2011年11月15日17時21分掲載
無料記事
http://www.nikkanberita.com/print.cgi?id=201111151721492
米国
2012年選挙戦たけなわ 選挙という間接民主主義の摩訶不思議 文:平田伊都子 写真とイラスト:川名生十
2011年11月9日、26人の99%貧困層代表がニューヨーク.ウオール街を出発した。 首都ワシントンまでの約350キロメートルを徒歩でデモ行進しようというのだ。 2週間かけて各地の<反格差抗議運動>を訪ね、集会と連帯を積み上げていくそうだ。 年令は10代から50代まで、主張も様々、、ある中年女性は失業を、ある学生は高い学費を、ある男性は住宅事情を訴える。 彼らの共通点は政治不信と明るさと元気だった。
* アメリカから帰ってきたゴスペルシンガー
10月の末、米州ペンシルバニアのピッツバーグから電話がかかってきた。 日本で足かけ30年以上もゴスペルシンガーとして活動しているアレックス.イーズリーだった。
「ワタシ、今、お兄さんの墓参りでピッツバーグだよ」と、アレックスの声は弾んでいた。
アレックスはピッツバーグの黒人街で黒人の両親から生まれた。 4人の姉妹と4人の兄弟に挟まれたアレックス坊やは自分の食い扶持を自分で賄って成長していった。 その一方で、アレックスは5才の頃から教会の聖歌隊で歌い続けた。 1960年半ばにミュージカルスターを夢見てニューヨークに出る。 「そん頃のハーレムはもう危険が一杯! 麻薬、強盗、強姦、殺し、、なんでもありよ。ハーレムを一歩出ると黒人差別の暴行が荒れ狂う。今のような観光ハーレムになるなんて誰も考えなかったよ」と彼は語る。
黒人差別撤廃を目指して闘っていたキング牧師が暗殺されたのは、アレックスがハーレムで歌っていた1968年のことである。
「お兄さんが死んだのは今年の3月だったんだ。ところが地震と原発事故の直後で、日本を脱出しようとする日本人や外国人で航空券は2倍にはね上がり、しかも満席。お兄さんの葬式に間に合わなかった。ワタシ、月曜は品川入国管理局で難民援助活動をしているんだけど、大災害後の3月14日に管理局へ行ったらビックリした!二階にある再入国ビザ受付から一回玄関を通って隣のビルまでアジアから来た出稼ぎ人や留学生の列が続いている、、放射能汚染された日本から一時避難しようとしていたんだ」とアレックスは語る。
「兄弟3人がみんな死んだので姉妹たちが、放射能汚染された日本に行くなとワタシを止める。日本の政府はどんなに危険か言わないし、ワタシもアメリカにきて恐ろしい日本の放射能汚染状況を知ったんだ。日本に行きたくないけどアメリカでは仕事がないし、」
そして11月の初め、アレックスは放射能汚染日本に帰ってきた。
* オバマのピッツバーグ選挙キャンペーン
2011年10月11日10:00にホワイトハウス出、10:20アンドリュース基地発、11:15ピッツバーグ着、11:50選挙キャンペーン。2:40ピッツバーグからオーランドへ。
以上は2011年10月半ばのオバマ大統領スケジュールである。4月4日に大統領選挙出馬を表明して以来、オバマの最優先事項ははっきりと選挙戦になっていった。 2008年にオバマを勝たせたユダヤ系側近のほとんどがホワイトハウスを去り、選挙運動中だ。
「ピッツバーグ選挙キャンペーンの評判はどうだった?」と筆者は帰ってきたアレックスに、オバマのアメリカ大統領選挙戦を聞いた。
「ウ〜ン、2008年の大統領選挙のように盛り上がらないよ。オバマは一杯良い事約束したけど、殆ど実現してないし、支持率が示すように人気は落ちてる」と重苦しい。
「オバマに勝ち目はないの?」オバマファンの筆者が聞き返す。「ワタシも勝って欲しい。
だけど、ハードルが一杯。まずお金をもっと集めなくちゃ、、」とアレックス。「オバマは共和党全候補の選挙資金合計よりたくさん集まったそうだし、5$草の根献金も始めてるよ」と、筆者が正すと「もっともっとテレビ、新聞、キャンペーン費その他、いくらあっても足りない。だからオバマは好むと好まざるとに拘わらず、大金持ちのユダヤ資本家たちと縁が切れない。ユダヤ人は民主党を牛耳っている。オバマが本領を発揮できるのは、次の二期目大統領選挙に勝ってからだ。三期めはないから、自分の思うままに動けるよ」と、黒人のアレックスは黒人大統領再選という希望を捨てない。
* オバマ選挙戦、最大のハードル
「オバマが勝つにはどんなハードルをクリアーすればいいの?」と、筆者は畳み込んだ。
「来年の選挙前にアメリカ経済状況がよくなればいいよね。でも共和党はオバマの失言をつかまえたりスキャンダルをでっち上げたり、あらゆる汚い手を使って評判を落とそうとする。選挙はダーテイーマッチだからね」とのアレックスに「オバマもド汚くやりかえせばいい」と、筆者は反論した。 「予測できるハードルを全てクリアーできても、オバマには予測できない最大のハードルがある。それは暗殺だ。1968年の黒人指導者キング牧師が暗殺された時、ワタシはニューヨークのハーレムで信じられなかったよ!」
アレックスに指摘されるまでもない。 共和党の反オバマ勢力、民主党の政敵、黒人嫌いの熱狂的白人至上主義者、オバマに反発する熱狂的黒人至上主義者、有名になりたいチンピラ、、等等、今まで命のあるのが不思議なくらい、オバマの周りは暗殺者だらけだ。
危険が一杯オバマの‘11年11月11日.<退役軍人の日>を検証してみる。
09:30 オバマ大統領とミッシェル夫人が退役軍人と朝食会。
11:00 アーリントン国立墓地.無名戦士の墓にリースを供える。
11:15 国立墓地で退役軍人やその家族に向けて、票集めのために自己宣伝演説。
01:05 ホワイトハウスを出発アンドリュース空軍基地からサンディエゴに飛ぶ。
19:05 サンディエゴで大統領選挙キャンペーン開始。
20:30 ジム.グレイの番組でインタヴューを受ける。
どの瞬間も、オバマを襲える可能性がある。
同じ日に、オバマの選挙対策本部<Obama For America(アメリカのためのオバマ)>が、有権者に向けてオバマの功績をアピールした。 「あなたがたのオバマは退役軍人のために85万人の職を、数年後には100万人以上の職を約束し、その法案を上院で通した」
同じ日に、ミシェル大統領夫人は「私の亭主は、イラク戦争を終結し、軍隊内での同性愛偏見をなくした。退役軍人を援助するため、みんなが立ち上がろう」と、暗にオバマへの票を促した。
* ウオール街から出発して
「ウオール街占拠に参加した?」と。筆者はアレックスに聞いた。「参加はしない。見物に行った。イベントみたいだから観光客もたくさんいたよ」と、アレックスは笑った。 「なぜウオール街占拠をさけぶの?」と筆者。 「ウオール金融街には政府の援助で金がある。でも一般の人々に金融街は金を貸さないし、99%のアメリカ人は金がない。ウオール街は
1%金持ちの象徴だから一番の標的にされたんだ」と、99%のアレックスは思いを共有している。 「ウオール街占拠にはどんな人が参加しているの?どんなことを訴えてるの?」と、筆者。 「人も訴えも色々バラバラ。職がない人、主婦、学生、自己主張したい人、ラップ系、カラオケ系、ようは暇なひとたちね。訴えることは、金を貸してくれ、職をくれ、家を追い出さないでくれ、学費を下げろ、、などすごく自分の事なんだ」
「でもこれから雪が降るし、路上生活は難しくなるんじゃない?」と筆者が聞くと、「平気平気、テントさえあれば大丈夫、アラスカでも南極でも人は生きていける」とアレックス。
「デモの規制はないの?」と筆者。 「アメリカでは、公園や公共施設から民間人を追放できないことになっている。米国人には抗議権がある」と、アレックスは胸を張った。
「オバマはなんて言ってるの?」との筆者の質問に、「オバマは<抗議する権利をサポートする>といったきり、それ以上はノーコメント。選挙戦中だから、うかつな事は言えない。
ずるい!この件では共和党も民主党も同じだ」明快なアレックスの返事が返ってきた。
「99%の抗議運動は米国全土に広がりつつあるよね?<アメリカの春は>はくるの?」と筆者が突っ込むと、「ある組織が意図的に革命などを目標にしてこの運動を仕切っていけば、<アメリカの春>遠からじ、、かも」とアレックスは気のない返事をした。
* 不完全な民主主義
2012年は、アメリカ大統領選挙だけではない。 世界の主要国で大きな選挙予定がひしめいている。 以下に、公表されている選挙を列挙してみる。
2月19日、ギリシャ総選挙
3月、台湾総裁選挙、イタリア総選挙、スペイン総選挙。
5月、フランス大統領選挙。
11月、アメリカ大統領選挙。
12月、韓国大統領選挙。
しかし、どの選挙も結局、間接民主主義にすぎない。 政治は選挙で選ばれた小数の人間に数年間独占され、その間、国民の声は無視される。 11月2日にギリシャのパパンドレウ前首相は抗議デモに押されて<EUが強制する経済政策を受け入れかどうか?>を問う国民投票実施を宣言した。 が、前首相は11月3日に20カ国首脳会議に呼びつけられてフランス大統領とドイツ首相に脅かされ、国民投票を止めさせられた。 古代ギリシャが生んだ直接民主主義を欧州政治は踏みにじったのである。
「私たちの声が政治家に届かないからデモるんだ」と、ウオール街の抗議者は叫ぶ。 が、アメリカの政治家は大統領選挙の票読みしか関心がない。 その大統領選挙も巧妙で間接的な国民投票だ。 「それでもワタシ、日本で大統領選挙の不在投票をする。やっぱりオバマに勝って欲しい」と、第二期目のオバマ大統領にアレックスは期待している。
そのアレックスは12月17日、ゴスペルコンサートに出演する。
看板:クリスマス.セレブレーション
日時:2011年12月17日(土)6:30開場、7:00開演
場所:銀座ブロンサムホール(中央会館)東京都中央区銀座2−15−6
料金:2000円(前売り)、2500円(当日)
共演:高橋のぶ子、ギルバート.エスピネリ、レイディ.ルイズ 他
「来てよね!!」アレックス.イーズリー
文:平田伊都子 ジャーナリスト、 写真とイラスト:川名生十 カメラマン
Copyright (C) Berita unless otherwise noted.
日刊ベリタに掲載された記事を転載される場合は、有料・無料を問わず、編集部にご連絡ください。ただし、見出しとリード文につきましてはその限りでありません。
印刷媒体向けの記事配信も行っておりますので、記事を利用したい場合は事務局までご連絡下さい。