2012年02月14日17時14分掲載
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ロシアン・カクテル
(35)「ロシア人は暗い」だろうか? タチヤーナ・スニトコ
ロシア文学ではハッピーエンド(happy end)が少ないということは有名である。
ロシア人についての見方はステレオタイプが多い。一方、「ロシアユートピア論」と言える考えでは、ロシア人は不思議な心(ドゥシャー;ロシア語: душа)を持っていて、感情的で、優しくて、客好きの怠け者である。又一方では、「ロシア人は悲観しがちな運命論者であり、苦悩が好きで、権力には柔順に従い、自分の利益に背いて行動する」という考えもある。こんなロシアの複雑な文脈の中で、ロシア人にしか理解出来ないジョークが生ずる。一つの例をあげる:
救急車が道に沿って走っている。死んだ一人の男の頭が救急車の後ろの車道に転がっていて、「俺はちょっとパンを買おうとして出ただけなのに!」と言っている。
このジョークを聞く人は、「ロシア人というのは心が暗い」と恐らく結論づけるに違いない。しかしロシア人には、この状況に可笑しみをおぼえることは可能である。何故ならロシア文化においては、人生や運命というものに対する特殊な運命論的な生き方が背景にあるからである。人は次の瞬間には何が起こるか知らない。運命に甘んじて従うしかないのである。
又、現在ロシア人の話には有名な小説からの引用文か有名なシーンからの引喩が多い。このジョークは、明らかに小説「巨匠とマルガリータ」 (ミハイール・ブルガーコフ)からの一場面からの引喩である。この小説の中で、文芸雑誌の編集長であるベルリオーズ はヴォランドと名乗る風変わりな“外国人の男”(悪魔)との会話の中で、「ゴッド(The God:神様)は存在しない。人は自分の運命は自分で決めることができるのだ。」と断言しました。ヴォランドはベルリオーズに五分後には何が起こるかわかりませんよと言って、ベルリオーズの死を予言した。その予言では、ベルリオーズは若い女性に頭をかき切られるという予言だった。ベルリオーズはヴォランドの言葉を信じなかった。しかし、その後間もなく市内電車のレールの上で滑って電車に轢かれ首が切り落とされてしまった。その電車の運転手は若い女性だった。
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20世紀のロシア一番好きな小説「巨匠とマルガリータ」には、場面になったスターリン時代のモスクワでは「善」と「悪」は入り乱れている。現在のロシアでも永遠の「善」と「悪」の戦いは緊要な問題となっている。3月4日に行われるロシアの大統領選挙はどうしても笑ってなんかはいられない。悲しいジョークが生まれている:
2012年の春、ロシア人は又難しい選択しなければならない。
それは、“プーチン?”か“プーチン?”、それとも“プーチン?”?
(ジョークの解釈:その選択肢は極めて限られていて、「“プーチン?”か“プーチン?”」又は初めから「“プーチン?”」だけというものである。)
現在のロシア事情は人々に暗い思いをさせ、ある人々の行動もソビエト時代を思い出させる。次のジョークのように:
―あなたには良心がありますか?
―はい。良心はありますが、使いません。
ロシア人は暗いのだろうか?
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