2011年11月12日18時07分掲載
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農と食
人肉食の時代
欧州の遺跡から、有史以前の人類が人肉食をしていたことが科学者によって報告されている。その記事はJeniffer Viegas氏が科学誌The Journal of Human Evolution(今年1月号)に掲載されたYolanda Fernandez-Jalvo と Peter Andrewsによる論文から紹介している。
http://news.discovery.com/history/cannibalism-early-humans-bones-101213.html
記事によれば有史以前の人類は近縁のネアンデルタール人やアンテセッサー人らとともに人肉食を通常行っていたと考えられている。その根拠は遺跡から発掘された人骨に動物の肉を食する場合と同じ食べた跡が痕跡として残っていたことによる。研究対象となった遺跡は英国サマセットにある洞窟、Gough's Caveの人骨だった。歴史は約12000年前にさかのぼり、最後の氷河期が終わった後にあたるという。
科学者たちは有史以前の人類と同様、一般に調理をしないナミビアのコイ族が1960年代に動物の肉の食べた骨を検証した。さらにスペイン、英国、コーカサス地方の遺跡にあった人骨や動物の骨なども調べたという。これらの骨から、食べた後に骨にできる共通の痕跡を拾い上げ、データ化していった。そのデータから有史以前の人類が人肉食を行っていたことをつきとめたという。
’Since bone chewing usually occurs when the consumer is trying to get at marrow and the last bit of meat, the marks can help to distinguish nutritional cannibalism from ritual de-fleshing. The findings can also reveal which animals prehistoric humans and human ancestors ate. ’
肉を食べた後に骨髄を食べた痕跡から、宗教的儀式によって生じた傷跡ではないと判断したという。互いに仲間を食べあっていたようであり、必ずしも殺人ばかりとは限らず、死んだ人を食べた可能性もあると見られる。また、食べた後の人骨は動物の骨と同じ場所に捨てられていた。
人間が人肉を食することは現代でも起きているが、遭難した場合や、戦時中に食糧難になった場合など、はなはだしい場合に限られる。英国の劇作家、バリー・コリンズが書いた戯曲「審判」(劇書房)は第二次大戦末期、南ポーランドから退却するドイツ軍が捕虜にしたソ連将校らを教会の地下室に閉じ込めた時の話である。その時、ソ連将校たちは仲間の肉を食べたとされる。この戯曲は最後まで生き残った将校の話を脚色している。バリー・コリンズは前書きでこう記している。
「捕虜のうち二人は、同僚を殺しては食べて、辛くも、生命をつないだ。結局、二人の生存者は、攻め戻して来た赤軍によって、発狂状態で、発見された。まず二人は、きちんとした、人間らしい食事を与えられ、その後、射殺された。「かつての上官の、あさましいなれの果てを、兵士たちに見せないためである」(スタイナー)」
人肉食が減ったのは農業生産力の上昇と無縁ではないだろう。しかし、その結果、人口も増加した。人口と生産力はらせんのように増え続けてきた。しかしそこには限界がある。
SF映画「ソイレント・グリーン」は近未来のアメリカで人口増加と食糧不足から老人を安楽死させ、死体を工場で緑色のせんべい「ソイレント・グリーン」にして国民に支給している話である。米政府はソイレント・グリーンは海のプランクトンであると言う風に実態を隠していた。この時代、肉や野菜を食べられるのは一握りの権力者と資産家に限られる。
食物連鎖の頂点に立った人類は人類を捕食する動物を絶滅に追い込んできている。その結果、人口の増加に歯止めがかけられなくなりつつある。霊長類を研究した故・河合雅雄京大名誉教授はサルの研究から、サルが樹上生活で天敵から身を守り楽園を手にした結果、個体が増えすぎ、互いに仲間のサルを出し抜かなくてはならなくなった。そこから悪が芽生え、戦争が始まったという説を唱えていた。限られた土地と資源の中で、人口(猿口)が一定以上に増えたことから、霊長類に競争や悪意そして戦いが生まれたというのである。
人口はこの12年で10億人増加し、今年10月、70億人を超えたと発表された。さらに13年後には80億人に、2050年には93億人になると国連人口基金で推測されている。しかし、食糧の増産は頭打ちになりつつある。異常気象や砂漠化、河川や地下水の枯渇、放射能による汚染域の広がりなども関係している。
■バリー・コリンズ作「審判」(青井陽治訳 劇書房)
■「飢餓人口が増加に転じた時代に生きている」
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■骨髄 (ウィキペディアより)
「骨髄(こつずい、英語:bone marrow)は、骨の中に存在する柔組織である。・・・ラーメン等では「ガラ」として良く煮込みスープのベースとする。moelleとしてフランス料理ではスープやソースに用いる他、大腿骨などを切りオーブンで焼いてプディングの様にすくって食べる。
ハイエナなどの腐肉食動物にとって、骨髄は貴重な栄養源となる。かつて古代人類も肉食動物の食べ残した骨髄をすすって食べていたと推定され、そのためには長幹骨の硬組織を破壊する必要があった事から、これが人間の進化と関係があったとする説がある」
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