2012年02月01日18時34分掲載
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医療/健康
欧州で豊胸バッグの安全性に疑問符 ―英国では手術費用の負担が大問題に
昨年末、フランスの会社(PIP)が製造した豊胸用シリコン・バッグに医療上の問題があることが発覚した。最悪の場合、シリコン材が体内で破裂する可能性があり、豊胸手術を受けた女性たちの間にパニックが起きた。本国フランスやドイツでは女性たちに摘出手術が勧告されたが、英政府は「必ずしも手術は必要ない」と発表し、国によって対応がまちまちになっている。(ロンドン=小林恭子)
英国の邦字紙「英国ニュース・ダイジェスト」最新号に掲載された原稿に若干補足したのが以下である。
まず、こだわるようだが、このニュースを日本語で拾うと、「豊胸」という言葉が出てくる。英語では、breast implant(乳房インプラント)になる。英語ではニュアンスとして、ニュートラルな感じがする。「豊」がつくと、どうもすでにあるものを(より)大きくする・豊にする、というイメージが出る。これは事実を述べているだけかもしれないが、どうも個人的にはぴんとこない。乳がんなど、病気で乳房を失われた方が利用するもの、というイメージが自分の中であったせいかもしれない。
しかし、英国では、このインプラント手術を受ける人の90%が、乳がんなどの胸の病気よりも、「胸が小さい、あるいは形が気に入らないので、大きくしたい・形を変えたい」という理由で、これを利用しているという。胸が小さいことは大きな精神的なコンプレックスやダメージにつながることも多いので、この手術を受けたことで、人生が変わった、気持ちの持ちようが変わって幸せになったという女性がたくさんいる。
英国では乳がんに関しての関心が高い。BBCで見つけた情報によれば、毎年4万5000人が乳がんにかかっており、がん患者のなかでは、乳がん患者がもっとも多いという背景がある。家族、知人・友人の中に乳がん患者がいることは、珍しくないのだ。
Breast cancer http://www.bbc.co.uk/health/physical_health/conditions/in_depth/cancer/breast_cancer.shtml
以下、便宜上、「豊胸手術」という言葉を使用する。
―昨年から出始めた懸念
フランス製の豊胸用シリコン・バッグが、体内で破裂する危険性があるという恐れが出て、昨年末ごろから、世界各国で大きな健康上の懸念に発展している。
この豊胸材はフランスのポリ・アンプラン・プロテーズ(PIP)社 が製造したもの。同社は医療用としては未認可の産業用シリコンを使い、フランス政府は使用禁止措置にした。会社は2010年に倒産している。
豊胸出術は、乳がんで乳房摘出手術をした人が乳房再建のためや、胸を大きくする美容整形上の理由などから利用されている。PIP社製の豊胸材でがん腫瘍が拡大するといった結果は1月時点で出ていないが、懸念は体内破裂の可能性だ。シリコンの中に入っているジェル状の物質が体内に流れ出て、細胞に損傷を与えると、痛みや炎症が発生したり、乳房の変形につながる。豊胸材の摘出も困難になる。
―世界で30万人、英国では4万人
PIP社製の豊胸材は世界65カ国の約30万人の患者に販売された。英国では豊胸手術を受けた25万人の中で、4万人がPIP社の製品を使ったと見られている。正確な数がはっきりしないのは、豊胸手術の95%は民間の医療クリニックが手がけているためだ。国民保健サービス(=NHS。税金で運営され、原則無料で医療サービスが受けられる)にはほんの一部の患者情報しかない状況だ。
英国医薬品庁(MHRA)によると、英国では女性に施される手術の中で豊胸手術の数がもっとも多いが、医療上の理由から豊胸手術を受けた人は全体の1割のみだ。
豊胸手術を受けた女性たちは、現在、大きな不安を抱えながら生きている。安全性についての情報が確定していないのと、摘出が必要となった場合、誰が手術費用を負担するかがはっきりしないからだ。
例えばフランス政府は「破裂の可能性は5%」とするが、MHRAによれば1%に下がる。一方、大手民間クリニックのトランスフォームは7%という。
フランス政府は予防策として摘出を推奨し、ドイツ、オランダ、チェコ、ベネズエラなども同様の姿勢をとる。
英国では、女性たちの懸念に後押しされる形でアンドリュー・ランズリー保健相が専門家グループに事態の分析を依頼。1月6日に発表された報告書は「原則としての摘出の必要は認められなかった」と結論付けた。ただし、「不安感はこれ自体が健康上の懸念になるので、もし女性たちがそう望めば、摘出できるようにするべきだ」とも書かれていた。すっきりとしない結論である。
費用負担についての政府の不明確な態度が豊胸手術を受けた女性たちの怒りを大きくしている。保健相は「民間のクリニックには、女性たちが無料で摘出手術を受けられるようにする、道義上の義務がある」と述べたが、「道義上」のみではなく、もっと強い口調で民間クリニックに訴えてほしいと思う女性たちが多い。
フランスでは、PIP社の豊胸材を使った女性たち約3万人に対し、政府が摘出の手術代を負担すると宣言。英国ではNHSが費用を負担すると述べているが、これはNHSで豊胸手術を受けた人のみ。ただし、民間のクリニックで豊胸手術を受けて、そのクリニックが閉鎖していたり、無料の摘出手術を行うことを拒絶した場合には、摘出手術のみ(ただし別の豊胸材との交換はしない)を行うという。民間の医療機関が行った手術の後始末をどこまでNHSが面倒を見るべきなのだろうか?
政府や民間医療機関の支援が十分ではないことに対し、豊胸手術を受けた女性たちが中心となって、抗議デモが各地で発生した。最終的に求めているのは、どの医療機関で治療を受けたかにかかわらず、無料で診察を受け、患者たちがそう望んだ場合には摘出と交換までも含め、無料ですべてをやってもらうということー患者たちは医者を信じて、この手術を受けたのだから。
今回の一連の事件では、豊胸手術について、公的機関による情報の一元管理を求める声が出た。また、医療以外の理由で豊胸手術に踏み切る女性たちに、豊胸材を身体に入れることへの強い警告を発した。
事態が今後どのような方向に進むにせよ、現在大きな犠牲者となっているのが、医療機関に身をゆだねた女性たちである。医療関係者がせめてできることは、すでにこの手術を受けた女性たちに安心感を与えるような環境を一日も早く築き上げることだろう。
本当になんだかつらないなあ・・・と思う事件である。医療上あるいは美容(あるいは生活)上の理由から身体に異物を入れることー様々な理由から人間はこれをよしとしてきた。(小さなことかもしれないが、私自身もコンタクトレンズを目に入れている。)ほかにも身体の一部を入れかえる医療技術の発展は目覚しく、恩恵を受ける人は私の家族も含め、たくさんいるのだけれども、人間は一体どこまでこの「入れかえる」道を進むのかなあ・・・と、しばし思いをめぐらせる事件でもあった。
―関連キーワード
マンモグラフィー。乳がんの早期発見のために、乳房をX線撮影する方法、あるいはその装置。受診者の乳房を装置の撮影台に乗せ、プラスチックの板で乳房を台に強く押さえつけてから、撮影する。約30分間の処置となる。
英国に住む47歳から73歳の女性(昨年までは50歳から70歳)は、3年ごとに無料でマンモグラフィーを受けるよう国民保健サービス(NHS)から連絡を受ける。
2007−8年の1年で、170万人を超える女性がマンモグラフィーを利用した。早期発見となったために乳がんの進展による死を免れた割合は20−30%と言われている。しかし、すべてのケースを発見できるわけではなく、10%は見逃すとされる。初回で疑わしい兆候が見られ、再検診を受けるのは20人に1人であるという。(ブログ「英国メディア・ウオッチ」より)
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