2012年05月03日16時13分掲載
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コラム
メールマガジンが100号を迎えて 鬼塚忠(作家、出版エージェント)
アップルシード・エージェンシーのメルマガが、ついに100号になりました。気がついたらそうなったという感じです。月一回発行しているので、8年と4カ月前に始めたことになります。100号は単なる通過点でしかないと分かっていながらも、感慨深いものがあります。
これまで、朝から夜までとにかく働いた、という記憶しかありません。しかし最近思うことは、がむしゃらに働くだけではもう通用しなくなった。この一年、明らかに出版界の流れが変わってきて、その流れを見ながら汗をかかないと、徒労に終わる可能性が高くなります。
テクニック的なものは売れなくなり、お金を稼ごうとか、評価を上げようとか、そういう目先の話に人は興味を持たなくなり、逆に、人間はこうあるべきである、幸せとは何か、というような哲学的な本に、人の関心は移ってきているように思います。
お金を稼いでも、資産を築いても、不況や災害などで失われる時は失われる、ということを認識しはじめたのです。失われやすいものより、決して失われないものの考え方を得る方が、価値があると読者は思うようになったのです。これは不況が産んだ、非常にいい副産物だと思っています。
また無視できないのが電子書籍。まだまだ日本では普及しないと思っていましたが、着実に広がっています。実際に弊社で扱った電子書籍で4万部売れた作品もあり、市場は着実に大きくなりつつあります。そして面白いことに、電子書籍の販売サイトであるAppstoreを見ると、ランキングの上位は大手出版社ではなく、ほとんどが名前も知らない新興出版社。 紙の書籍は、大手の出版社の方が流通しやすい状態ですが、電子書籍市場においてはまったく関係ない。センスがあって、やる気のある若い出版社が実力を発揮できる場所なのです。なので、これからの電子書籍市場は面白くなる。大手出版社だって出す駒を間違えれば、電子書籍の市場で失敗をする可能性がある。まさに、群雄割拠の戦国時代になろうとしています。こういう世界を待っていた。
弊社もいい企画書を作って、出版社に売り込むだけでいいと考えているわけではなく、電子書籍と紙の書籍の権利バラ売りなど、販売の手法を工夫しながら、試行錯誤しています。とはいっても、紙の書籍の売り込みは重要。
つい先日も、1年半も売り込みを続け、やっとの思いで出版を決めた企画があります。企画が通った時の喜びはいまだに自分ごとのように感動します。難産の企画は何度も試行錯誤し、細部にまで目を光らせますから、売れる可能性が高いのです。弊社の作家でも、売れっ子作家はまず間違いなく第1作目は難産でした。
来月にはメルマガは101号となります。このエージェント業は大好きな仕事。今後、出来るだけ永く会社を存続させたい。会社を創立してから10年経ちますが、10年存続する会社は全体の5%、20年存続する会社は、そのなかから5%だと税務署の統計が出ています。その数字の重さを最近感じているところです。
会社を存続させることは、ベストセラーを1本出すことより、小説を映画化することより、はるかに難しい。これからも、どうぞよろしくお願いいたします。
鬼塚忠 (作家・出版エージェント)
「アップルシード・エージェンシー」代表
http://www.appleseed.co.jp/
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