2012年01月02日23時52分掲載
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ベルベル人の心を歌うイディール(Idir) 〜昔話 A Vava Inouva〜
ベルベル(Berber)人という名称は遠い昔、世界史の時間に一度か二度耳にしたくらいで、その実像はまったく未知の民族だった。ベルベル人は北アフリカに古来から住み、ベルベル語なる言語を話す。
ウィキペディアによれば「東はエジプト西部の砂漠地帯から西はモロッコ全域、南はニジェール川方面までサハラ砂漠以北の広い地域にわたって分布しており、その総人口は1000万人から1500万人ほどである。モロッコでは国の人口の半数、アルジェリアで同5分の1、その他、リビア、チュニジア、モーリタニア、ニジェール、マリなどでそれぞれ人口の数%を占める。」
さらにフランスなど欧州にもベルベル人の移民が300万人近く在住しているのだそうだ。ベルベル人は人種的にはコーカソイド、つまりは白人に属するようである。
ベルベル人には何人もの優れた歌手が出ているが、その一人がイディール(Idir)である。イディールについて教えてくれたのはジャミーラさんという名前のベルベル人の若い女性である。イディールは柔和な顔立ちをしていて、その歌もまたやさしい。僕が聞いたのはイディールがアコースティックギターを奏でながら弾き語る「アヴァヴァ・イヌーヴァ(A Vava Inouva) 」というタイトルの歌だった。1976年に初めて歌ったこの歌でイディールは一躍フランスをはじめ世界中に名前が知られるようになったそうである。実際、7か国で詩が訳されているそうだ。ジャミーラさんによると歌は次のようなものだという。
「’アヴァヴァ・イヌーヴァ’は暖炉のそばでベルベル人のおばあさんたちが子供たちに語った教訓話をもとにしています。でも、イディールのこの歌で歌われている物語はとても悲しいものです。ある父親が家にこもってしまって家の外に一歩も出られなくなってしまう話なのです。外部との連絡はすべてグリーバという名前の娘が行っています。食べ物を調達するのもこの娘で父親は娘なしには生きることができなくなっています。娘は家に帰ってくるとドアをノックするのですが、父親は警戒して尋ねます。
娘「イヌーヴァ父さん、ドアを開けて頂戴」
父「娘だという証拠に腕輪を鳴らして御覧、わが娘グリーバよ」
娘「森の怪物たちが怖いわ」
父「私もだ。」
・・・」
ジャミーラさんによると、この歌にはベルベル人が昔からローマ、バンダル、アラブ、トルコといった外部から来た勢力に侵略されてきた歴史が影を落としているという。だからこの歌は同時にベルベル人の連帯感を掻き立てるそうだ。アルジェリアに住むベルベル人のジャミーラさんはベルベル語はもとより、アラビア語、フランス語、英語、スペイン語を話す。どこか、この物語のグリーバという名前の娘さんと通じる気がする。
イディールはベルベルの伝統的な音楽に、ケルト音楽をミックスし、独自のスタイルを作ったという。その歌にはノスタルジックな甘さと郷愁が漂う。
■イディール(idir、1949−)
http://en.wikipedia.org/wiki/Idir
■イディールのコンサートとインタビュー(2010年)
http://www.agraw.com/2010/08/idir-interview-concert-al-hoceima-2010/
このコンサートではベルベル人たちが自分たちの民族を象徴する旗を掲げている。イディールが聴衆に「Imazighen(イマジゲン)」の皆さんの写真を撮らせてくださいと呼びかける一コマがある。このImazighenとはベルベル人が自分たちを指して呼ぶ言葉だそうである。また、Imazighenの単数形でAmazigh(アマジグ)と呼ぶこともあり、それはウィキペディアの説明によれば「高貴な自由人」という意味だそうである。ベルベルという言葉の語源はギリシア語の「バルバロイ」らしく、「意味がわからない」という意味になるそうだ。これはある国を中心としてその周辺国を蔑視して指す「夷狄」とか「蛮族」という言葉に意味に近いのだろう。だから、彼らは自らをアマジグと呼ぶそうである。
■アマジグ(ベルベル)文化のウェブサイト
http://www.agraw.com/
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