといって、将来もそうかどうかはわからない。今、さかんに戦闘機が老朽化し、次世代型が必要になっていることが報じられている。いったん武器輸出三原則が緩和されれば景気回復につながるとしてさらに様々な兵器で増産体制に入る恐れはないだろうか。増税を行い、福祉費を減らし、軍事費に公費をより多く注げば日本もアメリカや戦時中のドイツのような軍事ケインズ主義に進む恐れもある。
■サイモン・ジェンキンス(Simon Jenkins ,1943−)
ガーディアン紙、イブニング・スタンダード紙のコラムニスト。かつてはタイムズ紙のコメンテーターを務めていた。オックスフォード大学卒。英国ではジャーナリズムへの貢献により、ナイトの称号を受けている。(ウィキペディアから)
■デーヴィッド・キャメロン内閣
2010年5月6日に行われた総選挙で第一党となり、第三党の自由民主党と連立内閣を作った。5月11日にキャメロン氏が首相に就任。
■サプライサイド経済学
「サプライサイド経済学(サプライサイドけいざいがく、英: Supply-side economics)は、マクロ経済学の一派で、供給側(=サプライサイド)の活動に着目し、「供給力を強化することで経済成長を達成できる」と主張する一派のことである。
ただし、この主張が成り立つ為には生産したものが全て需要されると言う非現実的なセイの法則が成り立つ必要がある。この学派に対しては、大部分の経済学者から理論の正当性などに関する強い疑問が呈されている。
(サプライサイド経済学は)次のような政策をとる。
・民間投資を活性化させるような企業減税
・貯蓄を増加させ民間投資を活性化させるような家計減税
・民間投資を阻害したり非効率な経済活動を強いたりする規制の、緩和・撤廃(規制緩和)
・財政投資から民間投資へのシフトを目的にした「小さな政府」化」(ウィキぺディア)
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