2011年12月22日11時24分掲載  無料記事
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労働問題

労働者と労働運動を舐めるな!〜JALの組合潰しを許さない!!〜  東京で相次ぎ集会  坂本正義

 JAL整理解雇問題が大きなヤマ場を迎えつつある。昨年大晦日に整理解雇されたJAL社員165名のうち146名(その後、2名が追加提訴したため、現在原告は148名)が今年1月に東京地裁へ提訴した裁判が、僅か1年足らずの12月に結審を迎えるという異例の早さで進み、判決は年度内に出ることが見込まれている。 
 
 「労働者そして労働運動が舐められている」 
 この言葉を聞いて私は「はっ」と目が覚めるような感じがした。 
 これこそJAL(日本航空)整理解雇問題の核心を突いた言葉だと思ったからだ。 
 
 
<稲盛証言を斬る!JALの組合潰しを許さない!!東京集会> 
 
 JAL整理解雇問題が発生した昨年末以降、この問題を扱った集会や学習会など様々なイベントが全国各地で催されている。 
 結審を間近に控えた12月6日には東京・豊島区の「みらい座池袋」で「JAL不当解雇撤回総決起集会」(主催・日本航空の不当解雇撤回をめざす国民支援共闘会議)という一大イベントが開催され、原告を含む652人の支援者らが集まった。 
 そして、この一大イベントの成功に向けた前段の集会という位置付けで、11月下旬に東京・新宿区の新宿農協会館において「稲盛証言を斬る!JALの組合つぶしを許さない!!東京集会」(主催・集会実行委員会)が開催されている。 
 
 恥ずかしながら最近知ったのだが、東京集会が開催された新宿の地を中心とする東京西部ブロックは、国鉄分割民営化のときに共闘会議がいち早く立ち上がるなど、全労連系と全労協系労組の共闘が進んでいる地域として有名なのだそうだ。 
 「そういう地域で開催される集会だから、内容の濃い面白い話が聞けるのでは?」と思って会場に足を運んだところ、集まった人たちは労働運動界における百戦錬磨の猛者のような人たちばかりで、いずれも眼光鋭く、あまりの迫力に怯んでしまうほどであった。 
 
 しかし集会は、JAL整理解雇問題がJAL社員だけの問題でなく全労働者にとって重大な意味を持つ問題であることを改めて学ぶことができた中身の濃いものであった。 
 
<大衆運動の遅れを取り戻そう> 
 
 集会実行委員会の村中哲也さんは、開会挨拶の中で、異例の裁判の進行に対して大衆運動の遅れが多方面から指摘されているとして、遅れを一気に取り戻す決起が求められており、特にJAL問題の主戦場である東京において運動の強化が必要であると訴えた。 
「この整理解雇の真の狙いが組合潰しにあったということは、9月30日の稲盛和夫日航会長の証言においても証明を要しないくらいはっきりしています。国鉄分割民営化に際して、中曽根康弘元首相は『分割民営化の真の目的は総評潰しのため、その中核労組の国労を潰すことにあった』と公言して憚らないですけど、それと同様に、彼(稲盛)らが労働運動を甘く見ている態度を私たちは深刻に受け止めなければならないと思います。この際、彼らに思い知らせる闘い、大衆運動の飛躍的強化が必要です」 
 
<裁判の現状と勝利に向けた今後の課題> 
 
 続いて、原告弁護団の安原幸彦弁護士が裁判の現状と今後の課題を説明した。 
 安原弁護士は、極めて異例のスピードで進んだJAL裁判の進行も審議の中身も、すべて弁護団のイチシアチブで進めることができたことを報告するとともに、裁判でとりわけて攻防となったのが、稲盛和夫証人と醍醐聰(東京大学教授・会計学)証人の採用であったことを披露した。 
 
「稲盛氏については、証拠申請した段階で基本的に裁判所は証人に採用するだろうと想定していましたが、醍醐証人については、結果的に証人に採用されたものの、採用までにかなりの困難を伴いました」 
「醍醐証人が採用される決め手となったのは、会社側が経営内容について会社の財務を専門とする社員を証人に立ててきたことに対して、我々が『整理解雇で経営状況が問題になるときに、財務の専門家を会社側だけに立てさせて、我々側に専門家を立てさせないというのはアンフェアだ』と主張したことでした」 
「稲盛証人の方が目立っていますが、実務的・実際的な判決への影響という点では醍醐証人の採用が大きかったと思います。JR不採用問題で言えば、松田昌士(JR東日本相談役)証人の採用と似ているように思います」 
 
 そして、裁判勝利に向けて克服すべき課題として次の3点を挙げた。 
(1)「潰れた会社だから解雇は仕方がない」という俗論 
(2)「JALとその従業員は、これまで散々いい目を見てきたじゃないか」という俗論 
(3)会社更生法という裁判所が関与した下で解雇が行われている点 
 
 安原弁護士は、3つの課題の中で特に重視しているのが課題(3)で、大きなハードルとして存在していることを説明した。 
 
「更生会社における解雇の決定は裁判所の認可事項ではないので、直接的に裁判所が関与したわけではないのですが、全然無関係ではありません。更生手続きが終結する前の、裁判所が管理している中で解雇が行われたという、裁判所が何らかの形で関与している争議事案を裁判所で裁くというのは、裁判官の心の中に非常に大きな抵抗感があると思うのです」 
 
 また、今回の解雇は「弁護士による解雇」と「温存された旧勢力による解雇」だと指摘した。 
 
「弁護士の世界にもいろんなムラがありますが、その中に『倒産ムラ』と業界で言われているものがあります。JAL整理解雇問題では、倒産ムラの弁護士が解雇に関わっていますが、彼らはこの裁判を通じて『倒産時、会社更生手続きをしている最中の解雇は自由だ』『整理解雇4要件は、倒産した会社に適用されるものではない』『倒産した会社を再建しているときには、解雇はとても大きな武器になる』ということを勝ち取ろうと闘っているのです」 
「JALに長く巣くい、経営を駄目にし、今回の倒産でも生き残ってきた旧勢力は、何としても特定の人たち、すなわち原告団の方々の首を切りたいという切実な願いを持っていると言えます。それは、労務政策以前の問題と言って良いでしょう。つまり特定の人物を排除するべく、それに向けてすべての施策を展開していった『組合潰し』という側面を併せ持っているのです」 
 
 そして最後に、裁判勝利を確実にするには、法廷内の闘いだけでは十分でなく、当事者・支援者が大きな運動を組んでいくことが必要だと訴えた。 
 
「弁護団としては、判決を機にこの争議を一気に解決させたい、つまり来年3、4月での解決を目指したいと思っています。それにはJALという民間企業だけでなく、政治的な判断も必要です。民主党政権が『JAL整理解雇問題を解決することは、政権維持にとってプラスになる』と思うようにするには、多くの国民がこの争議に関心を持ち、そして国民の多くが解雇撤回を支持していることが必要で、そのことを悟って初めて民主党政権はそういう立場に立つのです。だからこそ、政治が動かざるを得ない状況を作り出すための圧倒的な世論を作り出す運動が必要なのです」 
 
<あらゆる戦線が共同して闘うべきだ!> 
 
 安原弁護士による講演後、東京全労協の纐纈朗議長、新宿区労連の屋代眞事務局長、全日建運輸連帯労組関東支部の中塚大介委員長が、それぞれ連帯の挨拶を行った。 
 
「安原弁護士からも『大衆行動が必要だ』とのお話がありましたが、最大のヤマ場を迎えている今、今日お集まりの皆さんが職場に戻り、弁護士の先生から聞いた話を職場で話していくことが大衆行動につながると思います。そして、労働者のつながりが一番の武器です。東京全労協も今あるつながりを最大限生かしながら、JAL闘争の勝利に向けて、皆さんと連帯していきたい」(東京全労協議長・纐纈朗さん) 
 
「JALの不当解雇問題を知ったとき、本当に労働者そして労働運動がここまで舐められているのかと怒り心頭になりました。整理解雇4要件をこれほどまでに骨抜きにして攻撃してくることを絶対に許すことができません。私たち労働者にとって、JAL整理解雇問題はJALだけの問題ではなく、全労働者にかけられた攻撃だと受け止めるべきであり、あらゆる戦線が共同して闘うべきです」(新宿区労連事務局長・屋代眞さん) 
 
「JALの事件は、解雇の自由そして組合潰しというとんでもない問題だと思っています。労働組合に対する弾圧が強まっていると感じています。JALの闘いは必ず勝っていただき、弾圧を跳ね返す突破口になっていただきたい」(全日建運輸連帯労組関東支部委員長・中塚大介さん) 
 
<自分たちだけの問題ではない!> 
 
 3人からの連帯挨拶を受けて、乗員訴訟原告団長の山口宏弥さんと客乗訴訟原告団の斉藤良子さんが、それぞれ決意表明を行った。 
 
「私たちが昨年末に解雇された後、裁判の原告団を結成する前から支援共闘会議の結成など早くから応援していただきました。しかし当初は『どうして周りの人たちがこんなに応援してくれるのだろう?』と思いました。でも、この問題が自分たちだけの問題ではないんだということを原告団148人は今、確信を持つに至っています」(山口宏弥さん) 
 
「私たち原告の中には、組合の委員長、執行委員、代議員が数多く含まれています。会社は、私たちベテランを切ることで不利益を被ろうとも、私たちをどうしても辞めさせたかったのだということが裁判を通じてはっきり分かりました」 
 
「私たちが仕事を奪われた昨年10月以降、仕事の内容がいろいろと変わり、今の労働条件は何十年も前に戻ったような状況です。機内販売では厳しいノルマが課され、そのノルマを達成しなければいろいろと報告書を書かされたりしています。そうなると皆、何が何でも売りたいということで、ベルト着用の指示をぎりぎりまで遅らせるようキャプテンにお願いしているような状況です。着陸前の片付けが間に合わなくて、立ったまま着陸するということも起きています。こういう会社の状況に嫌気が指して、この半年で客室乗務員が約400人辞めており、現場は元気を失っている状態です。私たちが裁判に勝って職場に戻ることで、客室乗務員たちが辞めていくことに歯止めをかけることができると思っています」(斉藤良子さん) 
 
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 JAL闘争の支援者たちは11月上旬、原告団を財政的に支える目的で「不当解雇とたたかう日本航空労働者を支える会」が結成している。会員数は当面3万人、最終的には6万人を目指すとのことである。 
 「明日は我が身」と思う人は、是非支える会に入会してあげて欲しい。 


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