2011年11月07日09時11分掲載
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コラム
勉強とは何?働くってどういうこと? 中学生たちと企業経営者との交流 安原和雄
中学生と企業経営者との対話交流というユニークな試みが行われた。テーマは「勉強するのは何のため? 働くってどういうこと?」である。私が現役の中学生なら、参加してみたくなるような企画である。
基調講演「グローバル社会で求められる力とは」は女性経営者が担当、「人と競争するよりも、昨日の自分と競争すること。毎日新しいことを学んで成長する楽しみを、持ち続けたい」と力説した。同時に「グローバル社会で生きていくためには多様性への対応力が大切」と強調することも忘れなかった。
財界団体の一つ、経済同友会(代表幹事・長谷川閑史武田薬品工業社長)発行の『経済同友』(2011年10月号)が興味深い特集記事を掲載している。経済同友会「学校と経営者の交流活動推進委員会」主催の「勉強するのは何のため? 働くってどういうこと?」と題して行われた中学生、教員(副校長)、保護者らと経営者との対話である。以下では中学生と経営者との間の交流に絞って紹介する。
▽ グローバル社会で求められる力とは ― 中学生へ期待すること
まず基調講演「これからのグローバル社会で求められる力とは〜中学生の君たちへ期待すること」を紹介(大要)する。講師は橘・フクシマ・咲江副代表幹事(G&S Global Advisors Inc. 取締役社長)。
*欧米型+アジア型のリーダーシップが必要
経済の中心も、必要とされる人財(長年「人材」を財産としてみる「人財」と表現してきた)も、アジアに移りつつある。この変化によってリーダーの要件も変わってきた。これからはアジア型と欧米型を合わせたハイブリッド(異質なものの混成物)なリーダーシップが必要になる。欧米型は数字や戦略を強調するが、アジア型は人間関係や現場を重要視する。これは日本にとって有利なはずだ。
しかし残念ながら日本は今、内向きになっている。その一例がアメリカへの日本人留学生の減少で、一方で中国人、韓国人、インド人の留学生は増えた。英語力にも差がついている。世界の人財市場での日本の競争力は10年遅れてしまった。
*最も大切な「多様性」対応力
グローバル・リーダーとなるための要件は、国境を越えて活躍できること、どんな未経験の問題でも解決できる創造的問題解決能力を持っていること。特に知ってほしいのが「多様性=ダイバーシティ」対応力の大切さだ。これは国籍、人種、性別、年齢、宗教などの異なる相手の立場に立って考えるということ。(相互の)違いを理解して、人間として尊重、尊敬することだ。国籍や性別もその人個人の個性の一部として見ることの重要性である。ダイバーシティに対応するためにも、予測不能な危機を乗り越えるための危機管理能力、創造的問題解決能力、コミュニケーション能力が必要なのだ。こういう人がグローバルなプロフェッショナルのチェンジ・エージェント=変革者となる。
*新しいことを学んで成長する楽しみを持とう!
私が見た成功者に共通する特性は、自分のしたことに責任を持ち、失敗から学んでいること。成功の道は一人ひとり違うのでマニュアルはない。つまりキャリアは自分で作るもの、何をするにも無駄はないので、何でもやってみること。できないと思う前にどうすればできるかを考えてほしい。また人と競争するよりも、昨日の自分と競争すること。
私の一番好きな言葉は「ローマは一日にしてならず」。昨日よりは今日、明日よりは明後日、毎日新しいことを学んで成長する楽しみを、私は持ち続けたい。
以下は生徒との質疑応答の一部である。
問い:グローバルなプロフェッショナルになるには、プロスポーツ選手のように生まれつきの才能が必要か、それとも努力次第か。
答え:生まれながらの能力は確かにある。でも努力である程度開発できるのが個人的資質の論理性や発言能力。そこに仕事での経験で得られる能力を加えていけばプロフェッショナルになることも可能だ。
問い:「ローマは一日にしてならず」という言葉はいつどこで出会ったのか。
答え:小学生のとき本で読んだ。でもそのころは、あまり勉強したくなくて、怠けることの言い訳に使っていた(笑い)。社会人になって一日一日の努力の積み重ねが成果につながることが分かって、日々の努力型がとても大切だと思うようになった。それからは、この言葉を信念にしている。
▽ 生徒たちの多様な感想 ― グループ討論から
基調講演に続いて、生徒たちを含むグループ・ディスカッションが3組に分かれて行われた。それぞれのテーマ、講師(司会役)の助言(要旨)、生徒たちの感想(要旨)は次の通り。
(1)テーマ「仕事は喜びを得るためのもの」=講師・大塚良彦 大塚産業クリエイツ取締役社長
<講師の助言>
「グラスに半分飲んだジュースがある。これを見て、どう思う?」と講師が尋ねた。「まだ半分残っている」と答えた生徒に講師はうなずいた。「半分しかないではなく、半分もあるというプラスの考え方で物事を考えることが大事だ」と。
<生徒の感想>
・考えることの大切さが分かった。今まで勉強はただ覚えるだけだったが、これからはなぜそうなるのかなど、考えながら勉強したい。
・働くことがどういうことか、いかに大切なのかが分かった。人に信頼されること、人の立場になってものごとを考えることが大切だと分かった。
・勉強について、今まではなぜしなくてはならないのかと思っていたけど、勉強は目標達成のための「手段」と分かって納得できた。
・先生は「働く」ことだけではなく、人と人とのつながり、コミュニケーションの大切さも教えて下さった。またみんなでいろんなことを言い合って、いろんな考え方やものの見方があると分かり、とても有意義な時間だった。
(2)テーマ「何にでも積極的にトライしよう!」=講師・島田俊夫 シーエーシー取締役会長
<講師の助言>
具体的な目標を持つことが重要だ。必ず結果を出したいという目標を頭に浮かべたときに勉強する。さらに将来は文化や習慣などが異なる外国人と共に仕事をすることが多くなる。できるだけ機会を見つけて日本人以外の人と接触しよう。そこで、違う行動や習慣を肌で感じ、尊重することが重要だ。
<生徒の感想>
・目標を決めてさまざまな努力をしていくことが大切だという話が役に立った。今まで自分は高校を偏差値だけで決めようとしていた。でも自分でやりたいことをどんどんやっていこうという気持ちになり、見方が変わった。
・今まで考えていた、好きなことだけに取り組むのは、視野が狭いことが分かった。こんなディスカッションは初めてなので、緊張したが、人それぞれの考え方が聞けて、とても良い経験になった。
・ディスカッションの途中で、話の内容が分からないところがあり、意見を持てなかったが、講師が「分かりません、と言うことも意見だよ」と素晴らしい話をしてくれた。今後自分の中で、何かが変わるかもしれない。
(3)テーマ「みんなの夢をみんなで語り合おう」=講師・出口恭子 日本ストライカー取締役グローバルマーケティングバイスプレジデント
<講師の助言>
生徒たちは、思い入れに差はあるにせよ、それぞれに夢を持っている。講師は、どうしたら夢に近づけるか、お互いにアイデアを出し合おうと声を掛けた。講師自身、「幸せだと自信を持って言える仕事に巡り会えたのは40歳を過ぎてから。でもそれまでさまざまな仕事を経験し、いろいろな人と知り合ったから今の仕事がある」と告白した。
<生徒の感想>
・めざす夢は、いくら変えてもいいもので、それまでの努力も時間も決して無駄にはならない、ということに行き着いたとき、少しほっとした。
・進路について不安はあったけど、たとえ将来なりたい職業が変わっても、それまでの経験を次の夢に活かすという前向きの考えがあることが分かって良かった。
・最初は、どんなことを話すのか緊張していたが、自分の悩みや不安に思っていることなどを素直に話せて良かった。違った意見やアドバイスをもらったりして「よし、がんばろう」と思った。
▽ <安原の感想> 「若者の夢」と「世界の多様性尊重」の両立を
夢を持つことは極めて大事なことだ。若者から夢を引き算したら何も残らない。夢を抱き、脹らませていくことは若者の特質でもある。最近、夢を持てない若者が増えているときだけに「夢を大切に」はスローガンとして無限の価値がある。
重要なことは、その夢の性質であり、方向性である。めざすところが最近流行の「グローバル化」だけであるとすれば、いささか寂しい。
*グローバル化の多様な意味
そもそもグローバル化とは何を意味しているのか。そこが問題である。一口にグローバル化と言っても、そこには多様な意味が含まれる。例えば米国流の世界における覇権主義、単独行動主義に固執することはカビの臭いがつきまとう。巨大な軍事力に支えられているだけにもはや時代感覚に反し、古すぎるのだ。
一方、資本、企業レベルの国境を越えたグローバル化を絶対視するのも、もはや時代感覚としてずれている。これはグローバルな私利追求に執着する企業行動で、いかにも時代の先端を走っているかのような印象を与える「グローバル化」ではあるが、それを隠れ蓑にした貪欲そのものの反社会的行動というほかない。これからの時代を担うべき若者たちをこういう貪欲の群れに誘い込むことは、容認しがたい。
さてもう一つのグローバル化、すなわち市民レベルの国際交流としてのグローバル化は促進すべきである。基調講演の題名、「これからのグローバル社会で求められる力とは〜中学生の君たちへ期待すること」では「グローバル化」ではなく、「グローバル社会」という表現が使われている。しかも基調講演では「多様性=ダイバーシティ」対応力の大切さが強調されている。これは国籍、人種、性別、年齢、宗教などの異なる相手の立場に立って考えるということで、このような意味での「世界の多様性尊重」が21世紀のキーワードになってきている。このキーワードと「若者たちの夢」とをどう両立させていくか、若者自身にとっても今後の大きな課題である。
*昨日の自分と競争すること
基調講演の中で印象に残ったのは、「人と競争するよりも、昨日の自分と競争すること」である。これは重要な示唆を含んでいる。
学校でも企業社会でも多くの人は「人との競争」に明け暮れている。これは弱肉強食型、つまり相手に勝たなければ、自分が負ける、というつぶし合いの競争意識に囚われているからである。だから昨今、勉強嫌いの不登校少年、神経症などに悩む企業サラリーマンが増えている。
一方、自分との競争も決して気楽な選択ではない。自由な選択であるだけに怠け心をどこまで抑えることができるか、まさに自分との競争である。そこには自らを成長させ、個性を豊かにする楽しみが待っている。同時に人も自分自身との競争で自らを磨いていることに寛容な心を持ちたい。これは弱肉強食型を超える共生型の望ましいタイプの競争といえる。
*本稿は「安原和雄の仏教経済塾」からの転載です。
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