2012年03月18日22時35分掲載
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文化
【演歌シリーズ】24) 番外篇 あれから一年 福島市から“原発”発言 (1)―信夫山、花見山、阿武隈川も泣いている― 佐藤禀一
私の住んでいる福島市。東京電力福島第一原子力発電所(以下、福島第一原発)から北西へ60キロ、風下にあたる。事故後一年、2012年3月11日の放射線量毎時0.76マイクロシーベルト(文科省、福島県定点観測)。国は、原発事故の収束宣言をしたが、福島市にある山・湖・沼、福島市を流れる川、福島市に住む人の心が大変なことになっている。
信夫山(福島市)の柚子出荷停止
市の中心部にポツンと一つ山がある。信夫山(しのぶやま)。裾野は、同じだが、熊野、羽黒、羽山の三山からなり、市街地を一望でき夜景を楽しめる展望台、子供の森公園、一角の露出した岩肌に刻まれた60余体の魔崖仏などがあり、ハイキングコースも整備され、市民に親しまれている。柚子(ゆず)北限の産地とも言われている。
福島市には、大小の温泉がいくつもあり、信夫山の柚子を入れた“温泉のゆず湯”は、冬の風物詩だ。信夫山柚子を入れた風呂に入ると何とも言えない香りに全身が包まれ、身も心もほのぼのとおだやかになる。昨年の冬至の日、その楽しみが奪われた。国の基準(1キロあたり500ベクレル)を超える放射性セシウムが検出され収穫できなかったからだ。柚子だけでない。信夫山子供の森公園の2月21日の放射線量は、2.30マイクロシーベルトと高い。福島市のシンボル信夫山は、山ごと放射能に汚染されている。
福島市には、もう一つ花見山という美しい山がある。個人の持山で、全山が花色で彩られる。3月下旬から5月上旬まで、蠟梅(ろうばい)、連翹(れんぎょう)、彼岸桜、染井吉野、花桃……が咲き乱れる。山だけでなくこの地の15軒の花木農家が、私有地を開放、村ごとが花色で染まる。写真家の故秋山庄太郎をして「福島に桃源郷がある」と言わしめ、全国区の観光地となり、一昨年32万人、震災のあった昨年でも9万人が訪れた。この公開を今年は取り止めると言う。表向きの理由は「長年の観光で、痛みが激しく、花木を養生させるため」であるが、明らかに放射能の影響だ。2月14日調べの放射線量は、2.30マイクロシーベルト。
阿武隈川も汚染
川も大変だ。昨年6月から8月にかけ、文科省の委託で京都大学、筑波大学、気象研究所などが、福島市を流れる阿武隈川(あぶくまがわ)の放射性セシウムの総量をはじき出した。海に流れ出る量が、1日あたり約500億ベクレル、福島第一原発事故で、東京電力(以下、東電)が海に放出した低濃度汚染水のセシウム総量に匹敵する。この川は、福島県の郡山市、二本松市、福島市、伊達市を北上、宮城県岩沼市で太平洋に注ぐ。福島市周辺の阿武隈川の放射線を出す強さは、一日当たり、セシウム137が925億ベクレル、同134が838億ベクレルと推定された。流域の土手などに付いたセシウムが、降雨などで少しずつ流れ出たのであろう。
河川の汚染は、鮎、山女(やまめ)などの川魚を汚染し、海を汚染し、海の汚染は、海底近くにいる鰈(かれい)、眼張(めばる)、鮎魚女(あいなめ)などを汚染し、山の汚染は、山菜、茸、栗などはもちろん、猪、狸などの野生の動物・鳥類を汚染した。セシウムは、土壌からの連鎖、食物連鎖を通して生態系にも影響を与えている。
除染は移染……
世上は、除染さえすればという空気だ。その方法も、例えば、アスファルトや建物の屋上は、高圧洗浄で十分だとするのと、それでは、セシウムをただ飛散させあまり効果が無く瓦を壊してしまい、その部分を交換しなければ……という声もあるように様々だ。大手ゼネコン(原発をつくったゼネコン)が、参入、放射線量の高い一部地区は国が、あとは市町村が発注。除染した土の行き場がなく、その敷地に埋めて保管するしかないのだ。これって除染? 放射能は、消えない。半減(半分になるだけ)も気の遠くなる程の時間がかかるのもある。単なる“移動”にすぎないのではないか?
遅々として進まない福島市の除染。山川海などとてもとても……
福島市の除染は、まず線量の高い山あいの大波地区(昨年12月米出荷停止)からスタート。除染モデル事業として行われた。2月2日渡利地区(ホットスポット)で作業が始まった。汚染土の行き場はなく、それぞれの私有地に掘って埋めるのだという。それとて、遅々として進まない。ましてや、信夫山、花見山、阿武隈川の除染など手が及ばない。膨大な人手がかかり、また、どこまでやっていいのか……。いまは、山・川・海より住宅なのだ。
でも、山を除染しなければ、滞積した放射能が、雨などで流れ、周辺を汚す。山をどうやって除染するの? 木も草も刈り取り、土を削り丸坊主にすると言うの? そうすると山は、山でなくなり、生態系が壊れ新たな災害をもたらすであろう。川は、総ざらいすると言うの? 海は……。
放射能汚染土は何処へ?
政府は、言う。「福島県内に汚染した土の永久貯蔵地は、設けない」そして、福島第一、二原発立地双葉郡8町村内に、“中間貯蔵施設”設置を要請した。年50ミリシーベルト以上の帰還困難地域である。
受け入れの方向、拒否、迷い……事故前の用地価格で買い取りなどの条件を出されても8町村は、苦悩している。“中間”即“永久”と感じているからだ。
被災地のがれき(福島県は県内処理)を受け入れているのは、3月11日現在、青森、山形、東京の三都県と神奈川、静岡県の一部自治体だけだ。それも、放射能汚染がないのが条件。汚染を不安視する住民の反対で、ほとんどの道府県が、拒んでいる。福島県外永久貯蔵地など望むべくもないのである。
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