2011年11月08日21時52分掲載
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人権/反差別/司法
追悼・刑法学の中山研一京大名誉教授 異端の立場から
京大名誉教授で刑法学者の中山研一氏が今年7月31日に永眠された。中山教授(1927−2011)は主流派の刑法学者とは異なった視点から刑法学を研究し、犯罪を犯そうとする人間の主観よりも、危険が客観的に発生しているかどうかを重視する立場だった。脳死問題や共謀罪、そして最近では取り調べの可視化などについて刑法学者の立場から積極的に発言を行ってきた。以下は中山教授のブログから「竜頭蛇尾」と題されたものである。取り調べの可視化が進まないことを残念に思っていたようだ。
「検察による証拠改ざんをはじめとする最近の一連の検察の不祥事の発覚は、長年の懸案であった警察・検察の取調べの「全面可視化」を一挙に実現する最大のチャンスであったはずです。村木事件では、大部分が不採用となった従来の「供述調書」重視の捜査方法の見直しが緊急の課題とされていたのです。
そして、この問題を検討してきた「検察のあり方会議」(座長・千葉元法相)が「提言」をまとめて江田法相に提出しました(3月31日)。しかし、この「検察の再生に向けて」と題する提言は、取調べの録音・録画について「より一層、その範囲を拡大すべきである」との方向を示したのみで、肝心の取調べ全過程の録音・録画の制度化は明言されないまま、新しい検討の場に先送りされることになってしまいました。
江田法相は、取調べに一部の可視化にとどまらず、「全過程」でも試行するよう笠間検事総長に指示し、検事総長も全過程の試行に踏み切ることを明らかにしたといわれています(4月23日朝日新聞)。ところが、同時に現場では根強い反発と抵抗が存在することが公然と語られていますので、法相が検事総長に対して求めたとわれる「1ヶ月以内に体勢を整えて実施し、1年後をめどに有効性や問題点を検証する」という指示が実際に行われるという保障があるとはいえない状態です。
「全過程の録音・録画」の試行が、検察内部で実際に行われるかを注視しなければなりませんが、それが不可能であれば、立法化のために「法制審議会」に検討の場を移すことが考えられますが、ここにも法務・検察の主導権が及んでいる現状のもとでは、文明国の「国際水準」に合わせるという改革もまた、残念ながら竜頭蛇尾に終わってしまうおそれが大きいように思われます。それでは「密室取調べ」が誤判を生むという構造が続くことになります。」
中山氏はゴールデンウィーク前から腕や肩、脇腹などに痛みを覚えていたと最後のブログにつづっている。10代の学生時代に結核で長い間病床にあり、その後は酒もたばこもたしなまなず、法律の研究と若者の育成に取り組んできた。定年を迎えて大学を去ったのちは世相を見つめながら折に触れ、ブログを書き続けてきた。
「睡魔にも襲われて、とうとう「原稿」を書けないという最悪の状態に陥りました。しばらく「ブログ」を中断せざるをえませんので、悪しからずお許しください。結果は、お知らせするつもりです。 」(80肩から背中の激痛へ)
これがブログの最後の文章となった。書き残したことはまだまだあったに違いない。
■中山研一教授のブログ
http://knakayam.exblog.jp/
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